144話 パーティーの準備


 会釈をして、日本支部に所属する俺達を迎え入れたアルヴァレス支部長は、姿勢を真っ直ぐ正して俺達を見やる。


「まず、先日の悪夢ナイトメアクラスの唖喰との戦闘、当支部は力になれず、申し訳なく思う」

「いえ、そちらも唖喰の侵攻がいつ来るかも不明な状況で戦力を割くこと、大変悩まれたと存じ上げております。そのお気持ちはありがたく思っています」


 アルヴァレス支部長の謝罪に、初咲さんは頭を垂れて返す。


 不謹慎だが、正直アニメやラノベで見たことのある上司同士の厳かな会話に内心興奮している。


 だって、なんかかっこいいし……。


 魔法少女オタクだからって男のロマンを忘れたことはない。


 あと、俺がフランス支部長の言葉を理解出来ているは、彼が日本語で話している訳では無く、俺の腕時計型魔導器に翻訳結界を展開する機能が季奈によって取り付けられたからだ。


 スイッチ一つで展開出来るようになっているが、その間魔導器内の魔力を消費し続けるため、大凡四十八時間程で使い切ってしまうという。


 当然、魔導器内の魔力を使い切ってしまえば魔導銃を転送する術式も起動しなくなるので、日本にいる間は翡翠に、フランスにいる間はゆずか鈴花に俺の魔力を動かして補充するようになっている。


 そんなわけで、俺がフランス語で躓くことはなくなったのだ。


 さて、初咲さんとフランス支部長との会話はというと……。 


「実行に移せなかったことで、感謝されるいわれはないさ……それにかの戦いで犠牲になった魔導士もいると聞く。その尊い犠牲に悔やむ気持ちが抑えられそうにないからこそ、こうして二か国の交流演習に踏み切ったのだ」


 犠牲になった魔導士、という言葉に菜々美さんの俺の手を握る力が強くなった。

 手を通して彼女の後悔が伝わってくるように感じた。


「ええ、今の最高序列に名を連ねる魔導士・魔導少女達も、延々と戦い続けるわけではないですし、後世の育成にもより力を入れないといけませんからね」

「そういえば、〝天光の大魔導士〟が教導を務める優秀な魔導少女がいるとか……」

「ええ、紹介致します。ゆず、鈴花、来て頂戴」

「はい」

「は、はい!」


 初咲さんの呼び掛けにゆずは端的に返事をし、自分が呼ばれると思っていなかった鈴花が上ずった声で返事をした。


 やばい、遠目でもアイツが緊張しているのが丸わかりだ。

 

 フランス支部長の前に立ったゆずがお辞儀をし、鈴花もそれに続く。


「久しくご無沙汰しております、アルヴァレスフランス支部長」

「ああ、悪夢クラスとの戦いでの活躍、聞き及んでいるよ」

「あれだけの強敵、私個人の力では到底倒せるものではありませんでした。それこそ、〝術式の匠〟やアメリカ支部からの派遣員の二人、日本支部の仲間達……こちらにいる橘さんを筆頭とした皆さんに大変助けられました」

「え、ああ、ええっと、ご紹介に、ああ、預かりました、橘鈴花です!!」


 かしこまったゆずの物言いから促された鈴花が慌てて自己紹介する。

 緊張しているのが陽の目を見るより明らかだった。


「はっはっはっ、一年前に出会った時より随分としおらしくなったじゃないか……それもあちらにいる彼のおかげかな?」


 うお、矛先が俺に向いてきた!?

