72話 魔導少女達の水着披露


 ホテルの一階にあるいくつかの広間の一つを貸し切りにして羽根牧高校二年生達が集まっていた。


 広間はオーシャンビューとなっており、海を眺めながらの昼食となった。


 昼食はバイキング形式で、各々が好きな料理をお皿に盛って食べていた。


 俺はチキンライスにスクランブルエッグを乗せ、小皿にはサラダ、カップにはコンソメスープを入れたものだ。


 ゆずはお茶碗に白米を盛り、お椀に味噌汁、四角い皿には千切りキャベツの上に海で獲れた魚を焼いて乗せる……という完全和食メニューだった。


「司が洋食オンリーで、ゆずが和食って……せっかくのバイキングなんだから好きなもの選べばいいのに……」


 鈴花が勿体ないという気持ちを滲ませながらそう言ってきた。

 鈴花のお盆には特にこれといったテーマが無く、鈴花が好きな食べ物しか載っていなかった。


「俺はあまりにも和洋中がバラバラだと落ち着かないんだよ、ラーメンセットで焼き魚とフレンチトーストが一緒に出てくるとモヤッとするだろ?」

「例えが極論すぎでしょ……」

「私は、和食の方が栄養バランスを取りやすいと思ったので……」

「うん、そっちは素直に尊敬できるわ……」


 昼食は一つのテーブルに六つの椅子があるため、班ごとに分かれて座る形だ。

 俺達三班の席順はというと、俺を挟むようにして俺の右側にゆずが、左側に鈴花が座り、対面では色屋と中村さんが隣合い、その二人と並ぶように左隣に石谷が座る形となった。


 図にすると……。


 中村 色屋 石谷

 ゆず 俺  鈴花


 ……という完全に石谷涙目な席並びとなった。


 この状態になって石谷は大いに悲しんでいた。


「な……なんで……並木さんの隣じゃなくて色屋の隣なの……対面は並木さんじゃないの……」

「あ? アタシじゃ不満ってこと? ぶっ飛ばすよ? そもそもアンタが集合時間ギリギリに来たから出遅れただけでしょ」


 そう、俺達は部屋に荷物を置いてすぐに来たため、自分達の好きな席順になっただけで、なにも石谷を悲しませるつもりは微塵もなかった。


 石谷が早く来ていればゆずの近くに座れた可能性はあったかもしれないが……。

 そして言外にハズレ呼ばわりされた鈴花の怒りを起こすという救いようのないおバカっぷりを披露しているのだ。


「出遅れたのもだけど、石谷君が真っ先に来ても同じ席になったと思うよ?」

「そうなのですか?」


 中村さんの言葉にゆずが反応した。


「うん、だって、ゆずちゃんって竜胆君の隣がいいんでしょ?」

「ええ、一番落ち着きますので」


 やだ待って照れくさいよゆずさん……。

 何気に菜々美さんから羨望の眼差しが飛んで来てる……。

 菜々美さんは教育実習生で一応教師扱いであるため、先生側の席に座っている。

 男性教諭から色んなお誘いを受けているが、あの慌てようだと多分本人にとって予想外のことだな。


「鈴花ちゃんは石谷君の隣って嫌でしょ? まぁ私も石谷君か色屋君かで言えば色屋君の隣が良いんだけどね」

「対面ならまだしも、隣は無いわーって思う」

「あ、俺今なら涙で滝作れそう……」


 女子二人の容赦ない言葉攻めで石谷の涙腺が緩みだす。

 日頃の行いとはいえ、ちょっと可哀そうになってきた。


「というわけで、石谷君が早かろうが遅かろうが、どのみちこうなったってこと」

「運命なんてクソくらえ!!! うわあぁぁん!!」


 横村さんの締めで石谷が完全に撃沈した瞬間だった。

 その姿は合コンで一人余った敗北者のようだった。


 そんな昼食の間に俺は先ほどゆずから送られたメッセージのことを思い出していた。


『昼食後の午後一時にこの場所に来てください』


 あれはどういう意味だ?

