少女騎士団

第40話

「どういうことですかな? ヨルカ・アムクルス」

 サガウ男爵の件から二日後。

 早朝にヨルカの屋敷に城からの伝書鳩がやって来て「至急城に来るように」と書かれていた。

 ヨルカはコルトを馬にして、ワイドリー、ブランを連れて、早速城に向かった。

 ヨルカは呼ばれた理由はもちろん、サガウ男爵の魔法陣盗難の件である。

 もちろん盗難したサガウ男爵に非がある。しかし油断で王都を滅亡に導くほどの力が他人の手に渡り、屋敷半壊と一人ではあるが死人が出てしまった。

 ヨルカ達はキルグス王の前で第二王子であるカイダル王子が部下の報告をまとめた物を読み上げ、愚痴と嫌味混じりの説教を受けている。

「いくら若くて依頼を受けて間もないとはいえ、あなたは歴代の中で最も奴隷を所有している上に護衛が二人。大人数にも関わらず世界を危険にもたらす可能性がある魔法陣を盗まれるという失態、言い逃れはできませんよ」

 カイダル王子はなぜか変人の魔法使いが気に食わないためか、まるで水を得た魚のように生き生きとし、饒舌になっている。

 ヨルカ達はひざまずきながらただ黙っているしかなかった。

「弁解の言葉もございません。カイダル王子」

「本当にそう思ってますか? やはり騎士見習いの護衛に学のない奴隷、そしてまだまだ子供の魔法使いには難しかったのでしょうかね」

 カイダル王子の言葉にブランは落ち込み、コルトとワイドリーは苛立ち、ヨルカも子供扱いされたことに苛立ち、着ていたローブを力強く握った。

「まぁまぁカイダル王子」

 共に立ち会ったグフター騎士団長がカイダル王子をなだめた。

「魔法陣は失敗作ですし、一応サガウ男爵の税金の不許可の値上げの件も解決して、最近の増えた奴隷問題を止めたんですから」

 税金を払えなくなった平民を誘拐し、奴隷商人に売って大金を手にする。

 それが他の領主達がサガウの真似をして、奴隷が増えて来ているのが王国内で問題とされていた。

 ヨルカはサガウの屋敷で拾った奴隷の件の証拠が書いてある手紙を事件の翌日、鳥に変化させたコルトを使ってグフター騎士団長に渡した。

 書いてあった繋がりのある貴族達を問い詰め、厳重に処罰する形となり、奴隷の急激な増加が止まったのだった。

「それとこれとは話は別ですグフター騎士団長。失敗作とはいえ現にただ雇われただけの罪もない魔法使いが死んでいるのです。見逃すわけにはいきません」

「もうよい、カイダル」

 今まで黙っていたキルグス王がようやく口を開いた。

「たしかに死人を出す被害が出た。それでお前はどうしたいのだ?」

「それはもちろん変人の魔法使いの魔法の全てを明け渡し、未来永劫封印した方がよろしいかと」

「……カイダル、お前は国のために考えてくれているのはわかっている。だが変人の魔法使いに救われた者も多数いる。現にブリストを救ってくれた」

「しかし父上! 変人の魔法使いの魔法の危険性はあなたもご存知のはず!」

「数百年も未だに消えず、反乱を企てようとするアークロード派、いつ起きてもおかしくない国の危機を防ぐには、その危険なほど大きな力を手元に置きたいのだ」

「……くっ!」

 キルグス王の判断に、カイダル王子は不満そうな表情を浮かべた。

「ヨルカ・アムクルスの処遇は、サガウ男爵の悪行を解決し、奴隷増加問題を止めたことで報奨を与える所だが、罪もない者を死に招いたことにより、報奨は無しとして終わりとする。これからも国のために働いてもらうぞ」

