師匠の師匠と、極寒の地。

「アイン様。お食事中に失礼いたします」


「あれ?マーサさん、どうしたのこんなとこに」



 ディルが騎士たちを沈めた……鎮めた後、アインは3人の友人たちと共に、騎士食堂の食事を楽しんでいた。

 基本的には巨大な肉と、いくつかの副菜とスープで纏められたメニュー。それは一言でいえばボリューミー。ちなみに訓練後の騎士たちは、この食堂を無料で使えるため、彼らにとってはありがたい話だ。



 そんな騎士食堂へ唐突に表れたマーサの姿に、アインはどうしたのかと尋ねる。



「大変申し上げにくいのですが……午後のご予定が」



 アインはゆっくりしすぎたのだ。早めに食堂に来たつもりが、つい世間話や、今日の感想などをみんなと語り合っていた。するとすでに正午を過ぎ、アインの午後からの予定が近づいてくる。



 マーサは言いづらそうにしているが、彼女の失態ではないため、アインも同じく近い表情を浮かべる。



「あーそっか……ちょっとゆっくりしすぎたかな」


「えぇ、もうそろそろご準備をする必要がございます……。そしてディル、貴方はお客様のご案内を続けてください。いいですね?」


「承知しましたマーサ殿」



 さすがにお母様とはいわず、マーサ殿と呼んだディル。名残惜しいが、アインは午後からの予定のため、彼らと別れて移動しなければならない。



「みんなごめん。実は午後から予定あるんだ。場所は城内だから大丈夫だけど、大事な用事だから先に抜けさせてもらうよ」



 アインは3人の方を向いて、申し訳なさそうにそう告げた。



「殿下、どうかお気になさらず。一応今日の見学内容は終わってるので、先に抜けても問題ございませんよ」


「あぁそうだな。楽しかったぜ、じゃあまた学園でな!」


「また学園で!」



 友人たちはアインが先に抜けることを、全く気にしていないことに安心した。3人の返事を聞いた後は、自分の隣に座っているディルに話しかける。



「ディル。任せていいかな?」


「勿論です。私が責任もって、城門までご案内するのでご安心ください」


「……ならよかった。じゃあみんな、今日はお疲れ様!」



 最初は嫌な気持ちばかりが募っていたが、カティマも封印した今日は、特に大きな問題もなく終えることができた。

 これが城内だったならば、また事情は変わったのかもしれないが……。



 問題があったとすれば、食堂の天使メイ事件ぐらいだろう。

 それも3人の友人たちには見られなかった、それを思えば悪くない結果だ。



 とはいえ、今日まで多少メンタルに影響を与えていたことを思い返すと、次の機会はないことを祈るばかり。



「ではアイン様。こちらへどうぞ、クローネ様もお待ちです」


「わかった。案内頼むね」



 次の予定のため、アインは騎士食堂を後にした。



 友人たちといるアインの姿。それをみた騎士たちは語った。普段見られないアインの姿を目にした、ちょっとした自慢話として……。




 *




「マーサさん、クローネはどこに?」



 食堂を出て、城へと歩き始めたアイン。少し前を歩くマーサに、クローネの居場所を尋ねた。



「執務室でお待ちになっておりますよ」


「なるほどね。それじゃクローネの執務室行きな訳だ」


「左様でございます」



 アインの質問にはすぐに答えが返ってきた。そのため、少しの静寂が2人を包む。アインはそれを丁度いいと思い、メイの事を尋ねた。



「あの、マーサさん?」


「はい?なんでしょうかアイン様」


「メイが食堂で働いてるなんて、全く知らなかったよ」


「そのことでしたか、実はですね……」



 なぜメイがあそこで働いてるのか。それを疑問に思っていたため、師匠のマーサにメイの事を尋ねるアイン。すると彼女の返事は、アインが考えていたことよりも遥かに深い内容だった。



「実は私も同じことをしたんです」


「マーサさんが、同じことを……?」


「はい。私も先生から、同じく食堂での仕事をさせられたんですよ」



 初耳だった。それどころか、マーサの師のことも知らなかった。今では一級給仕のマーサが、まさかメイと同じく食堂で働いていたことがあるなんて、アインからしてみれば驚きでしかない。



