2章3節:裏切り
「でいっ!!」
振り下ろされた大剣をハルバートで受け止め、傾け受け流す。
彼は後ろに下がり距離を取りながら、ハルバートを引き、即座に突くが突如現れた炎の壁に遮られた。
それを合図のようにして空から砲撃が放たれ壁が大量に割れ破壊された。続けざまに砲撃が来た箇所に向けて魔矢が殺到し残りの壁を剥がしていく。
「まずっ」
何時の間にか、彼の後に回りこんでいた大剣の女が振りかぶり、空が一瞬光る。
次の瞬間、砲撃と斬撃が同時にディードを襲った。
急いで発生させた壁で砲撃を、ハルバードで剣を受け止めるが、頃合いを見て女が彼を蹴って後ろに飛ぶ。咄嗟に正面に壁を作り、それとぶつかる。
程なくして最後の壁が破壊され、彼の目の前に砲撃が着弾。爆風を発生させディードを吹き飛ばしながらクレーターを作り出した。
吹き飛ばされた彼は転がり、木にぶつかって止まる。咳き込みながら立ち上がろうとするが、何かが接近して来ているのを感じ、急いで飛び退けた。
すると、ランスの少女が突進し木に接触する。と周囲を凍結させ凍結した木を破壊し更に直進していた。
「あっぶねぇ・・・・・・!」
壁を生成しつつ着地すると同時に"微かに振動した"魔矢が飛来しそれぞれ爆散し、発生した砂煙により視界が奪われる。
舌打ちをしながら急いで移動した。が、煙を抜けた先に目掛けて火の玉が殺到する。
それは壁を複数枚犠牲にし防ぎきれたが、すぐ後ろから追尾して来ていた魔矢に抜かれ腕や腹部を掠める。
『お、また攻撃通った!』
レストの声が彼女らの頭に響く。
「今度は削りきれそうですわね」
と、言いながらリリーシャスは引き金を引く。
『ふ、ふぇ~やっと止まったぁ』
突進していたミラは間隙をついて凍結させとうとしたはいいものの、避けられ発動させた自信の能力でそのままつべって行っていたのだ。
『ミラ~早く戻って来てよー』
『分かってますぅ』
ミラは方向を転換し再び走り始める。
『カバーは、任せて』
魔矢が放たれ、再びディードを襲い壁で弾かれるが、攻撃され手薄になった所をレストが追撃、壁を次々と破壊していく。
距離を取る素振りが見え、リリーシャスは威嚇射撃をし動きを制限する。
「後、すこ──」
複数の魔力反応があり、振り返る。すると木々の隙間から魔物が接近してくるのが確認出来た。
「7時方向、魔物接近。数不明」
彼女は魔物がいる方向に砲門を向ける。
『僕が行こうか?』
「いえ、レストさんと交代してくださいまし、後方はわたくしとレストさんで対応致しますわ。シャローネさんは両側のカバーを」
3人から了解と返答が来て、引き金を引き群れに向かって砲撃を行う。
先ほどからアリスの反応が消えていた。通信にも応答しない。彼女の中では、ほぼ裏切り確定と言う状態であった。ので、わざとクロードに攻撃参加してもらわず彼女の警戒をしてもらっていたが、そうも言ってられなくなっていた。
──先に狙われるとしたら、シャローネさんかわたくしか。クロードさんは放置して極力浮かせるはず。そしてシャローネさんは・・・・・・。
魔力を抑えているのか、2つほぼ群れとは離れ、群れより早く目標に向かっている小さい魔力反応があった。
「ッ! ミラさん離れて!!」
『もらっ──ふぇ!?』
ディードに迫っていたミラに向かって氷の槍が飛来する。が、クロードが横から彼女を押し倒し、抱きかかえるように転がっていく。氷の槍は地面に全て突き刺さった。
「スラ、ギャス!」
彼は叫びながら手を伸ばし、スラは飛び移り二の腕に着地し肩に移動する。そして、伸ばした手はギャスのしっぽを掴んだ。
「・・・・・・へ?」
振り回し、飛来してきた魔矢を次々と叩き落としていく。
その光景を見てクロードは「無茶苦茶だなぁ」と声を零し立ち上がる。
「ぁー・・・・・・」
「ミラ、大丈夫?」
「あ、ひゃい!」
倒れたままぼーっとしていた彼女は話しかけられ、裏声になった返事と共に飛び上がった。
「よし。じゃあ、ミラ。これまで通りに突撃すると、多分返り討ちにあう」
優しい声でそう告げると、細身の剣を抜き続ける。
「だから、僕の援護、頼めるかい?」