「はっ、キルグス王のお心遣い痛み入ります」

 キルグス王のお陰で、ヨルカは危機を逃れた。

 ヨルカの処遇に不満なカイダル王子は親指の爪を噛みながら、ヨルカを睨みつけていた。



 ***



 話は終わり、帰ろうと誰もいない城の廊下を歩くヨルカ達。

 お咎めなしだったが、ヨルカ達の心は晴れなかった。

「全くあの第二王子は何なんでしょう。ヨルカ様を目の敵にして、あの片眼鏡を割ってしまいたいですね」

「コ、コルトさん、一応ここは城の中なんですよ」

 ヨルカの魔法で男になっているコルトがカイダル王子について愚痴り始め、ブランは本人がいる城の中ということで焦りながら止めた。

「ヨルカ様、どうしてあの王子は我々に突っかかって来るのでしょうか?」

「さあな、ただ先代相手にもああいう感じだった。前の見張り役同様、変異系魔法を危険視してるだけだと思うが……どうも嫌われているな」

「どうでもいい、さっさと帰るぞ」

 ワイドリーは早足で廊下を歩く。

 彼はユウセンのことを聞いてから、護衛の仕事をおざなりにし、一人稽古に明け暮れる日々のため、早く帰って稽古をしたいのだろう。

 帰り際にグフター騎士団長にユウセンについて聞いたが、手がかりは見つからなかったらしい。

「今回はあなたも稽古ばっかりして気配を察知しないのもあるんですからね」

「ちっ……」

 コルトに注意されると、ワイドリーは舌打ちをした。

「はぁ……」

 ブランはカイダル王子の言葉が効いたのか、深いため息をついた。

「ブラン、お前は本当によくやってくれたんだ。今日はお前の好きな物でも作ってもらうから落ち込むな」

「いえ、僕が騎士見習いで経験不足なのも事実です。僕もワイドリーさんみたいに稽古を増やした方がいいでしょうか?」

「いいとは思うが、依頼分の体力は残して欲しい」

 ヨルカ達が会話をしている間に、城の入口に到着した。

「ヨルカ様!」

「避けろ!」

「え?」

 突然コルトとワイドリーが叫び、ヨルカが何か分からず、その場に立ち尽くした。

 太陽の逆光で見えづらいが、何か物体がヨルカ達に向かって落ちてくる。

 コルトはヨルカの肩をつかみながら強引に後ろに下がった。

「風魔法! 『風の靴ウィド・ブルツ』」

 風を纏わせた足で、ワイドリーは向かってくる物体を蹴った。

「ぶっ!」

「ぐあっ!」

「「ぐふっ!」」

 ワイドリーが蹴った二つの物体から声が聞こえ、後の一つはブランが身を呈してヨルカの盾になって声を出して倒れた。

「これは……」

 ヨルカはブランにぶつかった物体を見ると、それは前にワイドリーに突っかかって来た貴族の息子の騎士見習い、セガルだった。

 ワイドリーが蹴り飛ばしたのも、セガルと同じ騎士見習いだった。

「どうして飛んで来たんだ?」

「さぁ?」

「はははははは! 弱いな貴様ら! それで国を守れると思っているのか!」

 大口を開けて豪快に笑いながらヨルカ達の元に現れたのは、全身鎧を着けた背が高い短髪の女性。

「お? お前は変人の魔法使いか?」

「お久しぶりです。フリーナ王女」

 ヨルカとコルトは女性の前で頭を下げた。

 彼女はエンベル第一王子の妻であり、第一王女のフリーナ。

 同盟国であるレフ王国の騎士団長の娘で、父親譲りの剣技の才能があり、エンベル王子同様、体を鍛えるのを好み、よく騎士の練習に顔を出す。

 そしてその王女らしからぬ豪快な性格から王都では密かに「野蛮王女」と呼ばれている。

「この惨状は一体?」

「いや、グフターが何やら甘い指導をしているようだからな。我々が少しお灸を据えてやっていたんだ」

 奥の練習場を見てみると、騎士見習い達が倒れていた。

「お前達は見ない顔だな。護衛の見習い騎士か?」

 フリーナはブランとワイドリーに目を向けた。

「あ、はい! お初にお目にかかります王女様! 僕はブラン・ロンズと申します! こちらはワイドリー・ホールナーという者です!」

 ブランは王女を前にし、起き上がるとすぐに立ち上がって頭を下げた。ワイドリーは挨拶もなくそっぽを向いた。

「うん! お前達も時間があれば鍛えてやってやるが、どうだ?」

「フリーナ王女、さっきから言っている我々とは?」

「フリーナ様!」

 ヨルカが王女に質問をすると、練習場から鎧を着けた少女が七人ほど。

 鎧を着けてはいるが、他の騎士団より防具部分が少なくて露出が多く、下にいたってはスカートである。

「この少女達は?」

「こいつらは平和ボケした軟弱な男達、そして女でも戦えることを証明するため、義父であるキルグス王の許可を得て結成させた少女騎士団だ!」

「これはこれは……」

 ヨルカは驚いた。

 セガルのような貴族の親に甘えられた、だらしない騎士団とは違い、少女騎士団の方は姿勢正しく、凛としている。

「どうだ、私のように騎士に憧れる少女達が集まっている。根性も技術もこいつら以上はあるはずだ」

「たしかに強そうですね」

「当然です」

 自信満々に発言し、前に出たのは少女騎士団の一番前に立っている茶色いポニーテールの可愛らしい少女。

「あんな家柄しか取り柄のない奴等に負けるわけがありません」

「ずいぶん毒舌なのだな……」

「こいつは少女騎士団リーダーのニア、一応貴族の娘ではあるが、真面目に私の指導に耐える大した女だ」

「そこのあなた方二人も、お相手しても構いませんよ」

 ニア偉そうな態度でブランとワイドリーを指差した。

 ブランは狼狽え、ワイドリーは話は聞かずに無視している。

「ワイドリーはどうだ? 少なくとも倒れているこいつらよりは強そうだぞ」

 ヨルカがワイドリーを指名するが、本人は露骨に嫌な顔をした。

「あら? あなたも『女だから』という理由で、本気を出さないという似非えせ紳士のようなことを言って、後で負けても手加減したと言い訳するような口ですか? 嫌ですね~、だから性根の腐った男は」

「くだらね……こんな所にいても強くなるわけでもねぇし、こいつに勝っても嬉しくねぇし、ためになるとも思えない」

 ニアの明らかな挑発にワイドリーは乗らなかった。

「変人の魔法使い。あの白髪の男は強いのか?」

「はい、少なくともそこらで倒れている奴らよりは強いです」

 フリーナはワイドリーに興味を示した。

「ふむ……ならこうしよう。ニアと勝負して、もし勝ったなら王女の権限で何か叶えてやろう」

 ワイドリーはフリーナの提案に食いついたのか、ようやくこちらに顔を向けた。

「今の話は本当か?」

「もちろん、王女に二言はない」

「…………ならやる」

 少しの思考の後、ワイドリーは了承した。

「か……敵うはずが、ない……」

「あ、気づいた」

 さっきまで気絶していたセガルが意識を取り戻した。

「俺達男は……を使われたらあいつらには勝てない。せいぜいあの野獣を対して泣き喚く姿を見せるがいい少女騎士団よ」

「そっちの応援かよ」

 それだけワイドリーを嫌っているのか、セドルは自分に勝った少女騎士団を応援し始めた。

「では練習場に行きましょう」

 ニアの先導にワイドリーは着いていき、ヨルカ達も二人の勝負を見届けるため、後に続いた。



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