第43話

 夜になり始まったばかりの暗い道の先に大きな光が見えてきた。

 その正体はたくさんのライトで照らされた大きな時計台がそびえ立つ正方形の屋敷。

 ここは臨時会場。

 その昔、王家がアークロード派が城を襲撃し、半壊された際に来客を招き入れるための臨時として作られた建物。

 現在も多くの貴族がパーティーなどの催しで使用している。

 ヨルカ達が乗っている馬車は会場の裏に止まり、そこにはニア達少女騎士団が先に待っていた。

 馬車の扉が開くと、少女騎士団全員が唖然とした。

 馬車から降りてきたワイドリーとブランが見事に女性になっているからだ。

 その美しさに女である彼女らが少しばかりの嫉妬をするくらいだった。

「ま、まさか本当に女性になっているなんて……これが変人の魔法使いの力……」

 ピンクのドレスを着ているニアは心のままを口にし、驚いている。

 ヨルカは黒、コルトは白、ワイドリーは水色、ブランは黄色と、それぞれ用意されたドレスを着て、ハイヒールを履いている。

 犯罪奴隷であるコルトは念のため、髪を後ろに結んで髪型を変えている。

「ドレスにつかなくてよかった……」

「何がですか?」

「いや、なんでも」

 ヨルカの小声にニアが反応したが、ごまかした。

「……ところでどうして彼、じゃなくて彼女は顔を赤くしているのですか?」

 ニアは顔を赤らめたブランに疑問を持って聞いてみた。

「気にしないでくれ。ただ心は男性だから恥ずかしがっているだけだ」

「なるほど」

 しかしヨルカが代弁し、ニアは納得した。

 ただヨルカの魔法の快楽により、漏らしてしまったなんて言えるわけがないからである。

 全員が揃った所でニアは今回の任務の指示を始めた。

「では改めて、我々少女騎士団初めての任務は今回のパーティーの主役であるフルール・フォン・アンフェール様の警護、並びに脅迫状の差出人を特定することです」

 昼間はワイドリーに怯えていた少女騎士団は、仕事に入ると顔が引き締まった。

「警護班(鎧を着けた方)はフルール様周辺の警護を、潜入班(ドレスを着た方)は犯人探してください。パーティーはもうすぐ、それまでに建物内を把握、危険物がないか確認をお願いします」

「「「「「「はい!」」」」」」」

 少女騎士団の他の六人がニアの指示に力強く返事をした。

 そして裏口から入って、中を調べ始めた。



 ***



「こんな所か……」

 数時間後、ヨルカ達は会場のすぐ裏にある職員の控える部屋に集まり、見回りを終えた。

 内装はいたってシンプルなもの。

 まず一階は建物の半分以上を占める広い会場。廊下を挟んで料理を作る大きな調理場と他は全部物置となっている。

 二階は全部テラス付きの休憩、宿泊用の部屋となっており、あとは時計台に通じるはしごのみ。

 特に何も異常はなかったため、あとはパーティーの警備のみとなった。

「それでは皆にこれを支給します」

 ニアが手に持っているのは、紐で繋がっていて、魔法陣が刻まれている小さな二つの塊。その内の一つは丸みのある突起物がある。

「これは……魔道具だな」

「はい、この突起物のある方を耳に刺し、魔力を口元に集中しながらもう一つに向かって喋れば、同じ物をつけた人と通話が出来るんです。ただし建物の外だと聞こえづらいですし、何人も同時に話すと同時に聞こえてわからなくなるので、注意してください」

「こんな物もあるんですね」

 コルトは魔道具を見て不思議がった。

「ああ、両方とも風の新式魔法陣が刻まれていて、それに魔力をこめながら向かってしゃべると、魔力と混ざった声が風や空気に同化。そして耳についているもう一つの魔法陣がその声を感知し、声が聞こえるようになる」

