お忍び[前]

 さて。エレナが灰色ローブの男に着いていき、宿を紹介してもらう時。ベンチを立って歩き始めた時間から、しばらく時を遡る。



 それはアインがマグナに到着した頃にまで遡り、見る人によっては暴動……そう思われるほど、多くの人々に迎えられた時のことだ。



「……お母様。これはさすがに多すぎじゃ」



 王都を出るときも、アインとオリビアの二人は、多くの人々に見送られて出発して来た。

 そして到着したマグナ。そこは王都とは比べ物にならない程の、多くの人々がアインの到着を待ち望んでいた。



「え、えぇ。少し……いえ、本当に多くの人達ですね」



 王家専用列車が停車する場所。そこから見えるのは、隙間が無いほど押し寄せた、イシュタリカの人々だった。

 今はまだ日中のため、空を見ると天高く陽の姿が見える。



 だがそれでも、おそらく彼らイシュタリカの民の足元は、きっと影しかないだろう。

 そう考えてしまう程、隙間が見当たらない人口密度だ。



「オリビア様の人気はもちろんですが、やはり今回ばかりは、アイン様を称える声が大きいようですね」



 隣に立つマーサが、二人にそう語り掛ける。



「なにせアイン様は、ここマグナでは誰よりも英雄的です。それこそ、初代陛下と並ぶほどの人気ですから……」



 海龍騒動のときのアインの活躍。それは生きた伝説として、マグナで今でも語られている。

 単独での海龍撃破、それ自体でも英雄的な働きなのだが、やはり一番被害を被るはずだったマグナからすると、その影響は計り知れない。



 アインとオリビアが耳を傾けると、確かにアインを称える声の方が多く聞こえてくる。



「うーん。どちらかというとお母様を優先してほしいのですが……」


「あら、アイン。私なら平気よ?むしろアインが称えられる方が、私にとって幸せですもの」



 愛するアインが褒められて、オリビアが悪い気分になるはずがない。むしろアインを称える方が、彼女にとっては幸せになれる。

 なにせ一目見ればわかるほど、今日のオリビアは機嫌がいい。



「さぁアイン、手を振ってあげて」


「わ、わかりましたっ!」



 頬がくっつくほど近づくオリビアを見て、アインは視線をオリビアから移し、民衆に向ける。

 すると地響きのように伝わる歓声が、アイン達を包み込んだ。



「……アインを焚きつけておいてなんだけど」


「えぇ。本当にすごいですね、オリビア様……」



 二人がつい素になって戸惑う程、大きな歓声が鳴り響く。



「アイン様、オリビア様。そろそろこちらへどうぞ、本日はご休憩していただくので、まずは宿に向かいましょう」



 アイン達の様子と、民衆の様子。それを観察していたディルが、頃合いを見計らって声を掛けた。



「馬車を用意しております。我々近衛のほうで護衛を致しますが、場合によっては、窓を開けて手を振るのは、控えて頂くことになるかもしれません」


「あー、うん。そうしたほうがいいかもしれないね……」



 先程の様子を見れば、ディルが口にしたことも分かる気がする。

 アイン達だけではなく、むしろ見に来てくれた者達も怪我をしかねない。



「それでは、お母様。そろそろ行きましょうか?」


「そうね。マーサもいいわよね?」


「はい。ではご案内いたします」



 そうして前を歩き始める、グレイシャー親子。

 最近では、前以上に二人が揃ってる様子を目にする気がする。



「……お母様」


「はーい?どうしたのアイン?」



 一歩先に踏み出したオリビアを見て、アインは一つ思いつく。



「王女様が一人歩くというのもなんですし、俺がエスコートします」



 アインはそっと手を差し出して、立ち止まったオリビアはアインの手をじっと見つめる。



「……では王太子殿下?エスコートしていただきますね」



 ニコッと微笑み、アインの手に自分の手を重ねる仕草。

 その仕草や表情を見ると、やはりララルアの子なんだとアインは実感した。



 ——……ただし、第一王女は除く。




 *




 移動して、馬車に乗りこんだ二人だったが、結局はディルの助言通りにした。

 もし窓を開けて手を振ろうものならば、本当に怪我人が出ていたかもしれない。



 アイン達が乗る馬車を一目見ようと、数多くの民衆が押し寄せる。

 一線は引いて見にきているものの、やはり、興奮する気持ちは抑えるのが難しかった様子。



 宿に着くまでの十数分。

 馬車の中の会話すら、お互いが近づかなければ聞こえづらい……それほど多くの歓声だった。



「ここまで来れば安心……いえ、失礼しました。失言でしたね、ここまで来ればごゆっくりしていただけます」



