最新話

 歴史は、語り継がれる。

 過去が積み重なって今となる。未来は、その先にあるのだ。ぼろぼろと崩れ去る過去には、人の想いがあった。

 ユージニアは、三千年語られなかった。それでも、その存在を、その想いを、継いできた者たちがいる。


 トウマとカレンは決して忘れない。

 過去に置き去りにするのではない。未来へ立ち止まるのではない。抱えて、一緒に『今』を生きるのだ。


 キリクは語られない。

 ネルは語られない。

 それでもその想いは本物だった。覚えている。決して風化させたりしない。




◆◇◆




 転送装置で現場近くに出たトウマたちは、森の中を歩いていた。

 力仕事なのでガリュウ、カリヴァがメンバーだ。リリとイヨも復旧作業を手伝って、それからフィンゲヘナに帰るつもりだった。


「なあ、トウマ……どうだったんだ?」


 カリヴァが口ごもりながら尋ねた。


「……うっせぇ!」

「くくっ、善き哉善き哉」


 カリヴァは珍しく上機嫌でそっぽを向いた。

 一行が街道に足を踏み入れたとき、ガリュウが立ち止まった。今きたばかりの道を気にしている。


「ガリュウ? モンスターか?」

「ガゥ」


 ガリュウは首を左右に振った。

 草を掻き分け、枝を踏みしめる音が近付いてくる。トウマは自然と、背負った剣に手をかけた。


「……え?」


 カレンが走ってくるではないか。ショートパンツにシャツ、ベストにブーツと、冒険家の服を着ていた。


「追いついたわ!」


 息を切らしながら、カレンは腰に両手をあててポーズを取った。


「え? え? カレン、なんで」


 トウマが目を白黒させているのを見て、カレンは笑った。


「たまにはいいでしょ? 二人で一緒に遠征に行くのも」


 トウマは呆気にとられ、顔を手でこすっている。苦笑いが、満面の笑みになった。


「そうだな。じゃあ、行こう」


 一緒に、行こう。

 にかっと笑うトウマに、カレンがとびっきりの笑顔を浮かべた。

 そして、トウマとカレンは肩を並べて歩き出した。その後に仲間達が続く。空の高いところで、鳥が一声、鳴いた。

 なべて世は、こともなく。

 未来へと歩き出す。



 生きていく。抱えて、一緒に。目を覆いたくなる悲惨があった。これは歴史に葬り去られる偽物の経典。

 謀略と呪詛が凝り固まった神。

 それは人の想いが産んだもの。だから、決して風化させたりしない 。


 きっと語られる。

 あの青い空の下、遺跡に彩られながら。






了。

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偽典~All's curse with the world~ ビト @bito

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