 とりあえず頭を下げておこう。


「彼はもちろんのこと、橘さん達の尽力もあっての今の私です。今回の演習で私の大切な人達を守れるだけの力を得られるように、精進する意気込みです」

「あ、アタシも、頑張ります!」


 ゆずの言葉に鈴花も続く。

 あいつ完全に頭が真っ白になってるな。

 

 でも、その覚悟だけは確かに感じたけどな。


「うん、魔導少女同士が互いを思い合う……美しい友情だ。是非頑張りたまえ」

「「ありがとうございます」」


 フランス支部長の労いの言葉にゆず達は礼を返した。

 二人は初咲さんに促されて、俺と菜々美さんの元に戻ってきた。


「こちらも中々将来性のある若き魔導少女が何人かいるのだが、彼女らの紹介は立食パーティーの時にでもしようか」

「わかりました。その、立食パーティーの会場はどういったところなのでしょうか?」


 じつは立食パーティーの話と用意するものは伝えられていたのだが、フランス支部側からお楽しみという触れ込みで日本支部側には伝えられていなかったりする。


 だから初咲さんは今尋ねたのだが、フランス支部長は勿体ぶるような笑みを浮かべながら答えた。


「今ここで教えてしまっては折角の企画が台無しだ。先に日本支部の皆さんを部屋に案内するから、そちらで礼服に着替えて、会場に送り届けよう」


 そう言ってフランス支部長は初咲さんに部屋割りを書いているのであろう紙を渡し、机に置いてあった銀色の呼び鈴を鳴らすと、支部長室に数人のメイドさんが入ってきた。

 

 もう一度言う。

 メイドさんだ。


 秋葉に生息するなんちゃってメイドとは違って、上流階級の家に勤務するガチのメイドさんだ。

 

 どのくらいガチかと言うと、黒のロングスカートに白いエプロンドレスのクラシカルタイプのメイド服を身に纏い、一糸乱れぬ仕草でお辞儀をするくらいガチだ。


 だからそんなに左手を潰すくらいに握らなくても大丈夫ですよ菜々美さん。

 仕方ないって……本物のメイドさんに会えるなんて思っても見なかったんだから。

 

 ああ、見なくてもゆずさんから鋭い視線が飛んできてるのがわかる……。

 菜々美さんは良くてもメイドさんはダメなんですか、そうですか……。


「はぁ、そういうことでしたら……みんな、今から部屋に荷物をおいて各自持って来ている礼服に着替えること。後はフランス支部側が会場まで送ってくれるそうよ」


 フランス支部長の態度に呆れつつ、初咲さんがそう指示を出した。

 

 そうしてメイドさんの案内に従うまま、俺達は地下三階の居住区の空き部屋へを移動した。

 幸いというべきか、俺達四人は二列ずつ対面になるような部屋で割り振られていたため、変に拗れなくて済みそうだった。


 個室だから間違いを犯す心配はないし、気が楽になった。


 パーティーのための礼服は、黒色のスーツに紺色のネクタイを選んだ。

 組織に入ってから貯まりに貯まった貯金を使って商店街の専門店で買ったのだ。


 学校の制服とは明らかに異なる正装に緊張しつつ、部屋に置かれている鏡を見ながらネクタイを結ぶ。


「……こんなもんかな?」


 自分なりに着てみたが、着させられている感が凄い。

 背伸びしてるって笑われても仕方ないくらいだ。


 付け焼刃とはいえゆずからパーティーでのマナーを教わってはいるし、最低限の準備は整えてきた。


 これで笑われるなら俺の準備不足というだけだ。


 そう思い、貴重品を持って部屋を出ようとすると入口がノックされた。

 もうゆず達の誰かが着替え終えたのか?


 なんて思ってドアを開ける。


「はい――」

「失礼いたします」

「――え?」


 俺達を部屋まで案内してくれたメイドさんとは別のメイドさんが立っていた。


 そのメイドさんは何と言うか、目が前髪で隠れているのに綺麗な人だと判る不思議な人だった。

 金髪を頭頂部でお団子状にして束ねて、前髪から薄らと見える橙色の瞳は相手の心を覗きこむかのように綺麗な光を帯びていて、その声はメイドらしく凛としたものだった。


 俺よりわずかに低い程度の身長は外国人女性らしく高身長であることが容易にわかり、そして何より目を引くのが服が釣り合っていないかのように大きく膨らんでいる胸元だ。


 はっきりいって今まで見てきた女性の中でも一番デカい。


 出会ってから謎の急成長を遂げているゆずですら可愛く見える程の圧倒的な物量差に、思わず視線が吸い寄せられてしまう。


「ふふ、そんなにお気になられるのでしょうか?」

「――っは!? あ、えと、すみません! 初対面の男にじろじろ見られるのは嫌ですよね?」


 目を細めて妖しく笑いながら両腕を抱いて胸を寄せるメイドさんに指摘されて、俺は慌てて謝罪の言葉を口にする。

 

