第46話

 赤く光る魔法陣がまるで上にある時計のように一番上から右回りに光が消えていく。

 光が完全に消える……それは大爆発が起こり、会場が崩壊するということになる。

「ははははは! 私はそう簡単に終わらない! 念には念を入れて用意した甲斐があった! こうなったらこの身諸共壊してやるわぁぁぁぁぁ!」

 頭上とおでこにたんこぶを作ったアンフェールは自棄を起こし、叫んだ。

 ヨルカはアンフェールのその用意周到さに苛立ちを感じた。

「くそ……ブラン聞こえるか?」

『あ、はい! どうしました?』

 ヨルカはすぐに魔道具でブランに知らせた。

「説明は省くが、もうすぐ会場が爆破するかもしれない」

『えぇ!?』

 いきなりのことにブランは驚いた。

「ワイドリー達と一緒に招待客の避難を頼む」

『わ、わかりました!』

 ブランはすぐに切り、こちらもコルトと共に作業を始めた。

「我々は魔法の解除だ」

「はい」

「させるかぁ! 水魔法!」

「ふん!」

「あぐぅ……!」

 アンフェールが一物を構えようとした時、コルトは容赦なく股間に強烈な蹴りを入れた。

 変な声を上げると、アンフェールはゆっくりと膝から崩れ落ち、再び仰向けに倒れると、動かなくなった。

「ヨルカ様にこれ以上汚れた物を見せないでください」

「よくわからんが痛そうだな……」

 女である二人に男のこの痛みはわからない。

「とにかく急ごう」

 ヨルカとコルトは魔法陣の元へ向かった。

 魔法陣は壁に刻まれている形で、すでに光は四分の一まで消えていた。

「思った以上に早いな……魔法陣は傷をつけて形を変えれば止まるはずだ」

「おまかせください。はぁ!」

 コルトはミスリルの短剣で壁の魔法陣を切りつけると、魔法陣に斜めに大きな切り傷をつけた。

「これで……ヨルカ様、止まりません」

「え?」

 傷をつけても魔法陣がまだ発動している。

 ヨルカはおかしいと思い、近づいて調べ始めた。

「…………これは」

「どうですか?」

「魔法陣が深く刻まれている」

 ヨルカが壁に触れると、魔法陣がコルトがつけた切り傷よりも深く刻まれていることに気づいた。

 刻まれた魔法陣を細い指で突っ込むと、人差し指がすっぽりと入った。

「まだ余裕がある。相当深いな……おそらくこれは風の刃で文字や印を刻み込む風魔法『風の刻印ウィド・スタップ』。それをこの魔法陣の形に何度も同じ位置に傷をつけて深く刻んだんだと思う。コルトが傷をつけても、残った無事な部分が発動しているんだ」

