Bullet 6 : 潜入!ななみ邸!

 気がつくと三日前の自分の部屋にいた。外を見ると夕暮れで、ちょうど僕が学校から帰る時間だ。僕は急いで階段を下がると、私服用の靴を履いて出かけた。


 夕暮れ時の商店街を駆け抜けて、一直線にななみの家に行く。途中にある公園を見て、ふと昔のことを思い出す。


 彼女との家は商店街を挟んでちょっと離れてはいるが、その間にある公園で幼稚園の頃から会っていた。小学校までは一緒によく遊んでいたが、中学では別の学校になってしまったのでパッタリと合わなくなった。


 高校に入って再び同じクラスになった時、彼女は僕のことを忘れていたのはショックだった。ただ次第に思い出してくれたのでホッとした思い出がある。


 彼女のことは最初から好きだった。記憶が正しければ、幼稚園の頃は――結婚しようとか、そんなことを言ったような気がする。


 あのまま真っ直ぐ育っていればもしかしたら僕と彼女は――いや、そういう妄想はやめておこう。


 悶々としながら走り、すぐに彼女の家に到着する。白い壁が綺麗な大きな家だ。流石は大学教授の家といったところだろう。その辺の家とは一線を画している。


 ただこの家、色々と死角があるのは僕はよく知っている。なんせ小学生の時によく彼女と鬼ごっこやかくれんぼをしていたのだから。


 彼女の家は四方を塀で囲まれて入るものの……ほら、やっぱり。裏口の門扉は必ず開いている。仮に開いていなかったとしても乗り越えやすい門扉だ。


 きしむ門をゆっくりと開けて、鬱蒼と茂っているミニチュアの竹林に身を潜める。小高い感じになっているので、家のリビングとかからは見えないようになっているのだ。


「何でこんなところ知ってるの?」


 ザミーがふよふよと漂いながら、呆れたように言った。


「昔よく遊びに来てて、かくれんぼでここに隠れていたんだよ。ここだと家から見えないけど、こっちからはよく見える」


「ふぅん。確かに……ほんとだ、こっちから見えないや。ニンジャみたいなスキル大活躍じゃない仁くん。ご先祖様はストーキングの天才だったんだよきっと」


「根っからのストーカー扱いやめてくれる?」


 左手からズズズっとライフルを取り出して構える。そろそろななみが来る頃だ。


 まるでスナイパーのように銃を構えて彼女の部屋の窓を覗く。暫くすると彼女が帰ってきて、真っ直ぐに部屋に戻ってきた。


 そして。


「――泣いている?」


 窓を暫く眺めるななみは、そのまま手をついて俯いて――大粒の涙を落としていた。


 窓越しでは何もわからないが、何かを叫んでいる。『どうして?』『なんで私は』と読心術の心得がなくても解るほどにそう叫んでいた。


「ザミー! おいザミー! 彼女の部屋に入れる?」


「いや、ダメかな。更衣室とかああいうのは大丈夫だけど、『個人の部屋』ってのはその人のみたいなもんだから、そう安々と通り抜けたりできないんだ。扉が開いているか、あの子の許可がいる」


 ぐぬぬ、そういえばそんな事、ずっと昔に言われてヤキモキした事件もあったっけか。


「でもあの子の部屋の扉でそば耳なら立てられるよ。どうするご主人様?」


「お願い」


 ザミーがオッケーと輪っかを作ってふよふよと飛んで行くと、スッと家の中に消えていった。


 しばらくライフルを覗いて彼女を見る。顔はぐしゃぐしゃになって目は真っ赤だ。あんなに感情を吐き出すなんて見たことが無い。


 一体何があったのだろうと思い浮かべても――いや、何もない。いつものように僕に悪態をついて、背筋をぴんと伸ばして授業を受けて、後輩たちにキャーキャー言われながら部活をしていたはずだ。


 やがて彼女は泣きつかれたのか、そのままベッドに寝てしまった。流石にそこは死角だったので見ることができない。


 そうこうしている内にザミーが戻ってきた。


「ただいまー。うん、よく聞こえなかった」


「ごまかして可愛く笑うんじゃないよ。こっちは大真面目なんだ」


 ザミーのほっぺをぎゅにににと引っ張る。彼女は手をバタつかせながら「ひゃーめーへぇー」と間の抜けた声を上げていた。


 話すと頬を擦りながら涙目になるザミー。


「もう。いつもは触ってくれないくせに。こういう時だけ」


「そういうのいいから! 何か分からなかったの? ちょっと聞こえたものだけでいいから……」







 ぎょっとして隠れる。おそるおそる竹林の影から覗くと、そこにはスーツ姿の男がキョロキョロしていた。体格が良く、髪は白髪だがびしっとオールバックにキメた厳ついその男。昔よりも多少老けたが間違いない。ななみのお父さんだ。


「やば! 見つかった! どうしよう!」


「透明になればいいんじゃない?」


「君の基準で言わないで! スナック感覚で透明になれる人間がどこにいるんだよ!」


「何か声が……」


 そう言ってななみパパが竹林に近づいてくる。ヤバイ、ここで見つかったらさらに未来がややこしくなってしまう。裏口から逃げようにもここから門扉までは遠く、逃げても絶対に目撃されてしまう。


 しかしここで奇跡が起こる。体が青白く光り始めた。時間遡行のタイムアップのようだ。


 しかしこうなってもスグには帰れない。しかも光ってちょっと目立っている。


 僕は祈るようにしてそこにうずくまる。段々と足音が近づいて来て、もうすぐそこにななみパパがいる――。



 気がついたら、自分の家だった。



「た、助かった……」


 ヘナヘナと腰を降ろす。ザミーはというと案の定大爆笑しながら宙をグルングルンとのたうち回っていた。


「キシシシシシシ! う、ウケる! 仁くんウケる! カエルみたいに無様に伏せちゃってさ! 何アレ! なーにあれ! も、もっかいやってよ! イヒヒヒヒヒヒ!」


 いつもこうだ。この悪魔は僕の無様な姿が本当に好きで好きで仕方がないらしい。


 緊張が解けたので暫くは呆けていたが、段々とむかっ腹が立ったので立てかけてあるザミーの本体を――それはそれは入念に磨き上げてやった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます