このぐらい成長した。

「ッアイン……!アインッ!」



 お母様と口にしようとした矢先、その豊かな胸に抱きかかえられたアイン。

 体が成長してきた今となっては恥ずかしさもあったものの、母と再会できたことや大きな心配をかけたこと、多くのことが頭の中をよぎり、アインも素直にそれに答えた。



「ご心配をおかけしました。……今戻りましたお母様」


「お帰りなさいっ……本当に、本当に帰って来てくれてよかったっ……」



 隠すことなく涙を浮かべるオリビアに、申し訳ない気持ちでいっぱいになったアイン。

 自分が帰るまでどんな気持ちだっただろうと考えると、やるせない気持ちが心を占領する。



「お帰りなさいませ、王太子殿下」



 そして抱きかかえられたままのアインに声をかけるのはクローネ。彼女なりに必死に化粧で目の周りを隠そうとしたが、すべてを隠しきることはできなかった。

 もちろん充血した目は簡単にわかるため、アインも勿論それにすぐ気が付いてしまう。



「あぁクローネ。今帰ったよ、心配をかけてごめん」


「また軽く言うんだから……それにしてもアイン、なんだか変わったわね」


「俺が変わった?」


「えぇ。なんだか少しカッコよくなったかもしれないわ。一皮むけたのかしら?……ウォーレン様、今日この時だけは殿下へのこの態度、お許しいただければ嬉しく存じます」


「さて何のことやら」



 ウォーレンも黙認することにしたようだ。



「私もいくつか言いたいことはあるわアイン。でも最初はこう言うべきでしょうね、お帰りなさいアイン。またあなたの顔を見ることが出来た、それが何よりも嬉しいの」


「俺も、俺もクローネとまた話せて嬉しいよ」


「ふふ、それはありがとう。でもオリビア様のお部屋の掃除はアインがするのよ?」


「えっ……掃除?」



 クローネがそう言うとオリビアは少しだけ恥ずかしそうな顔をする、何があったのだろうか。



「アイン様。お帰りなさいませ」



 そんなオリビアの様子を全く気にせず、マーサもアインをねぎらい始める。



「マーサさん。ただいま、心配かけちゃったね」


「えぇとても心配しましたよ。オリビア様以上に心配をかけられるとは思ってもみませんでしたが、ですがアイン様……王太子殿下は多くの命を救いました、それは私たちにとっても誇らしく思います」


「そう言ってもらえると助かるかな」


「それと、ここで照れているオリビア様お嬢様のことです。クローネ様が言うにはオリビア様のお部屋の掃除は、アイン様にしていただくとのことです、後ほどよろしくお願いしますね」


「ごめんマーサさん。全く理解が追い付いてない」



 急に部屋の掃除と言われても分からない、オリビアが暴れたのかと考えてしまうが、そういう正確でないのはアインも分かっている。



「クローネ様曰く、オリビア様とクローネ様のお二人を心配させた罰とのことです。そしてお部屋に入るまでのお楽しみにして頂きたく思いますが……一つお伝えいたします。オリビア様はとても力の強いドライアドですから」



 そこで出てきたドライアドという言葉、少しは理解できるかと思ったら謎が深まったばかりだった。

 だが二人を大きく心配させてしまったことは事実、それぐらいの罰ならいくらでもとアインは考えた。



「わかった。二人のことを心配させちゃったからね、そのぐらいお安い御用だよ」


「さぁ皆。積もる話はあろうがまずは中に入るとしようではないか、何はともあれアインは英雄と言える働きをした。それをねぎらう為にもまずは城に入るとする」



 シルヴァードのその言葉でまずは城の中に入ることにした。今いる場所は城門を通り馬車を止める場所。あまり長話をするのには向いていない。



 そして扉を開きアイン達は城に入る。アイン達を迎えたのは、城に努める騎士達や給仕たちの大きな歓声。

 城で働く者達もその活躍を聞き、なんとか時間を作りアイン達を称えに来ていた。



「……ただいま。みんな」




 *




 城の広間の一つと足を運んだ一同。そこには二人の人物がいた、王妃ララルアと第一王女カティマの二人だ。



「よく戻りましたねアイン君。さぁ疲れたでしょう、まずは腰かけて休んでくださいな」


「お帰りニャ。この暴走王太子」



 ララルアは優しくアインを迎えた。だがカティマに関して言えば、脱出した後シルヴァード達から多くの詰問を受けていたため、若干のストレスが溜まっていた。そのためちょっとした仕返しだった。



