第50話 神帝暦645年 8月24日 その39

「うふふっ。 私も大した学がないので、なんとも言い難いのですが、例えば、大坂オオ・サッカーの街に高級料理店が2~3件あったところで、大坂オオ・サッカーの街が食で秀でているということになりませんわ? やはり、そこは庶民向けの料理屋や蛸焼きタッコ・バーンの屋台が街中に溢れているからこそ、ヒノモトノ国1番の食い倒れの街と言われる。多分、ヒデヨシさんが言いたいことはそういうことだと思うのですわ?」


 ふむ。なるほど。高級料理店ってのは、一握りのエルフ族であり、庶民向けの料理屋や蛸焼きタッコ・バーンの屋台は、料理の出来はそこそこながらも、ニンゲン族の多さを表しているってことか。


「なるほど。さすがアマノだぜ。そう言われると、馬鹿な俺でも少し理解できたわ。ヒデヨシは息子を微力ながらも、国の発展のいしずえとなってほしいわけか」


「ウキキッ。例えがなかなかに秀逸なのですよ、アマノ殿は。料理屋に例えてくるとは思いもよらなかったかったのですよウキキッ!」


「ネズミは高級天かすのみに生きるにあらず。ひえあわも大事、だと言うことでッチュウね?」


「こっしろーくん。あたしはこっしろーくんが言いたいことがよくわらないよー。そもそも、高級天かすって、何なのー? 聞いたことも無いよー?」


 ユーリが草の上で大の字に寝ころびながら、胸元のポーチから、ご高説を垂れる、こっしろーに文句を言うのである。


「お、おかしいでッチュウね。高級天かすとは、海老フライエビ・フリャーを揚げたアブーラで揚げる天かすのことでッチュウ。草津くさっつでは菜種油ナッタネ・アブーラでッチュウけど、三河ミッカワではゴマアブーラを使用しているので、エビの旨味が溶け込んだゴマアブーラでの天かすは、最上級品と言っても過言ではないのでッチュウ」


 こっしろーの言う通り、草津くさっつの街では、というか、関ヶ原セッキ・ガハーラを中心点として、東西で使われる調味料やアブーラは、ガラリと変わる。関ヶ原セッキ・ガハーラから東では、ゴマアブーラ。西では菜種油ナッタネ・アブーラが主流となる。


 しかし、味噌ミッソは少し複雑で、関ヶ原セッキ・ガハーラの東・岐阜ギッフ尾張ジ・エンド三河ミッカワでは赤味噌レッド・ミッソ関ヶ原セッキ・ガハーラの西となると草津くさっつ大津オオッツ今浜イマッハマでは、合わせ味噌マッチ・ミッソ・さらに西の平安京ペイアンキョウでは白味噌ホワイト・ミッソとなる。


 北陸ノース・ランドになると、米麹味噌コメコウジ・ミッソなる、不可解な味噌ミッソが使われているという噂だ。白味噌ホワイト・ミッソ赤味噌レッド・ミッソ合わせ味噌マッチ・ミッソは食したことがあるが、さすがに、北陸ノース・ランドでしか、流通していない、米麹味噌コメコウジ・ミッソは、味わったことはないのである、俺は。


「ごめんねー。こっしろーくん。草津くさっつ天麩羅てんぷらを揚げるときのアブーラ菜種油ナッタネ・アブーラだから、こっしろーくんに高級天かすを食べさせることは出来ないよー」


「くっ。つらいでッチュウ。ぼく、三河ミッカワが恋しくなったでッチュウ。セナ姫が作ってくれる天かすは、ぼくのソウル・フードなのでッチュウ。急に、里が恋しくなったのでッチュウ!」


「こっしろーくん。諦めてー? きみは、団長に金貨400枚(※日本円で約4000万円)で買い取られたんだよー? もし、三河ミッカワに帰りたかったら、利子を含めて、金貨800枚を団長に支払わなきゃダメだよー?」