「あのように忙しい場でも、優雅に振舞いなさいって言われたんです。……メイはまだ優雅に振舞うも何も、仕事を覚えるところからですけどね」



 そういって笑うマーサは、どこか懐かしむようにそのことを語り続ける。



「ですがいい経験になるはずです。多くの者の要望を聞き、それを最適な順序で叶えていく。結構大変なんですよ?」


「……うん。確かに大変そうにしてた」


「でもメイは、その大変なのを楽しめてます。……なのできっと。もう十何年もすれば、もしかしたら一級給仕になってるかもしれませんよ?」


「あれ、結構高い評価なんだねマーサさん」



 マーサは仕事に厳しい。そんなイメージがあったため、彼女がここまで褒めてるのは印象的に思えた。むしろ微笑みながらメイのことを語る彼女は、まるでメイの母の様にすら感じられる。



「必死になれる子は、何をしても立派になるものです。……まぁこれも、先生の言葉なんですが」


「……そういえば、マーサさんの先生って?」


「あ、あれ?アイン様……お伝えしてませんでしたっけ」


「聞いたことないはずだけど……」



 思い返してみても、アインはマーサの師匠なんて聞いた事がない。だがマーサとしても、特に隠すことではなかったのだろう。軽く咳払いをしてから、その答えを告げる。



「"ベリア"様ですよ。今給仕長を務めていらっしゃる、ララルア様の専属給仕のベリア様が、私の先生でした」



 それを聞いたアインは、簡単に納得することができた。ベリア……もう60代後半の老人だが、今でもララルアの給仕を務めている、城内の給仕の中で最も位が高い女性。



 もう若くないということもあり、基本的にはララルア以外の世話はすでにしていない。そのためアインも、彼女の姿を目にする機会は決して多くない。



 だが彼女……給仕長ベリアが如何にすごいのかは、アインもよく理解している。



 同じ茶葉を使わせても、淹れる人によって味が変わるのは当然のこと。だがそのベリアは、マーサすら霞むほどの一杯を淹れるのだ。



 全く同じ所作のように見えても、なぜか味や香りが変わってしまう。……長年給仕をしているマーサでも、給仕長ベリアの技は、今だに理解できていない。



 それにララルアが何も言わずとも、必要な物を用意する。……給仕界の化け物、それがベリアだった。



「なんて、昔話をしているうちにクローネ様の執務室ですね」


「……すごい興味深い話だったよ。ありがとうマーサさん」


「いえいえ。つまらない話でしたが、暇つぶし程度にはなれたようで光栄です」



 暇つぶしどころか、是非詳しく聞きたいと思ったのだが……まぁまたの機会にしよう。話しているうちに、クローネの執務室へと到着してしまった。もうこれで雑談は終了にするしかない。



「楽しい話だった。すごい人だからねベリアさんは……」


「えぇそうなんですよ。それに中々謎も多い方でして……昔はウォーレン様とお付き合いされていたとか。っと……余計な話でしたね。ではアイン様、私はこれで」


「え、ちょ……待ってマーサさん!?今なんて……」



 ここ数年で、トップクラスに気になる言葉を残していったマーサ。あのウォーレンが……?と思えば、気にならない訳がない。



「……い、いや駄目だ。今日は予定があるから……今度、機会があるときにじっくり聞こう」



 心の中でしっかりとメモしたアイン。これから予定があることを思い出し、クローネを待たせるのもよくない。そう考えて断腸の思いで我慢する。



『はいどうぞ』



 ドアをノックし、クローネの執務室へと入るアイン。

 これからアインは、クローネと共にウォーレンの場所を目指す。そしてバルトの件に関して、いくつかの打ち合わせを行うのだ。




 *




「ようこそアイン様。それにクローネ殿」



 クローネと合流したアインは、城内にある一つの会議室へと足を運んでいた。そこにはすでにウォーレンが待っていたので、アインとクローネは二人並んで、近くの席に腰かける。



「待たせちゃったかな」


「そんなことはございませんよ。ですがアイン様、午前中の行事は楽しまれていたようで何よりです」



 そう言うと、いつもの優しそうな顔になるウォーレン。アインとしても、今日になるまでは億劫な気持ちがあったのは否定できない。だが本番の今日、楽しめなかったなんて口が裂けてもいえなかった。