「ただいま戻りましたお婆様。……ごめんってばカティマさん、暴走したのは否定できないけどさ」


「まったくだニャ。クリスも良く帰ったニャ、ディルもこの馬鹿王太子に付き合わされて大変だったニャ。さぁまずは席に着くといいニャ」



 カティマの優しさが身に染みる。そして皆が席に着いた。



「クリスもご苦労でした。海龍討伐という大変なことを指揮してくれたこと、そしてイシュタリカを守ってくれたことに感謝します」


「妃、妃殿下っ……!どうかそのような言葉はおやめください!ただご苦労だったとだけで十分でございますからっ!」


「ディル。陛下、そして元帥から沙汰は下ったと思います」


「……はっ」


「ですから、私はその件に関しては貴方に口を出すことはありません。だから一つだけ言わせてくださいね」



 ララルアは決してディルのしたことや、クリスがアインの力を借りたことを叱責することは無かった。



「アインに命を懸けて仕えてくれたことに感謝します。私の立場ではこれ以上を口にすることはできません、だからどうかこのことを忘れないでくださいませ」



 彼女が口にした言葉は感謝だった。ディルはしてはいけないことをした、だがアイン個人にとっては心強いことは間違いなく、彼の存在はアインとって掛け替えのない存在だった。



 その言葉を聞いて、ディルはつい目に涙を浮かべてしまう。ついに緊張の糸が切れてしまった。



「も……勿体なきお言葉、感謝致しますっ」


「デ、ディル!お前は……申し訳ありません妃殿下。再度厳しく言い聞かせますので」


「ロイド。王太子アインだけでなく、ディルもまだ一人前の大人とは言えません。これぐらいで叱ってどうするのですか、全く」



 アインにディル、この二人が背負うには重すぎることがこの一日だけでいくつもあった。

 それを思えばディルは気丈に振舞えていたことだろう。



 そんな中、一人の給仕がドアをノックし、マーサに言付けを残していった。



「えぇわかりました……ちょっと失礼しますね」



 夫であるロイドを押しのけ、アインのそばによるマーサ。



「アイン様。失礼ですがなにか城に運び入れたと聞きましたが」


「運び入れた?えっと……」


「おそらく港でアイン様が無理を言って決行したもののことかと……」



 クリスに言われ何を運んだのか思い出したアイン、その一言でこの部屋の空気は一変した。



「あぁそうだ!みんなで食べようと思って持ち込んだものがあるんだった、マーサさん。ステーキでお願いしてもらっていいかな?」


「ス、ステーキですか?いったい何を持ち込んだのでしょうかアイン様は」


「ほぉアイン。マグナから土産でも買ってきたか?」



 シルヴァードがアインの持ち込んだものに興味を示す、皆がマグナで手に入る海産物を好むため、それが口にできると思ったシルヴァードは小さく笑みを浮かべる。



「はいお爺様。マグナで狩ってきたものをちょっと持ち込んだんですよ、新鮮なほうがいいですよね」


「うむその通りだ。では今晩は皆でそれを頂くとする。ロイド、ウォーレン……今日はここにいる者達皆で頂くことにする、今日ぐらい構わんだろ」



 シルヴァードが口にした『買った』とアインが口にした『狩った』は意味が違ったものの、話の中でそれは伝わることは無かった、。



「料理人に大急ぎで用意させます、少々お時間いただきますね」



 マーサがそれを伝えに行くため部屋を出た。



「あらアイン君、腰につけてた短剣はどうしたのかしら?」



 ララルアにそう言われ、アインは申し訳なさそうに口を開く。



「お婆様。せっかく頂戴したあの短剣ですが、おそらく海の底に落ちてしまったかもしれません」


「あぁいいのよそんな顔しないで、ね?でもどうして落としてしまったの?」


「はっきりとはわからないんです。海龍と戦っている時、俺が死を覚悟したときにあの短剣を抜いたんです。最後に一撃ぐらい自分の手でいれようって思って」



