第42話
昼過ぎ。
城の広い庭でワイドリーとグフターとの熾烈な争いが繰り広げている……かと思いきや、勝負は実にあっという間だった……。
睨み合う二人、最初に仕掛けてきたのはワイドリーだった。
走って迫り来るワイドリーにグフターは落ち着いて構えている。
素早く、首元に向かって斜めに切りかかると、グフターは勢いあるワイドリーの剣を手で止めた。
止めてニヤリと笑うと、グフターは木の剣でワイドリーの顔面を左右一発ずつ殴り、最後に真上に向かって振り下ろし、叩きつけた。
どの攻撃も強力でたった三発でワイドリーを撃沈させ、今に至る。
ワイドリーは仰向けで気絶すると少しして気がつき、起き上がると、傷ついた顔で唇を噛みしめながら悔しがった。
「はっはっはー、俺を甘く見すぎだぜワイドリー」
グフターはいつものようにおちゃらけた感じに戻った。
「仮にもこの騎士団の団長よ。一応手加減しようとしたけど、女の子を泣かすなんて騎士道に反してるからお仕置きしちゃった」
「俺はまだ負けーー」
「負けてるよ。気絶した時点で本番だったらとどめを刺されて死ぬんだから」
「くっ……」
「しっかし思ったより弱いね~、見習いの中ではずば抜けて強いけど、ただそれだけ。そんなんじゃ例のユウセンに勝つなんて夢のまた夢だよ」
グフターはまるでわざとかのようにワイドリーを煽り、ワイドリーは目を見開き、今にも襲いそうなほどの殺気を放っている。
「ワイドリー、お前は一人じゃ何も出来ないこと知りなさい。人っていうのは群がらないと生きれない弱い生き物なんだから。お前の相手しようとしてるユウセンだって、集団なんだから、信じられる仲間を持たないと」
少しの間ではあるが、育ての親らしくグフターは優しく説教をした。
自分がどれだけ弱いか、仲間が必要かを悟らせるように。
「………………?」
だがずっと動物と一人の人間以外に心を開かなかったワイドリーには到底理解出来ず、首をかしげた。
「まぁ、じきにわかるかな? そんなことより、へっへっへ~、ワイドリー、約束は覚えてるよな~」
にやけるグフターに、ワイドリーとヨルカは不満な顔をした。
ワイドリーが負けたらヨルカ達も言うことを聞くという約束を……。
「そんじゃ、ヨルカちゃん達には少女騎士団、初任務の手伝いをしてもらう」
「「……は?」」
ヨルカとワイドリーは口を開いたまま呆然とした。
「グフター、何を言っているのだ?」
グフターの意見にフリーナ王女が異議を唱えた。
「王女様、さすがにまだ経験の少ない彼女達だけに行かせるのは騎士の経験から見てあまりにも酷。ぜひ戦闘経験のある変人の魔法使い達にご同行願いたく思います」
グフターはフリーナ王女に頭を下げ、説明をした。
「そんなに不安か……一応私が育てたのだが……」
「言いづらいのですが……」
フリーナ王女は軽くショックを受けた。
「そうか……わかった」
「ありがとうございます。それじゃあ少女騎士団とヨルカちゃん達は着いて来て! 他はちゃんと訓練するように!」
ヨルカ達と少女騎士団はグフターの後を着いていった。
***
フリーナ王女と別れ、ワイドリーとニアのケガをヨルカの
汗臭さが残るこの部屋に、全員大きなテーブルを中心に囲むように座った。
「…………」
ワイドリーに苦手意識を持ってしまったニアは目をそらし、出来るだけ離れて座った。
全員座った所でグフターは説明を始めた。
「それでは、少女騎士団初めての任務、それはとある貴族様のパーティーの警備になる」
「パーティーとは?」
ヨルカは手を挙げてグフターに質問した。
「ここからそう遠くない所の会場で貴族の娘さんの誕生日パーティーがある。そこの警備をすることになった」
「我々も手伝いを願うということは普通の警護ではないってことか?」
「これ」