 宿に到着したアインとオリビア。

 一足先に到着していたマーサが出迎えて、二人にこう話しかけた。



「王都に戻るまでの日程分、宿の全部屋を抑えてございます。なのでこの宿には、関係者以外は立ち入ることがございません」


「うん。じゃあ防犯も問題ないね」


「近衛騎士も多く見回りますので、ご安心くださいませ」



 宿に入ると、先ほどまでの怒号が嘘のように静かになった。ロビーに置かれたソファに腰かけ、額に浮かんだ汗を拭う。



「それにウォーレン様の部下もおります。なので、防犯体制は万全でございます」



 王族が2人来る。そうなれば、こうした防犯体制も当然の事。



「最上階にあるお部屋が、お二人のお部屋となります。中に入ると、いくつかの寝室とリビングスペースが用意されておりますので、お二人のご自由にお使いいただければと」


「えぇ、ありがとうマーサ」



 マグナは多くの貴族が来るため、そうした施設も多く建てられている。

 その中でも、今回泊まる宿は一級品。以前はシルヴァードも宿泊したほどに、格式高い最高級の宿だ。

 この宿を貸切るとなれば、それなり以上の金額がかかる。だがそれでも、こうした防犯対策は必須な事。



「失礼します。……アイン様。ただいまを以て、近衛騎士の配置が終了。また、マグナの騎士の配置も完了致しました」


「わかった。異常はない?」


「はい。強いて言うならば、多くの国民が押し寄せているため、その警備に苦労しているぐらいでしょうか……」



 苦笑いを浮かべてそう口にするが、アインもそれには納得する。先程の光景を目の当たりにすれば、騎士達の苦労も理解できるものだ。



「……まだそんなに暑くないけど、倒れないように気を付けさせといて」


「ははは……承知致しました」



 まだ春先で、外の気候は過ごしやすい程度の暖かさだが、こうまで人が多いと暑さも感じる。

 それはディルも同じようで、先ほどのアインと同じく額の汗を拭う。



「アイン。そろそろ部屋に行きましょうか」


「わかりました。……じゃあディル、行こうか」


「はっ!」




 オリビアの提案を聞き、アインも立ち上がり、彼女の近くへと進む。



「ところでマーサ?私いつも思うんだけど、わざわざ上の部屋じゃなくていいのよ?」


「……そうはいいましても、部屋の格で言えば、やはり最上階に近い方が上等ですので」


「別に、そんなに上等じゃなくてもいいのに」



 苦笑いを浮かべ、オリビアが答えた。




「お立場がございますので、ご了承くださいませ」


「もう……いつもその返事なんだから」



 アインは隣を歩きながら、オリビアとマーサの会話を聞く。



「お母様。夕食はマグナの海鮮を頂けるでしょうから、楽しみですね」


「ふふ、そうね。でも、あわよくばアインと二人でお散歩も……って思ってたけど、それは無理そうで悲しいわ」



 その言葉を口にすると、オリビアは本当に残念そうな表情を浮かべた。



「俺もできればそうしたかったですが、さすがに難しいかと……」



 先程までの光景を思い返せば、どうやっても二人で歩くのは無理な気がする。

 歩くだけでも暴動のような騒ぎだ。



「うぅん……。アインが人気なのは嬉しいですけど、少し寂しいですね」


「オ、オリビア様?なんとか案を考えてみますので、どうか、無言でアイン様とお出かけになるなんてことは……」


「大丈夫よ、マーサ。我慢できなくなったら、堂々とマーサに声かけるわ」


「いえ、それも受け容れることは無いと思いますが……」



 悪戯っ子のように微笑みながら、マーサを困らせるオリビア。

 やはり今日のオリビアが機嫌がいいらしく、いつも以上に彼女らしさに満ちていた。



「——お母様、どうぞ」



 階段に差し掛かったところで、アインがオリビアに手を差し出す。



「……はい。ありがとうございます。アイン」



 階段の一段下から微笑みかけるオリビアは、いつも以上に、宝石の様な輝きを放っていた。




 *




 いくつもの階段を上り、アインは用意された部屋に到着する。



 一歩踏み入れて感じたことだ。この部屋はイストやバルトよりも高級で、いつも以上に費用が掛かっているだろう、と。

 ちなみにディルは、少しの間扉の外で番をするとのことだ。



「思っていたよりも、凄くいい部屋ですね」



 一言でそう口にするには勿体ないが、アインの率直な感想だった。



 "思っていたより"というのは、イストやバルトでの部屋をイメージしていたから。決して金銀財宝を使った家具がある、そういう事ではないのだが、絨毯の柔らかさや鏡の輝き、そして、傷一つない美しい彫刻を施された家具。