 アインが海龍とのことを語りはじめ、どういう戦闘だったのか皆が興味を抱く。

 クリスやディルですらも、まだその説明を受けてなかったのだ。



「そうだったのね……なら素晴らしいことだわ。あの短剣がアインの助けになったなら、それ以上の喜びはありませんから」


「確かに、お婆様からあの短剣を受け取ってなかったら俺は勝てなかったと思います。そういう意味では俺はお婆様に救って頂いたと言えますね」


「まぁまぁ。本当にいい子ねアイン君は」



 オリビアの次はララルアに抱きかかえられるアイン、ララルアはまだ見た目も若く美しいため、再度アインは照れた表情となった。



「ところでアインよ。短剣を海龍に刺したとはどういうことだ?どんな戦いをしたと言うのだお主は」


「そうですな、是非我々にお聞かせ願いたい。アイン様どうか武勇伝を」



 そう言われると話すしかない。だがアインがとった手段は確実にみんなから怒られる、絶対怒られる。

 アインはそう考えたが、今どう倒したのかを考えて嘘をつける状況でもないため、素直にそれを話すことにした。



「……ひ、額にですね。海龍の額に飛びついて、海の中で……倒しました、はい」



 頭を抱えたのがシルヴァード、そして笑いを耐えていたのがウォーレン。オリビアやクローネは顔を青ざめてお互いを支えていた。

 そして笑いながらウォーレンが続きを促した。



「く、くくく……アイン様。まさかとは思いますが、海龍の額に飛び乗り、海に引きずり込まれながら討伐したと?」


「……はい」



 ここまでは知っていたクリスとディル、それでも同じく頭を抱えるような動作をする。

 そんな中、カティマが大きく喜びの声を上げながらアインに飛びついた。



「なんてことニャアイン!それはつまり……暗黒ストローが働いたのニャ!?」


「正直、もう2,3個は作っておいてもらえばよかったという程には働いたかな」



 その返事を聞いて体を震わせるカティマ、決してもよおしているわけではない。



「私の作ったあの爪が海龍に通用したのニャ!これは喜ばしいことニャ!今日私に掛けた迷惑は全てチャラにしてやるニャ」



 チョロイとアインは思った。



「アイン。もしやとは思うが……幻想の手を使い体を固定したと?そして魔石を吸い殺したのか?」



 シルヴァードが口にした、吸い殺すと言う新しい殺し方。



「結論から言えばそうですね、あれが一番手っ取り早いかと」


「最初から使うつもりだったのか……?」


「えぇそれが何よりもっ……痛いっ!?」


「これで勘弁しておく」



 シルヴァードの拳骨がアインに飛んだ。とても痛いが我慢するしかない。



「では海中に引き込まれながら、どちらが先に体力が尽きるかという勝負をしたと?」


「うん。その前に幻想の手を使って海龍の動きを止めたりとかしたけど」



 ついにロイドまで問いただす。そしてその返事はロイドも想像しなかったことだ。



「まさか海龍の動きを止めるとは」


「父上。アイン様はただ動きを止めたのではありません……いきなり船頭に立ち、海龍の突進を真正面から止めたのですから」


「それは誠かディル!?」


「陛下。これほどの……くく、これほどの武勇伝は聞いた事がありませんな?海龍の突進を正面から受け止めると言う発想ですぞ?」


「いうなウォーレン。全くどれほど驚かせれば気が済むのだ」


「もう必死でこれぐらいしかできることなかったんですよ!」


「開き直るものではない……」



 結果としては成功した。だが大きな危険が付きまとうことは嘘でなかったため、あまり簡単に褒めることはできない。



「ところでアイン?その……どうしてさっきから腕をぶらぶらさせてるままなの?何かあったのかしら?」


「ちょっと今動かせないんですよお母様。治療師の方がいうには、しばらく休めば治るとのことですが」


「ほ、本当に!?一生動かないなんてことはないんですね?」