「き、金貨800枚でッチュウ!? なんで、倍もの借金をぼくは背負っていることになっているんでッチュウ!?」


「まあ、ニンゲンの社会だと、銀行や金融ギルドから融資されたら、その2倍を支払わないといけないってのは常識だからなあ。だから、よっぽど、将来の見込みが立っているような奴か、商才溢れるような奴じゃないと、銀行や金融ギルドから、融資してもらいたがらないんだよなあ」


「ウキキッ。それでも、銀行や金融ギルドは、利子が借りた金の2倍より上にならないように国が指導しているだけ、マシだと言うものですよ。ちょっと裏界隈の金融会社に金を借りようものなら、利子は借りた金の10倍を請求されてしまいますからねウキキッ!」


 本当に世知辛い世の中だぜ。割りとマシな銀行や金融ギルドでも、借りた金の利子分を半年も払えなければ、店舗ごと、差し押さえされちまうしなあ。アマノの祖母は庶民向けの料理屋を営んでいたが、今世紀最悪と言われた大不況【黒い月曜日ブラック・マンデー】の時に、銀行に利子分を支払えなくなって、銀行に貸し剥がしを食らっちまって、潰れたそうだしなあ。


「うふふっ。ツキトが冒険者稼業を完全に引退したならば、余生は、私と庶民向けの料理屋を開きたいと、プロポーズの時に言ってくれましたが、果たして、上手く経営できるものなのでしょうか?」


「まあ、今の就職氷河期から考えれば、あと10年は、無理そうだよなあ。ってか、そもそもとして、団長が俺とアマノを放逐してくれること自体が無さそうなんだよな! あいつ、俺を死ぬまでこき使うつもりな気がするんだよ!」


「お父さん、いい加減、諦めた方が良いよー? あたしも最近、薄々、気づいてきたけれど、団長はお父さんに安泰の引退生活を送らせる気は無いと思うんだよねー?」


 うっ。娘の視点からも、団長は俺を死ぬまでこき使うつもりだと思っているのか。こりゃ、九州ナイン・ステートまで、アマノといっしょに逃避行をしたほうが良いんじゃなかろうか?


「うふふっ? 団長は九州ナイン・ステートと言わずに、大海を渡って、西の辺境:ポルト・ペインまですら、追いかけてきて、ツキトの首に縄を括り付けて、引き戻してくるような気がするのですわ?」


「あああ! A級冒険者の団長にそこまで期待されているのは、嬉しい半面、最悪な気分が半面だわあああ! 俺はアマノとゆっくり、イチャラブずっこんばっこんしながら、子供は2人は欲しいって言うのによおおお!」


「ウキキッ。ずっこんばっこんの時間くらいはもらえると思うのですよ? でも、問題は、ツキト殿とアマノ殿の間に産まれてくるであろう、子供たちが、団長に見初められた時が、一番、ゾッとしますねウキキッ!」


「言うな! それを言うんじゃない! そりゃ、俺はただのC級冒険者だから、これっぽちも期待されてないけれど、アマノはバリバリ最前線のB級冒険者だったんだ。俺とアマノの間に産まれてくるであろう子供が、冒険者としての才能をヒト並み以上に持っていたら、ユーリと同じ轍を踏まされることになっちまうってのは、わかってんだよ!」


「うわーーー。お父さんだけじゃなくて、お父さんとアマノさんの間に産まれてくるであろう子供の人生まで、団長に握られているのかーーー。じゃあ、もしかしたら、団長が100歳まで長生きすることになっちゃったら、あたしの将来産まれてくるであろう、子供たちも、団長の魔の手に脅かされることになるってわけーーー!?」


「ああ。団長が100歳まで生きることになれば、間違いなく、そうなるだろうな。いや、待てよ? 団長が100歳まで生きるってことは、もしかして、俺とアマノ、そして、ユーリの孫まで危険じゃないのか!?」


「ウキキッ。ツキト家はなかなかに過酷な運命、いや、宿命を背負っているのですよ。その点、わたくしはそんな心配なぞしなくても良さそうなのですよ。うちの息子は、わたくしとネネに似つかず、魔力の桁が低そうなのですよ」

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