 他人に聞かれたくない、見られたくない何かがあるのか?


 昼食で顔を合わせた時に言えばいいのに、あえてメールで伝えてきたのがその証拠だ。

 それに今ここで聞いても答えてもらうことは出来ないだろう。


「……? 司君、食事が進んでいませんよ?」

「あ……悪いちょっと考え事してた……食欲はあるから大丈夫」

「あ……そうですか……」


 ゆずの表情に罪悪感がチラついた。

 

 しまった、完全に困らせていると思わせてしまった……。


「(ホントに大丈夫だから、メッセージのことで考えていただけだ)」


 ゆずにだけ聞こえるように小声で弁明する。

 俺がそういうとゆずはホッと安堵したのち、返事を返してきた。


「(不安にさせてしまってすみません、けれどメッセージのことは……)」

「(分かってる、誰にも言わない)」


 ゆずはその返答に頷き、自分の食事に戻った。


 事を敷いては仕損じるって言うし、俺も自分の昼食を終わらせよう。

 そう思って俺も食事の手を進めた。あ、チキンライスちょっと冷めてる。





 午後一時、待ちに待った海水浴の時間となった。

 夏の太陽に照らされた海は青く輝いていて、澄み切った海はとても綺麗だった。


 水着に着替えた男子達は我先にと海に突っ込んで行った。


「ヒャッハー、ウェミダァー!!」「泳ぐぜー!」「女子はまだか!?」「並木さんは!? 柏木先生は!?」「ポロリはありますか!?」「いや、そんな漫画じゃないし……」「いいや、かのマリーアントワネットはこう言った……〝無いなら、起こせばいい〟と」「天才か……?」「言ってないだろ!? それじゃただの犯罪だからな!?」


 なんか色々危ないこと言ってんな……。


 俺が着ている水着は薄緑のパーカーに紺色のハーフパンツだ。

 これからゆずや菜々美さんといった芸能人でもめったに見ない美女・美少女達と海で遊ぶことが確約されているのに、なんとも地味の域を出ない水着だった。


 い、一応これでも商店街で真剣に選んだんだぞ?


 海ではしゃぐ男子達を遠目で見ていると、水着に着替え終えた女子達も出てきた。


「うわぁ、海すご……」 


 男子達は他の女子を見ている中、俺の視界に一番最初に映ったのは鈴花の水着だった。


 鈴花の水着は上が赤と白のボーダーのホルターネックタイプのチューブトップになっていて、下はジーンズ柄のショートパンツという、動きやすさがテーマとなっていた。


 モデル体型の鈴花によく似合っていた。


「あ、司は先に来てたんだ――」

「ん? どうした鈴花?」

「――っえ、ああ、いや、アンタってそんなにがっちりしてたっけ?」

「ああ、これか? 河川敷の事もあって日本支部のジムルームで鍛え始めたんだよ。予め鍛えておけば前みたいに全身筋肉痛になるリスクも減らせるかもって思ってな」

「……ふぅ~ん。ちゃんと考えてんだ」

 

 鈴花は神妙な面持ちで感心したようにそう言った。

 

 魔導士や魔導少女達は体力作りのために体に身体強化術式を発動させながら特訓をしている。

 以前季奈にかけてもらった時のようないきなり全力は使わず、徐々にハードルを上げていって基礎体力を鍛えていくのだ。


 体力だけでなく術式に魔力を流し続けるため、繊細な魔力をコントロールする技術も身に着くという魔導少女達にとって基礎中の基礎だ。


 まぁ俺は魔力を操れないから翡翠に手伝ってもらう必要があるけど、俺がしているのもその亜種みたいなもので、翡翠に低出力で身体強化術式を俺の体にかけてもらいながらトレーニングをこなしている。


 そのおかげで短期間でそれなりに筋肉がついてきた。


「鈴花の水着も似合ってるな」

「ちょっと~? その誉め言葉はアタシにじゃなくて、ゆずに言いなさいよ?」

「あ、ああ、そのゆずは?」

「アタシよりあっという間に水着に着替えて先に出て行ったけど?」

「そうか……」


 ということはあのメールに鈴花は関わっていないのか……。

 ゆずの独断ってことか? 