「も、勿論です! クロードお兄ちゃん!」
◇
「レストさん、ストップ」
そう言うと同時に引き金を引き、レストの頭上に居たガーゴイルを撃ちぬく。
『無駄乳、残りは?』
一度止まった彼女は一旦後退し、そう問いかける。
「増援は後半数って所ですわね。貧乳さん、嫌な予感とかはあります?」
『ん? 嫌な予感はしてるよ』
「わかりましたわ。ありがとうございます。っと、離れすぎてます。一旦寄りますわよ」
魔法を行使しようとしていた個体を撃ち抜き、後退しながら威嚇射撃をしていく。
レストもリリーシャスの動きに合わせ更に後退していく。
『ねぇ、急いで対処しないの? 私らならこの程度すぐだしさ』
あまりに慎重すぎる対応に疑問を持ったのか、彼女に問いかけられる。
「したいのは山々ですけど、向こうは突撃してきた割りには引き気味で戦ってますわ。もし前に出て対処をし、シャローネさんとの援護可能範囲から出てしまうとわたくし達が完全に孤立してしまいます。こうなってしまえば相手の思うつぼ。いつどうやって打ち合わせしたかは存じ上げませんが、中々に嫌な手を使いますわね」
『つまり、どゆこと?』
「貧乳なお馬鹿さんには分からない所で、駆け引きがあるって事ですわよ」
『あ、馬鹿って無駄乳。後で覚えときなさいよ!』
「さっきから無駄乳無駄乳五月蝿いからですわよ」
だがリリーシャスは微かに違和感を覚えていた。
後方から来た部隊が彼らの仲間だとしたら、このような手を使えるのなら逃げるのは容易なはず。
──わたくし達の迎撃が目的? だとしてもわざわざこんな構図にする必要はないですし・・・・・・。
『ん、アリス・・・・・・!』
通信機からレストの声がし、彼女の方に目線を落とすと木々の間から微かに女性の姿が確認出来た。
「シャローネさん」
停止し、壁を張りながらディヴァインを構え直した。
『分かってる』
「あんた、手伝いもせず・・・・・・!」
立ち止まったレストは、アリスが居る方に一歩踏み出す。
「ごめんね。19位。此方にも事情があるのよ。噂、知っているでしょう?」
「噂・・・・・・?」
レストは頭を巡らせ、友達とのとある会話を思い出した。
それは、1位であるアリス・カゲミヤの探し人の話だ。彼女の義理の兄と復讐相手の2人を探しているとうもの。
話していた当時はどうせ噂だと話半分であったが、この状況でレストは確信した。本当なのだと。
「あー、探し人でも居たって分け?」
彼女に向かって大剣を構え、剣に炎を纏わせていく。
「そう。だから、今回は敵になる」
「ふーん。にしちゃ悠長に話すのね」
「確かに話なぞせず、奇襲して誰か落とせば楽だろうね。けど、少しの間とはいえ同じ学び舎で学んだ仲だし。特に仲良く接していなくても・・・・・・はぁ、あれよ。情けという奴。それに一度、貴女と7位、そして2位との連携と真正面からお手合わせしてみたくてね。運良く、とはちょっと違うけどそういう状況にはなったし」
彼女はゆっくりと右手で左手に持つ刀の柄を持つ。
「不服?」
そういうと彼女の雰囲気が一変し、殺気が発せられる。
「っは、ちょうどいいわ。私もアンタ一度ぶちのめしたいって思ってた所なのよ。やるわよ、バルムンク!」
今度はレストの周囲から炎が自然発生し草木を燃やし始める。そして、1つの小さな旋風が彼女の足元で発生していた。
「今更、後悔しても遅いからね!」
通信で彼女らの話を聴き、奇襲の危険"は"去ったが、状況はあまり好ましくはなかった。
リリーシャスからすれば、アリスはクロードに相手をしてもらうのが考えうる最善手であったからだ。だが、こうなってしまってはどうしようもない。移動しながら誘い出して相手を入れ替える。なんて事も許さない相手。
「クロードさん、ミラさん。此方はできうる限り"時間稼ぎ"を致しますわ。出来るなら時間稼ぎをしているうちに仕留めてくださいまし」
攻めているはずなのに、逆に追い込まれている状況にリリーシャスは歯切りした。
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