「……ご想像にお任せするということで」


「ふふ……左様でございますか。それは何より」



 ウォーレンが分からないはずもないのだが、ちょっとした抵抗のつもりで、本心は口にしないアイン。



「それじゃ早速だけど、打ち合わせを始めようか」



 前置きはこのぐらいにして、と打ち合わせが始まる。ウォーレンがいくつかの資料をアインへと手渡し、それに目を通す。



「旧魔王領。その一体に関しては、やはり多くの危険が伴います。本来ならば王太子のアイン様が、足を踏み入れることができる地域ではありません」


「……あぁ、わかってるよ」


「ですが状況が状況ですので、万全を期してそこを目指す。そのように致します」



 アインはてっきり、旧魔王領に関してはダメといわれると思っていた。まさか許可が出るとは考えなかった。



「近衛騎士を半数以上お付けします」


「なるほど。それぐらいの戦力なら俺も安心だよ」


「それはよかった」



 エリートの中のエリート、そんな近衛騎士達が多く護衛につくのは、アインとしては頼もしい。隣で聞いているクローネも、それを聞いてうんうんと頷いた。



「あとはクリスさんとディルが付くぐらい?」


「いえ。今回はクリス殿はバルトへは参りません」


「え、あれ……?クリスさんは来ないの?」


「彼女は一応元帥ですので、今回は見送ることに致しました」



 そう言われると納得もする。たしかにクリスは元帥だ、普通ならば、そう簡単に王都を離れるべきではない。



「なので、代わりといってはなんですが。ロイド殿をお付けしますので、ご安心ください」



 何時ものように、悪戯するときの笑みを浮かべたウォーレン。彼の悪戯は成功した、なにせアインがこんなにも呆然としているのだから。



 隣にいるクローネも、驚いた様子でウォーレンへと視線を送る。



「お爺様の専属護衛のはずじゃ?」


「立場としてはそれだけですからね……。それに陛下も、城に引きこもっていただく予定ですので、問題ありません」



 随分な言われようだが、実際シルヴァードはあまり外に出歩くことは無い。なので専属護衛が必要かといえば、考えてしまうのも理解できる。



「ロイド殿は張り切っておいででした。陛下からも許可は頂いてますので、問題はありません」


「……ちなみにクリスさんは何て?」



 ロイドとシルヴァードは乗り気なのだろう。二人がワイワイしてる様子が目に浮かぶ。

 するとクリスはどうだろう?アインとしても、クリスは自分のことを気に入ってくれてるという自信がある。そんな彼女は、今回の人事を何て言ったのか、それが気になってしまう。



「実はまだ伝えてないのです」


「……へ?」


「悲しそうな顔をされるとどうにも……。私も辛くなってしまうので、是非アイン様からお伝えいただけないかと」


「えー……そんな、悪役を押し付けるように……」



 わざとらしく手を振るウォーレン。おそらく確信犯だ。そう思ったアインだが、どうすることもできないのが実情。



「とまぁ。とりあえずクリス殿のことは置いておきましょう。後でアイン様から伝えて頂くということで」


「さらっと俺に押し付けたよね?ウォーレンさん?ねぇ?」


「では次に、アイン様と共にバルトへと向かう人員の数などについてご説明を」


「……はい」



 もういい、後で自分で伝えよう。そう決めたアインは、ウォーレンの言葉へと耳を傾ける。



「合計で122人ですな。大所帯です」


「そ、そんなに大所帯で行くの……?」


「それほど危険が伴うということで、ご納得いただければと」


「……ならしょうがないか。確かに危険な地域らしいからね」



 実際ウォーレンにとっても、どれぐらい危険なのか把握しきれていない。なにせ旧魔王領は、調査が進んでいない未開の地域。何が起こるか全く分かっていない。



「さて、ではクローネ殿?」


「はいなんでしょうか?」


「クローネ殿にはアイン様の側付きとして、お世話もお任せ致します。よろしいですね?」


「えぇもちろんです。お任せください」



 バルトへの旅の最中は、クローネがアインの身の回りの世話をする。そう言う意味だった。だが違和感がある、それほど大所帯なら、どうして給仕を連れて行かないのか?