 でも心なしかこのメイドさん今誘惑するような素振りをした気がする……いや、止めておこう。

 胸に視線が向かないように明後日の方向を向いていると、メイドさんは何やら俺の事をじっと見つめてくる。


「え、ええっと、俺の格好……やっぱ変ですかね?」


 女性の人にじっと見つめられることに内心ドキドキしつつ、メイドさんにおかしいところがないか尋ねる。


「……」


 無言だった。

 ええ……そんな無言になるほど俺の格好って酷いの?


 と思ったのは一瞬の事だった。


「御髪を整えさせて頂いてもよろしいでしょうか?」

「っへ? 御髪って、髪のことですか?」


 言われて自分の髪を摘まむ。

 日本人らしい黒髪は癖で少し跳ねているところがある。

 メイドさんがわざわざ口に出して言うってことは、ダメな部分は髪だってことか?

 

 まぁ、確かにあまり綺麗なものではないかもしれないな……。


「はい、大変差し出がましいのですが……」

「あ、いえ、嫌って言うより、盲点だったんでありがたいです……じゃあお願いしてもいいですか?」

「ご了承頂き感謝いたします。それでは鏡の前にお掛けになってくださいませ」

「はい……」


 メイドさんに言われるまま鏡の前に椅子を持って行き、座る。

 そしてメイドさんは何処からかヘアブラシを取りだし、俺の髪を丁寧に梳いていく。


 その腕前は非常に上手く、日頃から手慣れている感じがした。


 ――そういえば、小さい時はこうして母さんに髪を綺麗にしてもらってたっけ……。


 なんだか子供の頃を思い出して気恥ずかしい気分を覚える。

 それとは別に気恥ずかしさを覚える要因が後ろにいるんだけどな。


 ――ポヨン、ポヨン。


 少し近づく仕草をしただけでメイドさんの柔らかいところが、俺の後頭部とか肩にポヨポヨ当たって非常に落ち着かない。


 ウソだろ……メイドさんとは特に密着しているわけじゃないのに俺の体に届くとか、密着したらどれだけの破壊力を秘めているのか全く想像がつかない……。

 翡翠や菜々美さんには無い胸囲の格差に戦慄を覚える。

 歯医者の看護師さんの様に仕事だから仕方ない密着とは訳が違った。


 気付いていないようだし、指摘したほうがいいか?

 でもそれだとこのメイドさんを傷付けないか?


 とりあえず、心の中で合掌……ありがとうございます。 


「ふぅ……終わりました」


 そうしてこのままでいたい煩悩と本人に伝えたい理性が格闘している内に、俺の髪は見違える程に整っていた。

 髪の癖は綺麗におさめられ、跳ねっぱなしの時と違いすっきりとした印象を受ける。


 すげぇ……髪型で印象が変わるのって男でも一緒だったんだ。


 イケメンにしか効果がないことだと思ってたけれど、変わるもんなんだな。 


「やはり、リンドウ様は磨けば光ると思っておりました」

「えっと、ありがとうございます?」


 まるでダイヤの原石のような言い方に戸惑いつつもお礼を伝える。

 それと今のやり取りで疑問に思ったことを尋ねてみる。 


「あの、なんで名乗ってないのに、俺の名前を知ってるんですか?」

「! あらら、これはうっかりしてしまいました……」


 メイドさんはわざとらしく驚いた素振りをした。

 途端に目の前の女性が胡散臭く思えた。


「……あなたの名前は?」

「そうですね……とりあえず〝アリー〟と名乗っておきます」


 〝とりあえず〟とか〝名乗っておきます〟とかもう胡散臭さ隠す気ねえだろこの人……。

 なんだろう、この狐に化かされた感じ……。


 さっきの背中ポヨンも実はわざとだったんじゃないかと思うと、無性に怒りが込み上げてくる。

 おのれ、男の純情を弄びやがって……!