「きゃあああああ!?」

「えっ!?」


 考え事をしていると、聞きなれた人の声で悲鳴が聞こえて来た。

 驚いてそっちを見ると……。


 水着を着た菜々美さんが俺の方を見て、両手で口を覆いながらあわあわしていた。


 え、一体何に叫ばれたの?


「り、りりり、竜胆君って、い、意外と……」

「えっと、なな――柏木先生?」


 危うく学校行事だっていうのに、菜々美さんをいつものように呼びそうになった。

 まぁ、もうみんなに知られているし、別にいいんだけど、菜々美さん自身はバレてないって思っているみたいだから、最初の約束通り学校では苗字呼びを続けたままだ。


「え、ええっと、竜胆君って、結構がっちりしてるんだね……」

「ええ、まぁ、最近鍛え始めたんで……」

「そ、そっか……」


 菜々美さんは俺と目を合わせず……というか俺の腹筋とか鎖骨とかをチラチラとみてくる。

 それ普通は男性側のする視線なのでは?

 なんて思っていると、菜々美さんが顔を赤くしながら口を開いた。


「あの! わ、私の水着……どうかな?」

「え、あー……」


 菜々美さんの悲鳴でそれどころじゃなかったけど、彼女が着ている水着はオフショルダーの白に青薔薇の柄が描かれているトップに、ビキニタイプのピンクのパンツというちょっぴり攻めているものだった。


 栗色の髪を頭頂部でシニヨンにしている菜々美さんは、慎ましくも形の良い胸と、魔導士として鍛えているため引き締まっている女性らしい曲線美を見せるくびれに、ビキニだから肉付きの良い太ももが顕わになっているで、柏木菜々美という女性の持つ色気というか、そういうのが余すことなく発揮されていた。


 そんな綺麗な人が俺に好意を持ってて、頬を赤くして上目遣いで見つめてくる……。


 正直、刺激が強過ぎてドキドキする。

 いつも見慣れている菜々美さんとは全く違う雰囲気に俺は心臓の高鳴りが抑えられそうにない。

 

「竜胆君?」

「っい、いえ、その……月並みですけど、めっちゃ似合ってて、良いと思います」

「! そ、そっか、うん、えへへ、良かったぁ……」


 胸の奥で騒ぐ心臓を抑えつつ、菜々美さんの水着姿を褒めると、彼女はとても嬉しそうにはにかんだ。


 そのはにかみに込められている意味を悟った俺は、思わず見惚れた。

 美人な人が可愛い表情するとか反則過ぎる。

 

 俺が菜々美さんにドキドキしていると、別の人物の声が聞こえた。


「おい、あっち! 柏木先生が水着になってる!」「え、マジで!?」「うおおおお! すげええええ!」「俺、修学旅行中に柏木先生に告白するんだ」「うおおおお柏木先生! うおおおおおお!」


 騒ぐ男子達に女子達が侮蔑の眼差しを送る。

 しかし、男子達は全く意に介していなかった。


 が、ここで問題が起きた。


「――ぁ、うぅ……」


 さっきとは違う理由で顔を赤くして両腕で自分の体を隠していた。

 