 白い大理石の様な色を基調とした、清潔感に溢れる美しい部屋だった。



 目の前には、一面の海景色が広がっているため、この景色にも大きな価値があることだろう。



「それに窓も大きい」



 アインは部屋に入ると奥に進み、透明感に溢れる窓を開く。窓を開ければ人々の喧騒と共に、波の音が聞こえてきた。



「えぇ……潮のいい香りがしますね」



 アインのすぐ隣にやってきたオリビアが、窓から入る空気を楽しむ。



「……そういえば、オリビア様?」


「えぇ、なにかしら?」



 オリビアが振り返らずに、マーサの声に返事をした。



「実は前々から気になっていたのですが、オリビア様は、海風はその……潮のせいで、体調に悪い影響が出たりはしないのですか?」


「ご、ごめんなさい。マーサ……言ってる意味が分からないのだけど」



 困ったような表情を浮かべて、振り返ったオリビア。



「種族としてはドライアドですので、潮は悪影響かと思いまして……」


「あぁ、ドライアドって意味で気になってたのね」



 合点がいった様子で、小さく顔をほころばせる。



「うーん……。でもね、以前は港町に住んでたことがあるんだけど、その時は何も影響なかったのよ?」


「以前に、ですか?」


「えぇ。実は私ね、昔は港町に住んでいたことがあるの」



 明らかにラウンドハートでのことだろうが、オリビアは頑なとしてその名を口にせず、ただの世間話のように語りはじめた。



「その時には、何度かアインと海辺にお散歩も行ってたの。でも体調も変わらなかったし、大丈夫なんじゃないかしら」


「そ、そういうことでしたら……安心です」



 そう言ってマーサが微笑み、彼女もその港町については言及しない。

 それどころか、拳を見ると力が入っているようで、血管が浮いていた。



「アインはどうですか?身体が辛くなったり、そういうことはあったかしら」


「いえ。思い当たる節はないですね」


「わかりました。でしたら、お二人ともそうした悪影響はないということですね。しっかりと覚えておきますので」



 納得した様子のマーサを見て、オリビアがもう一度海に目を向ける。



「あ、ほら見てみてアイン。あそこにたくさん魚がいますよ?」



 オリビアが嬉しそうな声をあげ、隣に立つアインに声を掛けた。



「えーっと……どこだろ」



 アインは一生懸命探すが、オリビアが見ていた方向が分からない。困った様子で探していると、そんなアインに助け船が入った。



「違うの。そっちじゃなくて、もう少し左側……あっちですよ」



 横顔が近づき、呼吸音ですら聞こえる距離になる。

 すると、オリビアが手でその方向を指し示し、アインにどこに群れが居るのかを教えた。



「あ……ほ、ほんとだ!たくさんいますね!」



 王都の港では見れないような、銀色の集団が目に映る。

 陽に照らされて表面が輝き、海の中で財宝のように輝いていた。



 その珍しい光景を見て、アインも心躍らせる。



「オリビア様、アイン様。少し遅めですが、ご昼食の用意ができました」


「えぇ、ありがとう。それじゃアイン、早速いただきましょう」


「わかりました!」



 マーサの声を聞き、アインとオリビアが部屋の中央、大きめのテーブルが置かれた場所に向かう。



「一日早く到着した、城の料理人が作っております。また、せっかくのマグナという事で、朝に獲れた食材を使っておりますので、是非ご賞味ください」


「……うん、いい香りね」


「お腹も空いてたので、余計に香りが心地いいです」



 アインの言葉にオリビアが笑みを零し、向かい合って椅子に腰をかけた。