「あの男、どれだけ用意周到なんですか……でしたら何度も傷をつければいずれーー」

「そうしたいが、これ以上傷をつけると、今度は上の時計台が支えきれなくなって倒れてしまう。いずれにせよ大惨事に近い」

「一体どうしたら……」

 万事休すの状況に悩むヨルカ。

 魔法陣の光が半分近くまで消え、刻一刻と迫っている。

 ヨルカは焦りを感じたその時だった。

「…………傷をつけるのがダメなら塞げばいいんだ」

「え?」

 ヨルカの案にコルトは疑問符を浮かべる。

 ヨルカは杖を倒れているアンフェールに向けた。

「変異系魔法第十一術式、『融合ヒュード』」

 ヨルカが呪文を唱えると、杖から赤い光の線を出した。

 赤い線がアンフェールに当たると、ヨルカは杖を操作してアンフェールをズルズルと動かし、壁に近づけている。

 アンフェールの頭が壁に当たると、すぐに変化が始まった。

 壁のついた部分からどんどん壁と同色になり、全ての肌が壁の色がになると、人の形からゴキゴキと音を鳴らしながら圧縮するかのように縮み、壁に吸い込まれていく。

 豪華な上着だけを残し、完全に吸い込まれると、壁にも変化が現れた。

 壁からミシミシと音を立て、魔法陣の傷の部分が盛り上がっていく。

 ヨルカの考えは傷がついた分無くなった壁の質量を『融合ヒュード』をかけた人間で代用し、増やして傷を塞ぐことだった。

「くっ、まだか……」

 しかし思った以上に傷が深くまだ半分ほど塞がってない。

 魔法陣は残り四分の一に入り、時間はない。

「……仕方がない。もう一仕事だ。変異系魔法第一術式『原点回帰オリジ・レグス』」

 ヨルカは遠くで割れた石の盾になっていたニアに魔法をかけた。

 真っ二つに割れた石の盾が一つになり、平坦だった石が膨れ上がり、手足が生え、人の形が段々はっきりすると、ドレスが胸元に破れてはいるが、ニアは元の姿に戻った。

「ん……あれ? 私は……きゃあ! どうしてドレスが!」

 今まで気を失ったニアは起き上がり、胸元が破れたドレスではだけた状態に気づき、ドレスを持ち上げて隠した。

「あ、思い出した……男爵様の尿が……尿が~……」

「忙しいやつだな……」

 ニアは気がついてすぐ、アンフェールの放尿魔法のことを思い出し、パニックを起こし始めようとしている。

「まぁ、とりあえず今は緊急だ、さっさと済ませよう」

 ヨルカはニアに再び杖を向けた。

「変異系魔法第十一術式『融合ヒュード』」

 杖から長く赤い伸びた光が一直線にニアに当たった。

「えっ何? 何!? 嫌ぁー! 引っ張られるー!」

 ヨルカが杖を操作すると、ニアがまるで釣り針に引っ掛かった魚のように、ドレスを擦らせながら、引っ張られている。

「うぐっ!」

 そして足が壁にぶつかると、変化が始まった。

「一体何を……え?」

 ニアの足が壁から離れない。

 なぜならヨルカの魔法で壁と同化し始めたからだ。

「何これ!? 私の足が! 嫌、助けて! 助けてぇ!!」

 足から肌が壁の色になっていき、この状況にニアはパニックを起こした。

「ちょっと待って! 待って!! 待っーー」

 全てが壁と同じ色になると、ニアの体は固まり、しゃべらなくなった。

 ニアの体がどんどん歪んでいく。

 アンフェールと同じく人の形から丸みを帯びながら縮んでいき、ゴキゴキと音を鳴らして壁に吸い込まれていく。

 体が完全に吸い込まれると、破れたドレスのみを残し、ニアの姿がなくなった。

 壁からもミシミシと音がすると、傷が塞がっていくが、そこまで早くはなかった。魔法陣発動まであと少しになる。

「コルト! 斬れ!」

「はい! はぁ!」

 これでは間に合わないと思い、ヨルカはコルトに指示をし、コルトは短剣で切り裂いた。

(間に合え……)