「大丈夫ですよ。ただ色々とたくさんのダメージを負ってしまったので、しばらくはしっかり休むことにします」



 オリビアがアインの手に気が付きそれを指摘した。一生動かないという事態でなかったことに、少しだけ安心する。



「それじゃアイン。今日のご飯は私が食べさせてあげるわね」


「クローネ……さすがに恥ずかしいよ」


「みんな知ってる人じゃない、大丈夫よ。オリビア様そうですよね?」


「えぇ、クローネさんにお任せしますね、アインだからちゃんと」



 ちゃんと食べるのよとオリビアが語り掛ける直前、とっさにクリスが口を開いてしまう。



「わ、私が……私がアイン様のお世話をしますっ!」



 顔を真っ赤にしてそう口走ったクリス。まさかクリスがそのような事を口にするとは誰もが予想しなかったため、オリビアやクローネだけでなく、ウォーレン達までもが驚きの表情を浮かべる。



 驚きのあまりクローネもあっさりとクリスの言う通りにしてしまった。



「だそうよアイン?よかったわねクリス様があーんってしてくれるわよ?」


「わざわざ恥ずかしくなるように言い直さないでよ……」


「ふふふ。なるほどね」



 オリビアが何かを察したようで悪戯をするとき表情となる。だが口を開くことは無い。



「ところでアイン。お前海龍吸ったって言ったニャ?」


「言ったけど、どうかした?」


「ステータス見せるニャ。それと城を出る前に吸ったあの魔石についても、何かわかるかもしれないニャ」


「言われてみれば確かに」



 そしてアインはディルに頼み、ステータスカードを取り出してもらう。

 その様子を見て、クリスやロイドたちが近くにより始める。



「え、なんでみんな近く来るのさ」


「皆気になるに決まって居ろう、さぁアイン早くステータスカードを」


「海龍を単独で討伐した英雄のステータスですからな、興味がわかない理由がございません」


「……わかりました。じゃあ見せますよ」




 アイン・フォン・イシュタリカ


[ジョブ] ネームド


[レベル] 64




[体 力] 4055


[魔 力] 7367


[攻撃力] 473


[防御力] 952


[敏捷性] 395

 

[スキル]暗黒騎士,大魔導,海流,濃霧,毒素分解EX,吸収,HP自動回復,訓練の賜物




「アイン知ってるかニャ?ネームドって魔物のジョブの一種ニャ。お前いつ人やめたニャ?」


「なにがどうなってるんですかね一体」



 尋常じゃない上昇を遂げたアインのステータス。海龍を吸い取ったことで肉体面もかなり強化されてると思っていたアインだが。吸いながらその力をすべて幻想の手やその維持に回していたことで、あまり吸収しきれていなかったようだ。



「これは大きく成長したものだっ……そう思わぬかロイドよ」


「これほど大きな魔力を目にするのは初めてです。それに体力や防御の面でも大きく成長しておりますな……」


「大丈夫よアイン。もしあなたが仮に完全な魔物になってしまってたとしても、私は貴方と一緒にいてあげるから」


「あんまり嬉しくないけど嬉しいフォローありがとうクローネ」



 謎の魔石と海龍の魔石、海龍に関して言えば完全に吸いきれたとは言えない。

 だが大きく成長したのは目に見えた。魔石を吸うだけでこの成長なのだから、正直周りには申し訳ない気持ちがある。



「新たに習得したスキルは2つですな。大魔導と海流ですね、海の流れを操作できるとはなんとも恐ろしい能力だ、それだけで戦場が一気に傾きますぞ」


「確かにウォーレンが言う通りだな。だが大魔導とは聞いた事がないが……」


「っ……お、お父様にウォーレン?今大魔導って言ったニャ!?」


「あ、あぁそう言ったぞカティマ。お主もよく読まぬか」



 シルヴァードにそう言われ、カティマはアインの手からステータスカードを奪い取り、しっかりとそれを確認した。最初はステータスとネームドの文字で、そこまで目が行ってなかったのだ。