 以前工藤さんから聞いたが、菜々美さんは自身の無さや交流経験がないことから、男性に対する免疫はあまりないという。


 そんな人が年下とはいえ男の下心丸出しの視線を受けるのは、恐怖と羞恥が強いようだった。


 あいつ等がそんな視線を向けている内は絶対モテないなと、内心思いながら、俺は着ているパーカーを脱いだ。


「菜々美さん、頼りないかもしれないですけど、これをどうぞ」

「えっ!? 竜胆君のパーカー……」

「あ、俺のじゃ嫌でしたか?」

「そ、そんなことないよ! あ、ありがとう……」


 パーカーを受け取った菜々美さんはいそいそと羽織り、ジッパーを上げて前を隠した。


「「「「あ゛あ゛ーっ!!?」」」」

「何してんだお前!?」

「こっちのセリフだ。発情期のサルじゃないんだからちょっとはその煩悩を抑えろ」

「はぁ!? 自分だけ柏木先生の水着堪能しといて何言って――」

「じゃあ一生モテないな」

「「「「すんませんしたー!!」」」」


 変わり身早。

 

 と、そろそろゆずがメールで知らせたところに行かないと。


「悪い、ちょっと部屋に忘れ物したから取ってくる」

「そう? じゃあゆずを見かけたら伝えとくね」

「パ、パーカー洗って返すからね!」


 俺は二人と別れてゆずに指定された場所へと向かった。


 そこは岩陰に隠れて人目に触れにくい小さな浜辺だった。

 俺がそこに着くと、ゆずが既に待っていた。


 ゆずは髪を後頭部の高さに束ねて茶色のパレッタで止めていた。

 上には海水浴用のピンクの半袖パーカーを着ていて、腰には膝丈の長さに調節された白いレース模様の布を巻いていた。

 なおパーカーの前がチャックで閉じられているため、下がどうなっているのか見えない。


 ゆずも俺の姿を見ると、さっと顔を逸らした。

 え、なんで?


「(ボソッ)つ、司君の……体って……あんなに……」


 あ、これ俺の水着姿に反応したやつだ。

 鈴花といい、菜々美さんといい、皆妙に反応するな……そんないいものでもないだろう……。

 とりあえず、話を進めよう。


「悪い、待たせたか?」

「いえ、私も今来たところです」


 まるでデートの待ち合わせのような挨拶を交わしながら、俺はゆずにここに来るよう連絡した理由を訊ねてみた。


「それで、なんでこんなところに?」


 俺がそう言うと、ゆずが顔を赤らめながら両手の指を絡ませたり、解いたりしてもじもじと体を揺らしだした。


 ……えっと……これは……まさか……。


 俺の顔に熱が灯り出す。

 頬が紅潮している証拠だ。


 〝そんなことはない〟と思いつつ〝もしかしたら〟という期待が心に宿り出す。


「ゆ……ゆず……」

「――!!」


 俺がゆずに声を掛けようとした途端、ゆずがパーカーのチャックを下ろして脱ぎだした。


「え、ええええっっ!!?」

 

 俺は慌てて両目を手で隠した。

 ちょっとゆずさん!? 

 いくら何でもそれは大胆なのでは!?

 だって俺達まだ男女仲じゃないし、学生だし……!?


 俺の声にゆずがビクッと驚いて、開いたパーカーを手で閉じて俺の顔を見た。

 

「えっと、司君? そんなに驚かれると、誰かに気付かれてしまうので……」

「え、あ、お、わ、悪い……」


 そりゃそうだよね!? 

 あまり人目に触れちゃいけないことをしようとしているもんな!?


 マジか……俺はついに大人の階段を登っちゃうのか……。


 俺が一応大人しくなったのを確認したゆずはついにパーカーを脱ぎ切った。


 絶句するしかなかった。


 パーカーを脱いだゆずは水着を着ていた。

 ……絶句したのは水着を着ていたことにがっかりしたわけじゃない、ないったらない。


 というか下に水着を着ていたくらいすぐに気付けよ俺。

 さっきまで馬鹿なことを考えていた自分をぶん殴りたくなってきた……。

 

 ゆずの水着はビキニタイプで、露出面が多い水色のトップはゆずのバランスのいい胸が露わになっている。

 腰に巻いていた白いレース模様の布は、パレオと呼ばれるもので、ゆずの引き締まっている太腿と下に履いているボトムがチラつくという御淑やかさと煽情的な雰囲気を思わせる。


