134話 四章エピローグ 魔導少女が愛する日常
司君の病室に後処理を終えた鈴花ちゃんも訪れて、皆で司君の目覚めを喜んだあと、私はオリアム・マギ日本支部の居住区にある自室に帰って来ました。
話したいことはまだまだあったのですが、病み上がりの彼は検査や経過観察の必要があるため、渋々病院を後にすることになりました。
胸にしっかりと刻まれている司君と語り合ったことを忘れないように日記帳へと
「……お父さん、お母さん」
それは幼いころの私を抱いて笑顔で微笑む両親の写真でした。
写真の中の両親と私はとても幸せそうな表情を浮かべています。
二人のことはほとんど覚えていません。
ですが母が唖喰に食われて死ぬ前に、言っていたことだけは覚えています。
『ゆず……絶対、……に生き……て』
その言葉の通り、私はただ生きるためだけに唖喰と戦い続けてきました。
でも最近、あの言葉にはもっと意味が込められていたのではないかと思うようになりました。
司君と出会って、彼と一緒に過ごして来た日常の中で何度も実感した思いと、同じ意味が。
私は紙とペンを取り出して、母の遺言に答え合わせをするための文章を書きました。
書いたのは、亡き両親に宛てた手紙です。
出す相手は既に天国にいるので、完全に私の自己満足です。
でも、亡くなる寸前まで私の安否を願っていたあの両親になら、届くと思ったからです。
何度も書き直して、ようやく書き終えたころには時刻は夜十時半を回っていました。
部屋の電気を消してベッドに横になった私は、手紙の内容を反芻しながら眠りにつきました。
明日も変わらぬ日常を過ごせることを夢の中で願って……。
お父さん、お母さんへ。
突然のお手紙で申し訳ありません。
今まで形式上のお墓参りにしか行かなかった私が筆を取ったのは、天国にいる二人にどうしても伝えたいと思ったことがあるからです。
お母さんが最後に言ってくれた、『生きて』という遺言通り、私は生きてきました。
でもそれだけです。
二人から授かった命を大切にしようするのではなく、自分の力を活かせる場として命を失くすような灰色の日々を生きてきただけで、もう十五歳になるのに私は二人が居なくなった時から何も変わらないままでした。
そんな私に、大切な人が出来ました。
その人は出会った当初、冷たく突き放していたのにも係わらず、私に優しく接してくれて、時に怒ったり悲しんでくれたり、どうしてここまで私に拘るのか彼のことが理解出来ませんでした。
でも彼と関わっていくうちに、私は彼に恋をしました。
今日まで十五年生きてきて、きっと二人からすればやっとの初恋です。
最初はその気持ちを自覚しないどころか、煩わしさを感じてしまう程、私には無縁だと思っていました。
半月が経って自分が彼に恋をしていると認めてから、私の日常は一変しました。
彼とどんな話をしても、どんな場所に行っても、かけがえのない思い出としてキラキラと光輝くように彩られて、私の心は満たされていく実感を知って、とても嬉しい気持ちになりました。
初めて好きになった人が彼でよかったと一生後悔しないと確信出来る程に。
そんな彼に恋をしているのは私だけではなく、なんと、他にもいることを知った時は驚きを隠せませんでした。
ですが、それと同時に嬉しい気持ちもありました。
この人は他の人にも好かれる程の人なのだと認められたように感じたからです。
そう思える素敵な彼と日常を過ごしていって、私は今日になってお母さんが言った生きてほしいという言葉の本当の意味が分かりました。
あの時、お母さんは私に『絶対
何となくそう感じただけで、根拠も自信もありません。
それでも私は今日、この手紙を通じて二人にこの言葉を送ります。
私は、今幸せに生きています。
きっと、この先今まで以上の困難が待ち受けていると思います。
私は何度も泣いてしまうのかもしれません。
でも、生まれて来て良かったと誇ることは忘れません。
そんな困難を乗り越えて、昨日よりも幸せだと胸を張って言えるよう見守っていて下さい。
私は、好きになった彼と……友達や私を思ってくれる人達と過ごしていきます。
このかけがえのないたった一つの、私が愛するこの日常を……。
手紙はここまでです。
それでは、おやすみなさい。
ゆずより。
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