 

「あらあら……ふふっ」


 疑念と怒りを募らせた目で睨むと、メイドさんはクスクスと笑い出し……。


 ――コンコン。


『司君、まだ着替えに時間が掛かりそうですか?』

『アンタ女子のアタシ達より手間取ってんの~?』

『もう私達で最後だよ?』


 部屋の入口をノックして扉越しに声を掛けてきたゆず達の方へ視線を向ける。


「あ、ああ。大丈夫だすぐに――え?」


 なんでもないと伝えようとして、視線をアリーさんに戻すと、彼女は忽然と姿を消していた。


「司君? 何かあったんですか?」


 扉を開けてゆずが顔を覗かせてきた。

 途端みるみる内に顔が赤くなっていった。


 え、なんで?


「つ、司君? えっと、せっかくのパーティーとはいえ、随分と気合を入れているんですね……」

「あ、本当だ。髪がすっごく綺麗になってる」

「わぁ……カッコイイ……」


 俺の変化に三者三様の反応を見せるゆず達に、今度は俺が見惚れる番となった。


 ゆずは黒色にキャミソールのような細い肩紐のロングスカートのドレスを纏い、首元に付けられている俺が修学旅行で作って誕生日に渡したトパーズを模したビーズのネックレスが良く映える。


 右手首には、いつもの黄色と緑のミサンガが巻かれていて、腰の白色のストールが黒のドレスのアクセントとして働いていた。

 

 普段と違って黒のドレスを着ている彼女の頭頂部で束ねられた黄色髪は、いつもにも増して目を引く印象だった。


 鈴花は情熱の赤というように真っ赤なワインレッドのミニスカートのドレスだった。

 首元の青い石が連なったようなペンダント、露出させた肩と魔導少女として鍛えられてきたことで引き締まる細く長い脚を大胆に魅せる色っぽい構造とは裏腹に、本人のあっけらかんとした性格が良く出ているのか非常に似合っていた。


 髪もポニーテールを下ろして毛先にパーマを当てたのかクルリと巻かれていて、今までの鈴花で一番の輝きを放っているかのように見えた。


 菜々美さんは白のノースリーブの膝下丈のドレスの上にシースルーの薄緑のポンチョを羽織っていて、栗色の髪を束ねて左肩に流すことで上品さを演出していた。


 さらに特徴的なのが、ドレスの刺繍に金色の糸が編み込まれていることだろう。

 照明の光に反射してキラキラ輝いていた。


「それで、一体何があったの?」

「え、ああ、そのさっきまで人が居たんだ……」

「人? 私達は誰も見てないけど……」

「それが、部屋の中に居たはずなのにいつの間にか姿を消してたんだ」

「不思議ですね……その人の特徴は?」

「目元が隠れる長さの金髪に琥珀色の目に、メイド服を着てて、あと巨乳で――」 

「「「――巨乳……? つまり、女の人?」」」

「ぁ……」


 アリーさんの特徴を伝えようとして最たる特徴をうっかり口滑らせたことで、暗にさっきまで女性を部屋に招き入れたことがバレてしまった。


 やっちまった……。

 これじゃあ俺が巨乳に釣られたみたいな言い方になるじゃねえか……。


 当然、ゆず達から雷が落とされ、パーティー会場への送迎時間ギリギリになるまで説教が続いた。


 なお、送迎のメイドさんにアリーさんのことを尋ねたが、そんな名前と特徴のメイドはいないと言われて、俺はゆず達から残念な人を見るような目を向けられた。


「いや、だから本当にいたんだって! ちゃんと髪も梳いてくれて――」

「そんなウソ言わなくてもいいっての、この巨乳好き」

「だ、だからそれも違うんだって!!」


 鈴花がゴミをみる様な目を向けてくる。

 なんで俺被害者なのにこんな目を向けられなきゃいけないの?