「詳しいのですね。さすが魔法使い様です」

「まぁな」

 ニアは自分の知らないヨルカの知識に感心した。

「失礼ですが、あなた方が王都の少女騎士団ですかな?」

 ヨルカ達の元に貴族らしき親子が現れた。

 父親はやせ形で優しそうな印象で、娘の方は赤を基調とした派手なドレスを着ている。

「はっ! アンフェール男爵様とお見受けします。今回のフルール様の警護を任せられました!」

 ニア達少女騎士団がその場にひざまずくと、ヨルカ達も今回は彼女達の任務の手伝いのため、信用を損なわれないよう跪いた。

 頭を下げないワイドリーも、コルトとブランの協力により強制的に下げた。

「そうですか、今回はどうか娘をよろしくお願いします。ほらフルールも」

「よろしくお願いいたしますわ」

「はっ! 誠心誠意、命を賭けてお守りいたします!」

 フルールと父親もお互いに頭を下げた。

 ヨルカは新鮮味を感じた。

 ワイドリーのような不良。

 セガル達のような貴族育ちのわがままな卑怯者。

 ブランは一番普通だが騎士として頼りない。

 団長のグフターはおちゃらけている。

 今まで見た中で最も騎士らしい姿を見て、ヨルカは少女騎士団に感心した。

「本当に女性だけですのね。いい男がいたらお近づきになりたかったのですが……」

 すでに彼氏がいる上に男が原因で命を狙われているにも関わらず、フルールは未だに男性を求めて残念がり、ヨルカ達は口には出していないが呆れている。


 その後、フルールに犯人の候補である今まで付き合って来た十数人もいる男性の特徴などを聞き、聞き終えて数分もしないうちにパーティーは開催された。

 会場前には多くの馬車が並び、そこから貴族達が続々と入っていく。

 念のため会場内は武器の所持を禁じ、武器や毒、魔法に関する物を隠し持っていないか念入りに確認した。

 お付きの従者には、武器を所持する代わりに会場の端に寄ってもらっている。

 中は装飾が施され、テーブルには豪勢な料理が並び、会場は一気に華やかなパーティーと化した。

 パーティーの主役であるフルールは飲み物が入ったグラス片手に楽しんでいる。

 次々と挨拶に来た同年代の男性に抱きついたり、頬にキスをしたりと、過剰なスキンシップをしている。

 ちなみに現在付き合っている彼氏は犯人に狙われる可能性があるため欠席させている。


 ヨルカ達はバラバラに散らばり、警護に入った。

 鎧を着た少女騎士団はフルールに何かあった時のために周囲を見張り、ヨルカ達は辺りを見渡した。

「よろしければ今度個人的にお茶でもーー」

「いえいえ、こんな奴より僕がーー」

「あなたのような可憐な方がいるなんて、この出会いを神に感謝ですね」

 なんと女性になったワイドリー、ブランがそれぞれ男性に囲まれて口説かれている。

 ワイドリーは明らかに嫌な顔をし、ブランは慣れないことにオロオロと狼狽えている。

 ヨルカは渡された魔道具でニアに話しかけた。

「ニアよ、ヨルカだ。約二名が動けない様子なんだが、どうする?」

『……放っておきます』

 ニアは苛立ちを含んだ声で二人を見捨てた。

 ヨルカからニアが見えたが、男が寄って来ていない。

 これは昼間での勝負の腹いせなのか、元々男の二人がモテているのに、自分には寄って来ない腹いせなのかわからないが、少なくとも嫉妬による物なのはたしかだ。

「ねぇ君、小さくて可愛いね」

 いきなり後ろからヨルカにも誰かに声をかけられた。

 しかし相手はヨルカより少し背は高いが明らかに年下の男の子。

「あぁ?」

「ひっ……」

 子供に口説かれて、子供扱いとみなしたヨルカは鋭い眼光で睨み付けると、少年はたじろぎ、逃げ出した。

「全く……」

『ヨルカ様、こちらはフルールと恋人関係だった方々を見つけました』

 魔道具からコルトの声が聞こえた。

 コルトもそれなりの美人ではあるが、暗殺者の技術を生かし、端の方で気配を消して話しかけずに済んでいる。

『対象は全部で三人、まずヨルカ様の近くにいる頭が禿げている男です』

 ヨルカは辺りを見渡すと、高価な服を着た頭に毛が生えていない若い青年が無表情でフルールをじっと見ながら、酒ではなく水を飲んでいる。

『残りはフルールの右横のテーブルにいる太った男とその隣にいる背の小さな男です』

 ヨルカはフルールの所まで近づくと、コルトの言った通り、近くのテーブルで太った男と背の小さな男がフルールを見ながら耳打ちで話をしている。

 どんな話をしているかは人混みの多さで聞こえない上に近づくことが出来ない。

『ヨルカ様、三名が外に出ました』

 コルトの声にヨルカは人混みを避け、迂回して再び二人に注目すると、二人の男、そして禿げの男がそれぞれ会場内を出た。

「どうする?ニアよ」

 ヨルカの質問にニアは少し考え、すぐに結論を出した。

『……もしかしたら合流して、三人全員で協力している可能性があります。会場は警護班に任せて我々は後を追いましょう』

「では二手に別れよう。コルト、合流出来るか?」

『了解しました。では私達はーー』

『おい』

 コルトの声を遮ったのはワイドリーだった。

「ワイドリー、男共は大丈夫なのか?」

『あいつになすりつけた』

「「「僕とお付き合いください!」」」

「あわわわわわ……」

 ワイドリーが言うあいつとはブランのこと。ブランは多くの男性に同時に告白され、さらに困惑するブラン。

「すごいなあいつ……生まれる性別が違っていたら人生が変わっているだろうな」

『で、俺は何すればいい? その三人を殺すか?』

「殺さない。ニアと共に尾行してくれ」

『ちっ』

 ワイドリーは早く元の姿に戻りたいのか、殺すという手っ取り早い方法にヨルカが反対すると舌打ちした。

 話し合いの結果、ヨルカとコルトは禿げの男を、ワイドリーとニアは二人組の後をつけた。


 禿げの男の後を追うヨルカとコルト。

 男は会場の外に出ようとしている。

「なぜ外なんだ?」

「暗殺者を雇っているかもしれません。その証拠を押さえ次第、この短剣の餌食とします」

 コルトは父親である金色の風の形見であるミスリルの短剣を取り出した。

「わかったからとりあえずそれをしまえ……ん?」

 ヨルカが目に止まったのは会場入口の受付にある、人の名前が書いてある羊皮紙の束だった。

「これは、出席者の名簿か?」

「ヨルカ様、男が外に出ました」

「あ、あぁ……」

 ヨルカは名簿を手に取り、パラパラとめくったが、コルトに呼ばれてすぐに置き、禿げの男の後を追おうと外に出るのだった。



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