「……ど、どうでしょうか?」


 ゆずは顔をさらに紅潮させながら上目遣いで俺に感想を促してきた。


「あー、えっと……似合ってる……とても綺麗だ……」


 菜々美さんの時と同様、ここで月並みな感想しかでない自分の語彙力の無さに呆れるしかなかった。

 しかし、当のゆずはとても嬉しそうに微笑んだ。


「似合っているのですね、ふふ、一生懸命選んだ甲斐がありました」

「あのメッセージってその水着を見せるために?」

「はい、誰よりも先に司君に見て欲しいと思ったので……迷惑でしたか?」

「め、迷惑なわけないって! むしろありがたい気持ちしかない!」


 俺がそう答えると、ゆずは表情をパアァッと輝かせた。


 というか待ってほしい、今ゆずさんってば何を口走った?

 海水浴に着る水着を俺にいの一番に見て欲しかった?

 やばい、嬉しすぎて顔が熱い。

 熱すぎてぼうっとする……ええいこのニヤニヤする口元を戻さないと最高に気味悪いぞ俺!!


「そ、それじゃ水着披露も終わったし、皆のところに戻ろうか……」


 にやける口元を右手で抑えながら、俺はゆずにそう言ってそそくさと皆がいる浜辺に戻ろうとすると、ゆずに左手を引かれた。


「……ゆず?」


 ゆずの方に振り返ってみると、ゆずは顔を赤らめながら上目遣いで俺を見つめてこう言った。


「……もう少しだけ……二人きりで居たい……です」


 その時の俺がどうしたかって?


 断れるわけがないだろ?

 美少女の赤面+上目遣い×お願いだぞ?

 断れるやつがいたらそいつは人間じゃない、人間の皮を被った何かだ。


 俺とゆずは浜辺で隣り合うようにして座った。

 隣座るゆずの横顔はとても幸せそうな表情を浮かべていた。

 

 ふとさっきの菜々美さんを思い出した。

 もしこのままゆずと一緒に戻ったら、せっかくのゆずの気分も損なってしまうかもしれない。


 なら、ゆずの水着姿を他の男子達に見せないようにするしかないよな。


「なあゆず、戻る前にまたパーカーを着てくれないか?」

「え? それでは海水浴に来た意味がないのでは……」

「やーえっと、それはそうなんだが……」


 どうしよう……勢いで提案してみたものの、どう言えばいいのか全く考えてなかった。

 本当のことを言うしかないかぁ……引かれないよな?

 下手に言い繕うよりいいや、いけ俺!


「その……だな、ゆずの水着姿を他の男子に見られたくないから……なんだが……」


 言ってて恥ずかしくなってきた。

 だってこれ、俺はゆずに独占欲を持っていますよ、って言っているようなものだからな?

  

 ゆずだけっていうより、菜々美さんにもだけど。

 二人に好意を向けられて悪くないなんて思っている時点で本当に二人のどっちかを選ぶ気があるのか分からなくなってくる。


 もう二人に対してどう折り合いをつけるかより、どうやったら二人を傷付けないで済むのかってことに思考が傾きがちだ。


 我ながらヘタレ過ぎる。

 うだうだ考えていたら二人共傷付けたくないって、その原因を作ったのは自分なのにな。 


「悪い、やっぱ――」

「いえ、わ、わかりました……えへへ」


 照れ照れのはにかみを見せながらゆずがオーケーの返事をもらった。

 えへへって可愛すぎません? 

 ほんとゆずといい菜々美さんといい、色々ズルいなって気がして来た


 そんな幸せそうな表情を見ると、こうして悩んでいることが馬鹿馬鹿しくなってくるから。


 そうしていること時間にして十分、今度こそ皆のところに戻ることになった。

 

 学校の面々のいる浜辺では、男子達が海で泳がずに辺りをキョロキョロと見渡していた。

 あいつら海水浴そっちのけでゆずの水着姿を見る気満々じゃねえか!!