 *




 美食に舌鼓をし、新鮮な食材を楽しんだ二人。

 オリビアだけでなく、アインも同様にマグナの食べ物が好みのため、二人は食事をいつもより楽しんだ。



 食後は何をするわけでもなく。ただ、マーサの淹れたお茶で口を潤す。



 日程を言えば、今日と明日は特に用事がない。

 一応、宿の中でする仕事はあるのだが、大した量ではなかった。



 茶を飲みながらも、徐々に茜色に染まる空模様。陽が沈む光景を見ながら、アインはゆっくりとした時間を過ごしていた。



「もうすぐ夕方かな……」


「えぇ、そうね。こんなに綺麗な景色なら、本当にずっと見ていたいですね……」



 王都で過ごす夕方よりも、より一層コントラストに富んでいる。

 人の賑わいは聞こえてくるが、波の音が混じっており、中々に情緒溢れる時間だった。



 ——コンコン。



「少々お待ちください。私が確認して参ります」



 唐突にドアがノックされ、その音を聞いたマーサが向かう。



「はい。どうなさいましたか?」


「私です。ディルですが、外の騎士から報告が届きましたので、アイン様にご連絡を」



 するとマーサが扉を開けて、外に居たディルを中に通す。



「ご歓談中に失礼致します」



 アインが座るところに来たディルが、一度礼をしてから口を開く。



「外の騎士から報告が届きまして、日中の様な騒ぎは収まりつつあるとのことです。現状としては、繁忙期のマグナ程度の賑わいとのことでした」


「それはよかった、安心したよ。それと、怪我人とかは?」


「おりません。しかしながら、民衆の小競り合いが何度かあったらしく、そのために出動は致しました」



 苦々しい顔でディルが口にしたが、そうした事はしょうがない。



「人が多いからさ。そういうことは防ぎきれないよね、でも大きな事故が無かったなら何よりだよ」


「仰る通りです。……では、私はもう一度警備に戻りますので」


「い、いやいやいや!そろそろ休んでいいってば、ね?」



 踵(きびす)を返し、警備に戻ろとするディルを引き留める。



「ねぇマーサさん。そろそろ休憩でもいいよね?」


「……私としましては、ディルは身近に置くべきかと思います。当然、親としての贔屓目はございません」


「わかってるよ、ディルが優秀なのは俺が一番知ってるから。……でも働きすぎだから、そろそろ休憩して!」



 思えば、陽が傾くまでずっと警護に当たっていた。

 それどころか、王都からの時間を思えば、休憩なしでその仕事に追われていたのだから、そろそろ休憩の一つはとってほしい。



「ディル。アインがこう言ってるから、休んであげてくれないかしら?」



 そこでオリビアの言葉も重なり、ディルもさすがに折れ始めた。



「そ、そこまで仰ってくださるならば、大変恐縮ではありますが、一度休憩をいただこうかと」


「そうしてもらえると助かる。ちゃんとご飯食べて、少し体を休めてきて」



 重ねて休めと口にするアインを見て、ディルも休むことに決める。



「畏まりました。では一度、休む時間をいただきます。……外の警護は、別の騎士に任せます。なので、なにかございましたら何なりとお声がけください」



 最後はそう口にして、ディルがアインの下を去っていった。



「……さて、と。少し早いけど、お風呂に入ろうかしら」



 するとオリビアが口を開き、マーサに向かってそう告げた。



「マーサ。お手伝いしてもらってもいい?」


「承知致しました。ではご用意いたしますので、その間は、アイン様へと別の給仕をお呼びしますね」


「あぁ、それはいいの。アインにはお使いを頼むから」



 ——お使い?