 やれることを全てやったヨルカが、しゃがみながらそう心の中で唱えた。

「………………」

 少しの沈黙の中、静寂が続いた。

 爆発は起きず、ヨルカが魔法陣を見上げると、ほぼ消えかけていた魔法陣の赤い光が十二分の一まで無くなる所で止まり、残った光がゆっくりと消えていった。

 アンフェール、ニアによって壁の質量を増やして傷を浅くし、コルトが魔法陣に傷をつけたことにより、魔法陣に傷をつけて爆発を防ぐことができた。

「やりましたね、ヨルカ様」

「ふぅ……」

 さすがのヨルカも命の危機を感じたのか、助かって緊張の糸がほぐれ、壁に寄りかかった。


 爆発を阻止したヨルカはその後、『原点回帰オリジ・レグス』で壁に同化された二人を元に戻した。

 着ていたドレスで裸を隠したニアは、さっきまで裸同士でアンフェールとも同化していたと考えると、再び白目を剥いて倒れ、彼女に大きなトラウマを植え付けたのだった。

 フルールや貴族達はブランやワイドリー達が避難させたかいあって全員無事。

 ヨルカ達はこの事件の元凶であるフルールや貴族達に屋上で起きたことを説明した。

 フルールは驚いた。彼女は「皆、この美しい私と付き合っただけで嬉しいんじゃないのですか?」と父親の心配など一切せず、まるで自分が無関係かのような発言をするとーー。

 今日ここに来た客ほぼ全員が「そんなわけないだろう!」とツッコミを入れた。

 彼女の鬱憤を晴らすかのように、ある者は大声で罵声を、ある者はネチネチと、地べたで座らされているフルールを囲み、説教を始めた。

 フルールも最初はむくれながら聞いていたが、最終的には逆ギレをして襲いかかった。

 後にアンフェールは男爵の地位を剥奪、領土は分割され、隣接されたの領主達に吸収されることとなり、フルールもただの平民に成り下がる。

 こうして爆発事件は全員無事で事なきを得た。



 ***



「お疲れさ~ん、ヨルカちゃん達」

 王都に戻ったヨルカ達は城にいるグフター騎士団長に報告した。

 少女騎士団は朝まで寝ずに活動をしたため、休んでいる。

 ヨルカとコルトは平気だが、男に戻ったブランとワイドリーは目を眠そうに目を擦らせている。

「あぁ……まさかこんな大事になるとは思わなかったからな」

「そうだねー、まさか爆発騒ぎにまでなるなんて、少女騎士団だけでは上手く行かなかったよ。いやーヨルカちゃんを連れて正解だったよ!」

 笑顔で話すグフター。

 ヨルカは不機嫌そうな顔でグフターを睨んだ。

「騎士団長、知っていただろ。爆発が起きることも、魔法陣のことも……」

「さーて、なんのことやら」

「あなたは誤魔化す時、にやけるほど笑顔になる。一応長い付き合いだからな」

「はっはっは。バレたか!」

 グフターは大声で笑い、すぐに嘘をばらした。

「事前に屋上を調べてたからね。魔法陣のことはわかっても、強引に壊したら時計台が崩れてしまう。だからヨルカちゃんに頼んだんだよ。魔法に関する問題を解決するにはやっぱり魔法使いがいいと思ってね」

「やはりか……」

「いやー、カイダル王子にも聞こえるように噂を広げておいてよかったよかった」

「…………は?」

 ヨルカ達は呆気に取られた。

「今回の件、貴様がばらしたのか?」

 ヨルカは若干切れ気味に言った。

「そ、少女騎士団の初仕事が決まってすぐ、ヨルカちゃんの報告が来てね、だったら合わせようということで、カイダル王子を利用した。ヨルカちゃんも王族相手なら必ず来るからね」

「貴様……今回は今後の活動に支障をきたすかと思って内心ヒヤヒヤしていたんだぞ!」

 ヨルカが大声を上げると、グフターは両手を軽く上げてなだめた。

「まぁまぁ、今回の仕事で少女騎士団の今後に関わるからね。ほら、うちの新入り結構あれな奴らばかりだから、真面目な彼女達や戦力としても必要だからさ」

「…………」

 グフターがワイドリーを見ながらそう言うと、ワイドリーはそっぽを向いた。

「ま、というわけだからさ。今回は報酬は弾ませてもらうからさ」

「もういい……眠いから一度寝かせてもらう」

「は~いお疲れさ~ん……あ、そうそう」

 ヨルカはため息をつきながら、部屋を後にしようとしたら、グフターに止められた。

「あのさ、パーティーの出席者達が人探しをしているらしいんだけど知ってる?」

「は?」

「何でも誰の知り合いでもないのにパーティーに突如現れた、顔に傷をついた白いドレスと小柄の黄色いドレスを着た謎の美少女二人だと、付き合いたいやら求婚とかで探してるみたいでさ、ギルドでも依頼が殺到して多額の報酬も出るんだと」

「謎の美少女……」

 ヨルカはワイドリーとブランの方を向くと、

 二人は鳥肌を立てて、嫌な顔をした。

 その後ヨルカが説明し、グフターが腹を抱えて爆笑したのは言うまでもなかった。



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