グフターがテーブルの上に出したのは一枚の羊皮紙。
そこには大きさがバラバラで全体的に丸みのある癖のある字で何か書いてある。
「何々……『僕を捨てた君が憎い。死を持って償え』……脅迫状か」
「そう、その娘さんが男を手玉に取ってはとっかえひっかえして、男心を弄ぶひどい子でね、多分その内の一人からだと思うんだ」
「それで警備……しかしなぜ少女騎士団がすることに?」
「簡単に言えば恨まれる相手は多過ぎてわからず、男ということしかわからない。とりあえず女の子にすれば目移りしたり、誘惑とかしてもしかしたら阻止出来るかな~みたいな?」
「ずいぶんふんわりとした理由だな」
「少女騎士団ってそのために結成されたもんだし」
「どういう意味だ?」
「そこは私が説明します」
今度が少女騎士団の一人が手を挙げて、説明を始めた。
「我々少女騎士団は騎士団というのはほぼ名ばかりで、実際は諜報などが主になります。時には体を売ってでも相手の情報を聞き出すことも
「そう、王女様は騎士として育ててるけど、うちの城には諜報員とかは少ないし、懐に入るのは女性の方がやりやすいからね」
「あ~それであれか……」
ヨルカはワイドリーと戦った際にやった色仕掛けを思い出した。
あれは相手の懐に入るために必要なことだったらしい。
「父親の貴族様からも、男が来ると娘が目移りして今の恋人にも恨みを買う恐れがあるから女性がいいとのことだ」
「そんなになのか……」
依頼人の娘の浮気性ぶりにヨルカは呆れた。
「そしてその会場も広い、見張りは十人以上は欲しいところだ」
「十?」
ヨルカは指で今いる女性の人数を数えた。
少女騎士団は全員で七人。
コルトを元に戻し、ヨルカを入れても九人。
「あと一人か二人の女性……つまり……」
「そ、ワイドリーとブランにはヨルカちゃんの魔法で女の子になってもらいます!」
「はぁ!?」
「えぇ!?」
グフターの提案に二人は立ち上がり、声を上げた。
「おーっと、今更断るのはダメだぜ。何でもする約束だろ。ひひひひ」
「この……」
ニヤニヤと笑うグフターにワイドリーは再び殺気を放ち、少女騎士団達は怯えている。
「そんじゃ、あとはよろしく」
グフターは立ち上がって、部屋の出口へと向かった。
「一緒じゃないのか?」
「騎士団長は色々忙しいのよ。いやーこんな時にヨルカちゃんが来てくれてよかったよ。はっはっは!」
グフターは笑いながら部屋から出た。
部屋の中は沈黙に包まれた。
不機嫌なワイドリーに怯えて目を合わせようとしない少女騎士団。
第一印象は最悪のこの面子でやることになり、ヨルカはやる前からため息をついた。
***
夕方、ヨルカ達は準備を済ませて東へと向かった。
城の馬車に乗って揺られるヨルカ達四人。
ワイドリーは不機嫌な顔で外を眺めている。
「何をそんなに不機嫌になっているんですか?」
「黙れ」
「そこまで苛立つことはないじゃないですか。たかだかドレスを着るくらい」
コルディアになっているコルトがにやけながらワイドリーに話しかけた。
ワイドリーが不機嫌な理由は、グフターが帰った後のことだった。
ニア曰く、警護を鎧をつけて見回る普通の見張りと、ドレスを着て客に紛れる見張りの半々に分けると言った。
くじの結果、ヨルカ達四人とニアがドレスを着ることとなった。
馬車には人数分のドレスが積まれている。
ドレスを着るため、ワイドリーとブランの二人は鎧を外している。
「ちっ、何で俺より弱いのに、動きにくいドレスなんか着なくちゃいけないんだよ……」
「そこは運ですから仕方ありません。諦めてください。ブツブツ言う割には抵抗はしないんですね。てっきり暴れるかと」
「約束を破るとか、セガルみたいなクソの真似はしたくないだけだ」
「たしかに……特にセガル君はわがままばっかりでサボったりしてましたね」