「お母様?お使いとは……」


「アイン、町に行きたいんですよね?」



 確かにアインは、オリビアの『散歩に行ければ……』、その言葉に同意した。



「……お恥ずかしながら、実は行きたいです」



 ははっ、と小さく笑い、返事をする。



「お父様から借りてきた良い物があるの。それをアインに渡します。だからそれを羽織って、少しお散歩してきていいですよ」


「オ、オリビア様?そんな急に……」


「アインは外に出たがるだろう。……お父様がそう言って、貸してくださったの。だから大丈夫よ」



 そういってオリビアは立ち上がり、近くに置いた一つのバッグを開き始める。



「それに今日は、ウォーレンの部下の中でも優秀な女性がいるから……っと、コレね」



 取り出したのは"灰色"のローブ。生地を見ると、決して安物では無さそうだが、シルヴァードがそれを貸与した理由が気になる。



「アイン。このローブはね、大地の紅玉と似た性質があって、身体を守ってくれるらしいの。大地の紅玉ほど、作るのに時間とお金がかかるものじゃ無いから、強い効果は望めないのだけど……」



 そのローブを手に持って、オリビアがアインの近くに寄る。

 するとアインの後ろ側に回って、そのローブを広げた。



「はい、アイン?手を通して」



 第二王女に服を着せてもらう。しかも、その第二王女はオリビアなのだから、こんな嬉しいことは他にない。



「あ、ありがとうございます」


「ふふっ……いえいえ。うん、大きさも大丈夫ですね」



 アインが腕を通すと、アインが来やすいように動くオリビア。

 羽織り終わったアインに触れて、そのサイズ感を確認した。



「オリビア様?まさかアイン様に、お忍びのようなことを……?」


「えぇ、そうよ?"大きくなった"アインなら、そんな危険な目に会うはずがないもの……だから大丈夫」



 確信めいたように語ったオリビアは、言葉だけでなく表情にも自信が満ちていた。



「仰る通り、アイン様は逞しくお強くなられました。それはその、私の夫も認めております。ですが万が一を思えば……」


「お父様から聞いたのだけど、お父様もベリアに隠れて、これを着てお忍びしてたことあるらしいわ」


「へ、陛下まで……」



 アインとしても初耳だ。

 まさかシルヴァードにも、そうしたやんちゃ時代があったとは。



「それにさっきも言ったけど、ウォーレンの部下が今回は多いの。それにね、ハイムに行ってたリリも戻って来てるから、彼女もいるし安心できるでしょ?」


「リ、リリ様までいらっしゃるなら、まぁ幾分か……」



 ハイムに単独任務で向かっていたリリ。

 時折、時間を見つけてイシュタリカに戻って来ていたこともあるが、基本的にはハイムに常駐していた。



 アインもなんだかんだと、そのリリと会話をしたことはある。

 人となりを述べるならば、マーサのような性格に、カティマの悪ふざけが混ざったような印象を抱いている。



「もう一つ言えば、どこを見ても騎士がいるわ。だから大丈夫よ」



 頑なに大丈夫と語るオリビアを見て、マーサは『これはダメだ』と考えてしまう。

 今日は警備が強めのため、オリビアが言うように、どこを見ても騎士があるいていることだろう。



「……わかりました。ですがあまり長い時間は認められませんよ!長くとも1時間です。それ以上は許可できません!」


「十分ね。……さぁ、アイン?お散歩を頼んでいらっしゃい、私の分もね」



 唐突に許可されたことに、アインは徐々に気分を高揚させる。



「ほ、本当に行ってきていいんですか?」


「えぇ、いいですよ。私はお風呂に入ってますから、気を付けていって来てね?……それと、一応お使いだから、屋台で売ってるものでも買ってきてもらおうかしら」



 そう言いつつ、オリビアはアインの正面に行くと、ローブの紐を結んでいく。



「ではお言葉に甘えて、少しマグナの町を楽しんできます!お土産も期待していてくださいね!」



 ——こうしてアインは、陽が沈み始めたマグナに繰り出していった。


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