「うん、うん……大丈夫だよ。司くんは、男の子だし、そっちの方が良いに決まってるんだもんね……」

「無理に自分を納得させなくていいって菜々美さん!? 俺は何も巨乳が好きってわけじゃないんですけど……」


 虚ろな目で自分の小ぶりな胸をポンポンと叩く菜々美さんに必死のフォローをする。

 いかん。

 工藤さんのこととは違う意味で思い詰めてしまった……。


「私もそれなりに育っているはずなのですが、そうですか、これでもまだ足りないんですね……」

「――あふぁっ!? ……ふ、ふふふ、ゆずちゃんで足りないなら私は〝無〟ってことなのかな……?」

「ゆずさんも黙々と自分の胸を揉んでないで落ち着こう!? 菜々美さんも、その、落ち込まないで下さい……」


 ゆずはそれ以上まだ大きくする気なのか……?

 しかも菜々美さんが追加ダメージ受けてるし、よりおかしな空気になってる……。


 アリーと名乗る謎の偽メイドの襲撃後、会場への送迎の車に乗ってブルボン通りを通ってサン=ルイ島から、〝サン=ジェルヴェ=サン=プロテ教会〟やパリの市役所のある方面へ繋がる〝ルイ・フィリップ橋〟を通って〝オテル・ド・ヴィル通り〟を左側に進んだ先にある〝アルクル橋〟の近くに降り立った俺達は、俺が見ず知らずの女性を部屋に招き入れたことにご立腹なゆず達を宥めることに必死だった。


 くそっ、こんな苦労する羽目になったのも全部あの巨乳偽メイドのせいだ!


 巨乳は女の敵と聞いたことがあるが、男の敵でもあるらしい。

 フランスに来て真っ先に学んだことがそんな悲しいことなんて、一生忘れられないと思う。


 なんてくだらないことはどうだっていいんだ。

 とにかく誤解を解かないと……!


「ゆず、菜々美さん、聞いてくれ!」

「!」

「え?」


 大きな声を出して二人の気を向かせる。

 

「俺は胸の大きさで女性を好きなったりしないっ! ちゃんとその人が好きなら胸の大きさなんてどうだっていい! だから俺は別に巨乳が好きでもなんでもないんだ!」


 とにかく二人に誤解されたままでいて欲しくない一心で、そう叫んだ。


「ゆずのだって菜々美さんのだって、みんな違ってみんないいんだからさ……」 


 そんな一部分だけで人を好きになるなんて到底理解できない。

 まだ答えは出せていなくとも、二人のことを大切に思うからこそ出た言葉だった。


 俺の叫びを聞いた二人は暗い表情から一変、嬉しさと恥ずかしさが同時に浮き彫りになったように顔を真っ赤にして俺をチラチラと見つめてくる。


「え、ええっと、その、私は来てはいけないと言われたのに、司君が見ず知らずの女性と同じ部屋にいたことで、少し、ムカムカして……その……ごめんなさい……」

「私も……男の子なんてそういうところしか見てないんだー、なんて思って、司くんのことを信じていなかったかも……ごめんね……?」

「……いや、俺の不注意が招いたことだったし、二人が謝ることなんてないんだ……俺の方こそ、悪かった」


 何とか仲直りを果たしたことで、俺はホッと安堵した。

 さて、これで気兼ねも無くパーティーに――。




「あのさー、司」

「なんだ、鈴花?」

「ここ、パーティーに参加する人達いる、あんた大声で巨乳云々叫ぶ、当然周りの人達に聞こえる、つまり……」

「つま、り……?」

「――めっちゃ注目されてるよ」


 鈴花に言われて俺は慌てて周囲を見渡す。

 おぉっと、確かにいるわ……同じく日本支部からきた魔導士の人も初咲さんもフランス支部長もその他諸々……。


 見知っている人達から向けられる生暖かい視線に耐えきれず、俺は両手で顔を覆って膝から崩れ落ちる。


「――いっそ殺してくれ……」


 生まれて初めて死を懇願した。

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