「ウォーレンさん?給仕を連れて行かない理由って何かあるの?」


「いえ。勿論給仕も共に参ります。ただアイン様の身の回りの世話は、クローネ殿がするというだけですな」


「な、なるほど……わかったような、わからないような」



 ただアインにとって、クローネの方が気楽なのは違いない。納得しきれない部分もあるが、クローネが給仕の仕事をしてくれるのは分かった。



「アイン?給仕の人たちは、近衛騎士の世話もするのよ。アインの世話までしたら休む暇なんてないでしょ?」



 アインの左側に座ったクローネが、アインの左腕を掴んで説明を始める。あまりに自然な仕草に、アインも特に突っ込みを入れることはない。



「なんかそう言われると納得できるかも」


「それは何よりね。……でも貴方が先にいったのよ?『俺のクローネ』って。だから私が給仕みたいな事をしても平気でしょ?」


「それをここでいうか……」



 二人のやり取りを見ていたウォーレンが、それを微笑ましく見つめている。クローネがイシュタリカに来た時と比べて、随分仲睦まじい様子を見せるようになった。



それがどこか感慨深く思えてならない。



「クローネが給仕の仕事をしてくれるのは分かった。あとすごい大所帯で行くってのも。……それと、俺がクリスさんにお留守番っていう役なのも理解できた」



 若干の恨み言を混ぜた言葉。お預けをもらった犬のごとく、クリスは悲しそうな眼と顔を見せてくれるだろう。それを思えば気が重い。



 ウォーレンがアインに頼んだのには理由がある。例えばウォーレンが事務的に伝えるよりも、アインが伝えたほうが、彼女も気落ちしにくいのでは?という思惑があった。

 元帥として、騎士として……私欲は二の次だ。そんなことは誰もが分かっている、だが少しでも悲しい言を軽減できるならば、それに越したことはない。



「はっはっは!それは何よりですな。……さて、では次に。アイン様が出発なさる時期と、バルトの地域について、いくらかご相談が」


「あれ、時期ももう決まってるの?」


「無論です。これはクローネ殿にも初めてお伝えするので、調整をお願いします」


「畏まりましたウォーレン様」



 資料とは別に、手帳を開いてメモの準備をするクローネ。ちなみに細かい話をすると、そうした小物類は、すべて祖父の商会で用意されたものだった。



「これより二か月後、つまり秋に近づく頃に出発していただこうかと」


「また随分とすぐだね」


「近衛騎士や給仕、研究者たちの都合もすべて検討した結果、この時期が最善との判断を致しました」



 人員が多いこともあり、日程の調整も一苦労している。アインはそこそこ時間に融通が利くのだが、今回ばかりはそう簡単にはいかなかった。



「詳しい人事や行程などの情報は、来月初めまでに決定いたしましょう。その際はクローネ殿も、会議に参加していただきます」


「では私の方でも、そのように支度をしておきます」


「よろしくお願いします。……さて、ところでアイン様?」


「ん?何?」


「バルトの気候について、どの程度ご存知でしょうか?」



 気候?と心の中で復唱する。

 冒険者たちが数多くいて、近場には同じく数多くの魔物たちが生息している。そういった細かい事情については理解していたが、気候に関しては気にしたことがなかった。



「ごめん。勉強不足みたいだ、よく考えたら聞いたことがない」


「っと……失礼いたしました。お気になさらず。……ではクローネ殿はご存知ですかな?」


「えぇもちろんです。あのねアイン。バルトは一言でいえば、寒い地方なの」


「それってどのぐらい?」



 唇に指をあてて考え始めるクローネ。数秒そうしていたかと思えば、彼女なりに情報をまとめ終えたのか、すぐに説明を再開した。



「一年間のうち、半分ぐらいずっと雪が降ってる地方よ」



 なんでそんなところに、魔物も人も集まってるんだよと不満に思った。だがそれをクローネに愚痴ってもしょうがない。それは心の片隅に放置しておく。



「イストまでの距離と比べると、たしかに1割程度は近いの。だけどバルトまでは、平たんな道をほぼ直線的に進むから、いわゆる北国みたいな位置になるの」


