僕はこれからどこにいくんでしょうか?
「アインまたね!私も遊びに行くから、領地が近くで本当によかった!」
ホストの家の者として最後にあいさつなどがあるらしく、クローネとアインはお別れする時間になった。
スタークリスタルを渡してからというもの、それはもう猛烈に懐かれていた。
まずそれから手を繋ぎ続け、名前に君なんて付けずにもはや『アイン』と呼び捨て。
クローネ様と呼べば大人びた外見と打って変わって、頬をプクッと膨らませてご不満具合をアピールしてくれる。最後の方なんて腕に抱きつくようにくっ付いてきてた。
その一目でわかるご機嫌は、大公家の人がクローネを呼びに来るまで続いた。
弁える点は弁えているようで、自分にある責任はきちんと果たそうとしていたのはいい印象だった。
我がままなとこもあるのかな?とアインは考えていたため、少し反省していた。
「わかったよ。ここは簡単に遊びに来ることができない場所だからさ、正直助かる」
さすがにクローネちゃんあそぼーっ!って来ることができる家ではない。
理由としてはラウンドハート家は、アウグスト大公家の格下だからだ。
「ふふ、そうね。では……オリビア様、本日は素晴らしいお時間をくださってありがとうございました」
「あらあらそれはこちらのセリフですよ?今日は本当にありがとうございました。息子とも是非仲良くしてあげてくださいね」
「ねぇアイン?オリビア様からお許しももらっちゃったわ」
「ははは……お手柔らかにね」
それじゃあ、またね!
と、そうしてクローネは会場に戻っていった。
「まぁ実際さ、俺たちがこれ以上仲良くするなんて立場上無理な気もするけどね」
アインが小さく呟いた。アインは伯爵家でクローネは大公家、この時点で身分差が非常に大きかった。
伯爵家の上には侯爵、公爵、そしてようやく大公家だ、だがそれだけの問題ではないだろう。
アインが考えたのは王族ですらクローネのことを欲しがるだろうということ。
頭が良く、容姿も素晴らしい。王家の妻として十分すぎる条件だった。
だからこそこの話は進まないだろう、そう感じたのだ。
*
「アイン、ありがとね」
「何がですか?」
「お母様のことを気遣ってくれたでしょう?」
「……言っていることの意味がわかりませんけど、お母様がご気分良いのであれば俺は幸せですよ」
「ふふ。そうですか……ならそういうことにしておきますね?」
一番の収穫はお母様が恥をかかなかったこと、楽しませてあげられたことだ。
そういえばクローネが戻ったのはパーティの締めをするからと聞いたけど……父上達はどうしてるんだろう。
「そこの方?ローガス様……ラウンドハート伯爵はどちらかしら」
「これはラウンドハートご夫人。少々お待ちくださいませ」
俺たちも庭園から出て、受付近くのサロンのような場所で待っていた。
さすがに俺たちだけで帰るわけにもいかないしね、あまり気分はよくないけど合流すべきだろう。
*
「遅いですね……」
給仕をしていた人にうちの父上のことを聞いてからもう10分以上が経ったと思う、まだ返事に来ない……。
「そうね、でも大公様の主催だから、あまり軽々と出られないこともあるの……」
「相手の顔を潰すのはよくありませんよね」
「良くわかっていていい子ですね、アインは」
……まぁお母様に褒められたのはすごく嬉しいけど?でもそれでもさ、少し待たせすぎじゃないかなって思ってきたわけですよ。
さすがにさ、入場できなかった事情はある程度理解してあげるけど。
だったら少し早めに出てくるぐらいの気遣いはしてもいいんじゃないか?