ワイドリーの言葉にブランが話に入ってきた。
「あいつの方が騎士としてどうかと思うがな……にしてもブランよ。ずいぶん抵抗がないんだな」
ヨルカの言うとおり、ドレスを着なければいけないブランは冷静である。
「いや、その……僕の家、姉が三人いまして、小さい頃はよく強引に女物の服を着させられました」
「「あぁ……」」
失笑しながら恥ずかしい過去を言ったブランに、ヨルカとコルトはその女顔を見て納得した。
「オホン、では時間もないことだし、早速やろうか」
ヨルカは懐から杖を取り出し、コルトに向けた。
「変異系魔法第一術式『
杖から出た魔法陣を通った赤い光が、コルトに当たった。
「んっ……」
艶かしい声を上げ、コルディアの姿から段々背や体が縮み、髪が長くなり、胸も膨らんだ。
コルディアは少しブカブカの男装をしたコルトに戻った。
「さて、今度はお前らだ」
ヨルカは二人に杖を向けると、先程とは違う魔法陣が現れた。
「変異系魔法第七術式『
「ぐっ……」
「うっ……」
二人に赤い光が当たると、早くも変化が始まった。
「はぁ、はぁ……うっ!」
ワイドリーは息を荒くしながら、心臓に腕をやると、背が少しだけ縮んだ代わりに、胸がレドーナやヴァレットに負けないくらいに大きくなり、腰もくびれ、尻が大きくなった。
最後に髪が腰まで伸び、顔つきも丸くなると、ワイドリーは完全な女性になった。
「あっ……はぁ……」
ブランの方は初めて受けた魔法の快感に、股間を押さえながら、顔を真っ赤にして喘いだ。
「な……なくなる……僕の……あれ? 声が……」
声が高くなり、自分の股間の一物が一回大きくなると、どんどん無くなるのを感じた。
「はぁ、はぁ……変わっていく……僕の……体が……」
ブランの短かった髪が肩まで伸び、腰が括れるも、顔つきは元々女顔のためそこまで変わらず、胸も少しだけ膨み、ワイドリーほどの変化がなかった。
「もうだめ……来るの……来ちゃ……んんあぁ!!」
だが、その快感はワイドリーの非ではなく、ブランが股間を押さえながら前屈みになると、心の底から声を上げた。
「うわっ!?」
ワイドリーは急に立ち上がった。
完全に可愛らしい女性になったブランのズボンがびっしょりと濡れ、黄色い液体がブランの席に滴り落ち、どんどん下に広がっていく。
「漏らしたな……」
「漏らしましたね……」
ヨルカとコルトが改めてブランが変異系魔法の快楽で絶頂に達し、尿を漏らしたことを確認した。
「ヨルカ様、魔法の快感はそれほどではなかったはずですが……」
「まぁ、それは人それぞれだが、それほどまでに快感に耐えられないのは、性行為の時は早漏になるのが多いと先代が言っていた」
ヨルカとコルトが二人に聞こえないよう、ヒソヒソと話した。
「はぁ、はぁ……うっ……」
尿は止まらず、靴やズボンの裾を濡らし、ブランは今にも泣きそうである。
右手で股間を押さえ、左手で顔を隠した。
その真っ赤な顔は妙に色気を感じた。
「ご……ごめん……なさい」
ポロポロと涙を流しながら謝るブラン。
「安心しろ、大丈夫だ。なぁコルト」
「そ、そうです、ヴァレットなんて時々自分から出してますし」
ヨルカとコルトはブランをフォローした。
ワイドリーはただ何も言わずに「汚ねぇ」と軽蔑の目をブランに向けた。
「とりあえず着替えてしまいましょう。さぁ、あなたも脱いでください。着替えたその服で拭きますので」
「おいふざけんな」
コルトは二人に着替えるよう勧めた。
コルトがワイドリーの着替え終えた服で尿を拭こうとしたことに怒った。
少しのトラブルはあるも、馬車は気にせず先に進む。
ブランから漏れた尿は馬車の外から滴り落ち、地面を点々と濡らした……。
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