「俺寒いのよりは、暑い方がましなんだけど」



 アインの可愛らしい文句に、微笑みながらからかうクローネ。



「わかったわ。それなら暑く感じるように、たくさん着込んでいきましょう?ちゃんと着させてあげるから安心してね」


「……なんか違う気がする」


「補佐官が有能で助かりますな、アイン様」



 ウォーレンまでもからかい始めたため、アインはすぐに話題を変える。この流れだと、いじり倒される可能性が出てくるからだ。



「まぁ冗談はおいといてさ、つまり俺の防寒具も新たに用意するってこと?」


「左様でございます。なにせアイン様がバルトへ行く頃には、すでに雪が降り始めてますので」


「早すぎだろ」



 秋に差し込む頃にはすでに雪が降る。そんな地方だとは思いもしなかった。魔物だけじゃなく、凍死にも気を付けなければならないようだ。……王都の気候が、随分と恵まれていることを学んだアイン。



「ちなみに今回は、人員が人員ということもあるので、王太子がバルトに行く。その御触れは出すことになります。内容としては、今ままで未開の地だった旧魔王領を、王太子が調査にあたる。そういう建前……まぁ建前でもないのですが、そのように御触れを出す予定です」


「公務みたいな形になるってこと?」


「そうなります。まぁそのほうが、こちらとしても予定を組むのが楽なのもありまして」


「まぁそうだろうね。それじゃ王家専用列車を出す感じなのかな」



 乗り込むときと、降りるときは結構面倒な王家専用列車。かなりの注目を浴びるため、それだけはあまり好きじゃないアイン。しのごに言える問題じゃないが、慣れるか慣れないかは別問題。



「勿論です。なのでちょっとした顔見せ程度に、手でも振ってくださればと」


「……さすがに無視はしないけどね」



 正直なことをいえば、ホワイトローズからのバルト行きの貴族向け車両も気になってはいた。内装はどうなってるのか、どんな列車なのか。アインの興味を強く惹いていたが、王家専用列車の乗り心地は最高だ。そう思えば、どちらでもアインにとって不都合はない。



「ですがウォーレン様。まさかロイド様がアインの護衛をするなんて……」


「クローネ殿の疑問もわかります。確かにロイド殿は指揮や個人の武。どれをとっても現在のイシュタリカで最強の人材です」



 何一つ偽りなく、ロイドは王都最強の男。だからこそ、本来ならばずっとシルヴァードの側に控えるべきだ。クローネはそう考えている。



「陛下としても、やはり心配だったのでしょう……。ここだけの話、先にロイド殿を付けるといったのは、実は陛下でしてな」



 むしろそれどころか、シルヴァードは当初。クリスも供にバルトに向かわせるつもりだった。だがそれはさすがに……ということで、ロイドとウォーレンが必死に止めていたのだ。



 実際シルヴァードは、基本的に城からでることがない。だからこそ、言ってしまえば宝の持ち腐れな部分もあった。それにロイドと調査をさせることで、アインにも新たな刺激があるのに違いはない。



 そのためロイドという選択は、今回ばかりは最善だった。



「さらに、本当はオズ教授にも協力を依頼しておりました。ですがどうしても予定がはずせないとのことで、数多くの謝罪が届きましてな」


「オズ教授がいれば、確かに心強かったね」


「そうなんです。ですが今回の調査団もなかなかの実力者ぞろいです。なのでご安心を、アイン様」



 イストでのことを思い出す。オズは何度も力になってくれて、最後には赤狐の魔石まで用意してくれた、アインにとっては最高の知恵者だった。そんな彼が、バルトへも同行してくれればどれほどありがたかっただろう。彼が多忙なことが悔やまれる。



「教授も忙しい身だ。だからしょうがない」


「アインがあんなに褒めてた方だもの、私も一目お会いしたかったけど……今回は諦めましょう」




 それからは、2時間程の時間打ち合わせを続けた3人

 バルトが極寒の地とは知らなかったアイン。そんなアインがバルトへと向かうのは、もうすぐの事だった。


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