 そのことに気付いた時には男子の一人に見つかってしまった。


「あ、並木s……ぎゃあああああ! 眼鏡が一緒にいるぅぅぅぅぅ!!」「はあああああっっ!? 俺らに黙って柏木先生だけじゃ飽き足らず並木さんも独占とかマジ死ね!」「十分も眼鏡と一緒とか嫌な予感しかしねぇ!」「並木さんなんでパーカー着とるん? 可愛いけど、そうじゃなくて……」


 うるせぇぇぇぇ!!

 男子達の中での俺=眼鏡呼びは何なんだ!?

 別にやましいことはしてないよ! 

 頭を過りはしたけど!


 一方の女子達はというと……。


「これはどっち?」「二人の反応からすると、特に何かあった感じではないわね」「でも年頃の男女が二人きりで何もないとかありえなくない?」「何かってナニかでしょ?」「そういえば並木さんってさっさと着替えて行ったよね?」「あ、もしかして竜胆君に真っ先に水着を見せるために!?」「有り得る! きゃああああ初々しい!」「並木さんマジピュア!」


 鋭いなオイ!

 男子達から非難殺到しているのに、女子達からは称賛が贈られるってどういうことだ!?


「おいこら眼鏡! せめて俺らにも並木さんの水着を見させてくださいお願いします!」

 

 罵倒するのかお願いするのかどっちかにしろよ。

 というか菜々美さんと同じようにパーカー着せて正解だった。

 こんな下心丸出しなやつらにゆずの水着姿は百年早い。

 せめて煩悩を塵も残さず消し去ってから出直して来い。


「ダメに決まってるだろ、ゆずは日焼けしたくないって言ってるし」


 もちろん嘘だ。

 パーカーを着る適当な理由として事前にゆずと打ち合わせ済だ。


「え、その……日焼け止めとか塗っているなら大丈夫じゃ……」

「いくら日焼け止めを塗っているからって、日差しを浴び続けていたら日焼けするに決まってるでしょ? 紫外線の怖さ馬鹿にしないほうがいいわよ?」

「あ……はい」


 察した鈴花のナイスアシストで食い下がっていた男子が去っていった。


「サンキュ、鈴花」

「お安い御用よ、それよりゆずの水着はどうだった?」

「大変よろしゅうございました」

「それは良きかな、良きかな」

「二人共口調がおかしくなっていますよ?」


 突っ込まれた。

 どうやらゆずにはまだこのノリに付いて行くことが難しいらしい。


 そうして離れたところにいる男子達の反応が凄まじかった。


「「「「「やっぱ並木さんの水着姿独占してやがったあんの眼鏡ぇぇぇ!!」」」」」


 総勢三十人ほどの声が重なっていた。


 この分だと、ゆっくり泳ぐのも難しいか?

 そう思っていたら、トラブルのほうから飛んでくるとは、俺は思いもしなかった。



「あー! つっちー発見です!」

「おごほっ!?」


 俺の腹に小さな影が突っ込んできた。

 俺は咄嗟の判断でその影を下敷きにしないようにするので精一杯だった。


 ――ドシャアッ


 ここが砂浜でよかった。

 アスファルトの上だったら背中に剣士の恥を刻んでしまうところだった。

 俺は剣士じゃないけど。


 馬鹿なことを考えてる暇じゃないな、さてと……。


「なんでここにいるんだ? 翡翠」

「えへ、来ちゃった♡です」


 俺の腹に突撃を食らわせたのは、オリアム・マギ日本支部にいるはずの翡翠だった。


~おまけ~


鈴花「(サブタイをチラリ)……少、女……?」

菜々美「何か言いたいことでもあるのかな?( #^∀^)ピキピキ」

鈴花「ナンデモナイデース……」

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