事実結果だけ見れば、正妻をパーティの間中放置していたといっても過言ではないんだから。
「はぁ……はぁ……お、お待たせいたしましたラウンドハートご夫人」
「あらあら急がせてしまって申し訳ないわ、それで旦那様はどちらに?」
「……大変申し上げにくいのですが、お三方とも夜会の方へ向かわれたと……ランス子爵が今宵の夜会を主催なさるとのことで共に向かわれたと」
「先ほどまで、クローネお嬢様と私たちは一緒におりました、最後はクローネお嬢様もホストの大公家としてのお勤めとして戻られましたが……そのご挨拶の前に、大公家をお出になられたということですか?」
「そのようでございます。ランス子爵は最初から、本日の夜会を主催なさる予定だったとのことで、ホストの大公家の方にもそのように連絡がありましたので、師弟関係にあったラウンドハート伯爵が共に抜けて支度するのを、特別失礼と思わなかったようでして……」
「しばらく前に、すでにここを通ったっていうことなのですね?」
あれお母様?パーティが始まるときみたく俺にごめんなさいって悲しそうな表情ならないな。
いやならないに越したことはないが、それでも普段と違って少し強気な雰囲気を醸し出しているのに、軽く違和感を覚えた、そりゃ怒りますよね嫁も差し置いて二次会に行くだなんて……。
「そのようです、ご報告にお時間が掛かってしまったことをお詫び申し上げます」
「あらいいんですよそんなこと……でもそうね。わかったわありがとう」
「はい。それでは失礼いたします。何かございましたら何なりとお申し付けくださいませ」
「……ふぅ、まぁもういいわね」
お母様がため息をついた、こんなに失望したような、もういいやって全てを面倒になったよう表情は初めて見る。
とはいえそれでもお母様は綺麗です。
「ねぇアイン?お父様のこと……好きかしら?」
「……え?」
いきなりなんだ……どういった意図での質問なんだろうか。
「あぁごめんなさいねアイン……急で困っちゃうわよね、うーん……それでもやっぱりお母様は、お父様のことをアインがどう思うか、このことを教えて欲しいんです」
「それはつまり俺の本心、みたいなものですか?」
「えぇそうですよ。どう?お父様のこと……離れたくないぐらい好きかしら?」
理解できた。
お母様は自分のことだけを好きでいてほしいのかもしれない。
嫁いできた家でこんな扱いを受けて、悲しくて寂しくて堪らないんだ……俺だってそうだ、お母様がそんな扱いうけてるのは認めたくないし悲しい。
だから……。
「お母様には申し訳ありませんが、離れたくないぐらい好きという気持ちはとうにありません。
俺を育ててくれていることには感謝しています。それでもお母様にこのようなことをするような父には、愛というほどの感情はありません」
「そ、そう……!じゃあお父様が居なくても……平、気……かしら?」
「お母様が一緒に居てくださるなら俺には何も問題はありません。だから……大丈夫ですよ?」
すごくうれしそうにしているオリビアを見てアインは確信した。
よかった、やっぱり寂しくて悲しくて堪らなかったんだ、大丈夫ですよ俺はずっと味方ですから……。
そう考えていたら、アインが想像していなかったことを始めた。
*
「……さぁそれじゃ始めましょう」
おもむろに指に嵌めていた結婚指輪を抜き取り、それを手に持つ。
「お母様?」
ポロポロッ……。
それは急激な勢いでさび付き、全体が錆びる頃には崩れ落ちてしまった。
「もうこれいらなくなっちゃいましたから……だからこうしたのよ」
「もういらないって……お母様?」
「(え、なにこれ魔法?魔法なの?すごい勢いでぼろぼろになったけどなにこれちょっと怖い)」
正直に言うと驚きが大部分を占めていた。
お湯を沸かしたり、物を切るような簡単な魔法は何度か見てきた。
それでもこんな如何にも魔法って感じのは初めて見た。
貴族が使うような結婚指輪が錆びやすい金属なわけがないだろう。
金色をしていたし俺が知っている中で金色で高価といったらやっぱり純金だ。
「(純金は基本的に錆びないと聞いた……混じり物なら錆びがわかりやすいってのも聞いたことがあるけど、うちぐらいの貴族がそんな安っぽいの買うわけがないし、ということは)」
少なくともオリビアは、それをいとも容易くできるできるほどには魔法に長けているということだろう。
事実、父上はハイム王国では大将軍としての格を頂戴してるだけあって、武芸に関して言えば国でも騎士団では頂点の一角だ、その父が嫁に貰うのだからなにか一芸に長けているのも当たり前だとは考えていたが。
「(お母様は城で魔術師として仕事していたと聞いているし、それが思っていたよりも凄かったってことだな)」
炎出したり氷だしたりなんていう魔法も普通に存在するらしいけど、まだ見たことがないアインにとってはすごいと思うには十分すぎた。
ラウンドハート領は騎士団の重鎮がいる領地なだけあって、魔法に長けている人はあまりいないからね。
「(って違う、そんなことを考えている場合じゃない……。結婚指輪を壊してしまったことのほうが問題だ、
一体何を……)」
「はぁ……スッキリした。うん……スッキリしました、初めからこうすればよかったわ。ねぇアイン?海に出て船に乗るのって怖い?」
「海を……ですか?いえどんな感じかわからないですけど気持ち良さそうですよね!」
「(お母様お願いします。
もう少し説明をください……どうしたんですか……?