「ほ、本当にあるニャ……じゃああの魔石は」


「カティマ。知っておるのかこのスキルについて。では例の魔石とは一体」


「……クリスも知ってるニャ?このことを」


「えぇ存じております。そしてそのスキルの持ち主についても」


「お姉さま?もったいぶらずに教えてくれますか?アインも気にしてるから」



 オリビアにそう言われ、ついにカティマは口を開く。



「ッチ、ニャ」


「聞こえぬぞ、大きな声で言うのだカティマ」


「だーかーらー!リッチニャ!アインが吸ったのはリッチの魔石ニャ!デュラハンと並ぶどころか、それ以上に貴重なリッチの魔石ニャ!」



 カティマのその言葉は、また一つの騒動の引き金となってしまった。



「ちょっと待つニャ!資料もってくるから待ってるニャ!」



 部屋の空気がとんでもないものとなってしまったが、カティマは自分の研究室へと向かい部屋を出ていく。なにやら資料を持ってくるらしいが。



 そして待つこと数分、息を切らしたカティマが広間へと戻ってきた。



「これニャ。リッチ……デュラハンと同じく今では存在しない、魔法に関して言えば魔物の中でも並ぶものが居ない化け物ニャ」



 持ってきた資料を広げ、皆に見えるようにそれを見せるカティマ。

 そこに書かれているのはローブを被った骸骨に、大きな杖を持つ魔物だった。



「ねぇカティマ。それってアインは……国宝クラスの魔石を2つも吸ったということ?」


「お母様が言う通りだニャ。デュラハンだけじゃなくてリッチ、まさかあの魔石がリッチのものだったなんて思いもしなかったニャ。でも謎は解けたニャ、リッチ程魔法に長けた魔物なら、呪いをかけることなんてきっと容易ニャ」


「あらあら。アインったら、また魅力的になってしまったのね」


「オリビア……」



 ララルアの言葉に同意したカティマ。その横ではオリビアがアインを優しい瞳で見つめていた、その発した言葉にはシルヴァードが頭を抱えてしまう。



「なるほど。あの動きを止めた拘束魔法、あのような高度なものをどうして使えるのかと不思議に思いましたがどおりで」


「とはいえまさかマジョリカ殿の店にリッチともあろう者の魔石があったとは……わからぬものだ」



 ウォーレンが言うように、だれが町にある魔石店にそのような国宝クラスのアイテムが売られていると想像できただろうか。



「カティマ様。おそらくそちらではなくこちらのリッチのほうだと思われます」


「ニャ?こっちのってクリス何言ってるニャ?」


「ええと……その資料ではなく、こちらの。古代エルフ文字のほうの一冊ですね」



 クリスはそうして一冊の本を指さす、それはカティマが解読に手を焼いていた高級な本。



「どういうことニャ?これが読めるってことかニャ?」


「えぇ、私の部族も古い者達の集まりですので。『魔王の真実についての考察と、彼の側近達について』その本のタイトルです……ってカティマ様!?」



 その言葉を聞いてカティマは大きな音を立て、地面に衝突した。



「ニャ、ニャんてことだニャ……。こんなに近くに読める人が居たなんて、素直に最初から見せて置けばよかったニャ」


「しかしどういう意味だ。魔王の真実とは?」


「確かに興味がそそられますな。カティマ様、まずはクリス殿が仰るリッチの方とやらを先に見せて頂くことはできますかな?」


「いいニャ。どうせあとで全部解読させるニャ、クリスこの本触っていいからそこを開くニャ」



 カティマに指示されたクリスが該当するページを開き、それを示した。



「こちらです。リッチが持つスキルは魔導の心得という、また別のスキルですから。こちらがアイン様の吸収なさった魔石の持ち主だったと思われます」


「意味がわからないから説明するニャ……いや、やっぱり少しここに書いてること読み上げるニャ!」


「え、えぇ分かりました。えっと、エルダーリッチ・シルビア。エルダーリッチは自らの核の力を使い一本の短剣を作り上げ、それを番(つがい)へと渡す習性がある。彼女はデュラハンと共に魔王の最初の仲間となる。夫のデュラハンと共に魔王を支え、大きく貢献した……夫っ!?」



 クリスが読み上げたことに誰もが驚いた。それが示すことの意味、それはアインが吸収した2つの魔石は元々夫婦だったということだからだ。アインとカティマの二人は、過去にあった事件を思い出し納得した。



 デュラハンは吸収された後も妻の気配を感じ妻を求め、幻想の手で彼女の魔石を掴もうとしたのだと。

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