あとごめんなさい船は乗ったことないので感覚がわかりません)」
「そう!ならよかったわ、お母様が素敵な冒険させてあげますからね?」
「(ぼ、冒険?)」
「は、はい!楽しみにしていますね!」
有無を言わさぬ空気を醸し出してきたオリビアにアインは普段と違って少し気おされてしまう。
「さてと、じゃあそろそろ港町に戻りましょうか?」
「そうですね父上達もいませんし。今帰れば日が変わる前には着けるでしょうか?」
「ふふ、そうね丁度変わる前ぐらいには着くと思うわ。じゃあもう私たちも出ちゃいましょうか」
アインは、指輪を壊してしまった理由も、なんでスッキリなのかも聞けなかった。
それでも悲しそうにしていない母を見て不満はなかったアインだったが、その後に起こる怒涛の出来事は予想することが全くできなかった。
*
「やっと着きましたねお母様」
「ごめんなさいねアイン?こんなに急なスケジュールにしちゃって」
0時を回る少し手前、もうすぐ深夜という時間帯。
ようやく生まれ故郷の港町ラウンドハートに到着した。
半日分も馬車に乗っていて疲れたアインだが、王都でのそれなりに充実した時間に満足感は得ていた。
「あれお母様?降りないのですか?」
「えぇここでは降りませんよ。もう少しだからね?」
「……わ、わかりました」
ラウンドハート邸の前を普通に通り過ぎた馬車は、港に向かって進む。
でもなにやら今日は町が騒がしい。
「お母様?どうしたんでしょうか、こんな時間だというのにすごく騒がしいですね」
0時に近いこの時間帯に、町がこの賑やかさなのはおかしかった。
港町ラウンドハートは王都近くの港町だ、だからこそ夜遅くとも酒屋にはそれなり人は居る。
とはいえこの騒ぎは異常だった。
「(今日の賑わいはおかしい)」
大通りに出た馬車に聞こえてくるのは、なんだあれ?といった声や騎士団はまだなのか?などなにやら物騒な声がだった。
「(なに?事件でも起こってるの?)」
「奥様、なにやら騒がしいようですが……進んでもよろしいので?」
御者が不振に思ってオリビアに尋ねる。
「えぇ、構いませんからそのまま港に進んでください」
だがそれを全く意に介さずオリビアはそのまま進めと指示を出す。
事件じゃないのか?お母様は何か知っているのか?とアインの頭の中に色々な事が浮かぶ。
「ええと……賑やかですね」
探るわけじゃないが、空気に耐えられなくなったこともあって賑やかですねと言ってみる。
「ふふふ、そうね。もうすぐ素敵な物を見られますよ、アイン?」
「(毎日貴方という素敵な方を見ていますよ?)」
「どんなのか楽しみです」
道を進み、そろそろ大通りを抜けメインの港が見えてくるであろうという時、アインは見慣れない大きな建造物を見つける。
アインが見つけたのは、港近くの民家や3階建て程ある宿屋の屋根上からはみ出て見えた……煙突のようなナニカだった。
それと同時に民衆の喧騒の音量も遥かに上がってきた。
そのボルテージが最高潮に聞こえる場所、大型船が止まれる港に着いたときアインの目に映ったのは、それこそ予想もつかないほど大きな大きな……。
「な……なに、これ……っ!?」
200mはあろうかという巨大な、白を基調とした美しい船だった。
船といっても砲台のようなものや、何やらビームを打ってきそうなものとか装備してあって戦艦みたいな印象もある。
「うんうん着いたわね。さぁアインこれに乗りますよ?」
「乗りますよって……お母様、これって一体っ」
乗りますよといわれても素直に納得できないほどの存在が目の前にある。
「御者さん?この手紙をラウンドハート家に届けてくださいませ」
オリビアは馬車の中でしばらく手紙を書いていた。
その手紙をここまで馬車を引いてきた御者に渡す。
「か、かか…………畏まりました!」
「(ほら御者さんも少し腰抜かしてるじゃん……お母様、もう少し説明をですね……。)」
「オリビア様ーっ!」
「ラウンドハートご夫人!これは一体っ!?」
事情を知っていそうなオリビアに、ラウンドハート領の民は声をかける。
普段なら天使のような笑顔で受け答えをするオリビアは、今回ばかりは返事をすることはなくいつもの笑顔が向けられることは無かった。
アイン達が馬車を降りてその喧噪の中で1分ぐらい時間が経った頃、目の前の巨大な船から10人程度の騎士と、その騎士達よりも身なりのよい一人の騎士が降り立ちこちらに歩いてくる。
「お母様っ!」
「アイン、大丈夫だから……ね?」
知り合いなのか?アインがそう考えていると、オリビアがアインのほうを向いて優しく微笑む。
そしてオリビアは無警戒に歩き出す、降りてきた11人の騎士に向かって。
アインはというと何があってもオリビアを守れるように警戒を怠らない。
「……勇敢な騎士様。我々は敵ではありませんから、安心してくださいませ」
その中でも一番身なりの良い騎士から声が聞こえた。
そう言いながら片膝をつき、アインと目線を近くにする。
その声はまさかの女性だった、それ以上に味方という言葉にえ?とどういうことだという疑念が湧いた。
「敵じゃ、ない……?」
そう考えていると兜を取りアインに微笑む。
兜の中に隠れていたのは、白い肌に美しい純金が映える年齢は20歳程度に見える美女だった。
「えぇ味方です、味方というには私共の立場では失礼にあたりますが……少なくとも、あなた方お二人に仇なす者ではありません。お初にお目にかかりますアイン様」
「こ……こちらこそ、初めまして」
あまりの出来事にきちんとした返事はできなかった。
味方と言われてもすぐには理解ができない。
「久しぶりですねクリス。アインのことを気遣ってくれてありがとう」
慣れた友人に話しかけるかのようにオリビアが騎士に話しかける。
オリビアが優しい笑顔を浮かべた。
「貴方様と今一度出会えたことに感謝致します。ご連絡を頂き、我々至急お迎えに上がらせていただきました……姫」
「(姫……だと?え、俺じゃないよね?お母様……?)」
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