第37話 神帝暦645年 8月24日 その26
えっと、何の話をしてたんだっけ? ああ、そうそう。午後からのアタックの内容を詰めるんだったよな。ユーリがまともな意見を言ったから、つい目頭が熱くなっちまったってところから、話が大脱線したんだったか?
「次に話を脱線させた奴は、アマノからヒノキの棒をプレゼントしてもらうことにするからな!」
「うふふっ。どう考えても、ツキトがヒノキの棒で殴られる未来しか視えませんわ? 今のうちに一発、入れておきます?」
「おおっと。それはダメだ。【罪には罰を】。これを忘れちゃニンゲンは終わりだからな! だから、その物騒なモノをテーブルの上に置いてくれ!」
俺の必死の懇願を聞き届けてくれたアマノは残念ですわと、テーブルの上にヒノキの棒を置くのである。ふう、やれやれ。まだ、話を脱線させていないと言うのに、あんな硬くて太い棒で殴られた日にゃ、最低10分は意識が飛んでしまう。
「よっし。ユーリの館1階西側の4部屋に突入するって案に反対の奴は手を挙げろ!」
俺が皆にそう言ってはみたが、特に誰も反対のモノは居なかったのである。
「うーーーん。そこはユーリの訓練のためにも、いちゃもんをつけてほしかったんだけどなあ? ほら、たまに居るじゃんか? 俺の意見が絶対に正しい。俺の意見以外は全部間違っている! って言ってくる奴がさ」
「ウキキッ。それをわたくしに求められても困るのですよ。実際に、ユーリ殿の意見は至極真っ当なモノですよ。それを覆すだけの意見も、それに付随する根拠も持ち合わせていないのですウキキッ!」
「ちっ。ヒデヨシはお利口さんだなあああ! あえて憎まれ役を買って出てくれても良いってのによおおお!」
「ウキキッ。お言葉ですが、あえて憎まれ役を買うのは、ミツヒデ殿の
「まあ、それは確かにそうなんだが。ミツヒデは、今、ここに居ないじゃんか。だからキャラ被りの心配をしなくてもだな?」
「ウキキッ。それはわたくしの存在意義に関わる問題なのですよ。ただでさえ、団長から視たら、ミツヒデ殿と同じくわたくしはイジラレ役になるのですよ。わたくしはわたくしなりのキャラ付けを持っていたいのですよウキキッ!」
団長の眼から視たら、【
「アマノは黙っているけれど、ユーリの案で賛成ってことで良いのか?」
「うふふっ。私もユーリの案におおむね賛成なのですわ。ひとつ付け加えるとしたら、どの部屋から突入するかを話し合ったほうが良い気がするのですわ?」
「ふむっ。なるほど。どの部屋からってか。確か応接間Aが他の3部屋に比べて、部屋の中に居る何かの魔力反応が強くでてたんだよな?」
「うん。そうだねー。あたしの感覚だと、応接間Aが臭いんだよねー」
「それはユーリの直感がそう告げているのか? それとも、何か別の根拠があってのことか?」
「直感だねー。これは直感としか言いようがないねー。でも、あたしが魔力探査を行ったのが応接間AとBだけだから、応接間CとDについては何とも言えないんだけどー」
そうだよなー。応接間CとDの魔力探査を行ったのはアマノなんだもんなー。ユーリとアマノのどちらか一方に4部屋とも魔力探査を行ってもらうのが筋ってもんだったんだが、そもそもとして、魔力探査だけでも、かなりの魔力を吸い取られるという罠があったのが、俺たちの計算を狂わせたんだよなあ……。
んっ? ちょっと待てよ? 何か引っかかるモノを感じるぞ? 俺はその引っかかりを解決するために、タマさんに話を伺ってみることにする。
「なあ、タマさん。あの館には、滞在者の魔力を吸い取るといった仕掛がされてたりしてるのか?」
「エッ? 滞在者の魔力を吸い取るといった仕掛デスカ? ちょっと、言っている意味がわからないのデスガ?」
あっ。しまった。いきなりこんなこと聞かれてもタマさんが困惑するだけだわと、タマさんに話を振ったあとに俺は反省するのである。
「えっとだな。館への午前中のアタックでわかったことが2点あるんだよ。ひとつはあの館の内部の空間が歪んでて、多分だけど、通常の1.5倍から2倍くらいの広さになっていたってこと。もっとわかりやすく言うとだな。館に入ってすぐの
「エエエッ!?あのガラス製の
やっぱりそうか。じゃあ、館内の空間は歪んでいるって認識は間違ってなかったわけだな。これで謎は解けてもいないし、犯人すらもわからない! って、ただの手詰まりじゃねえか!
「うふふっ。ツキト? 何もない空間にツッコミを入れても仕方ありませんわよ? 話を進めてほしいのですわ?」
おっと。しまった。つい癖で俺は空気に向かってツッコミを入れてしまったぜ。俺は一度、ゴホンと咳払いをし
「タマさん。もうひとつわかったことなんだけど、あの館の中で魔力を使う何かを行うと、通常の10倍近くの魔力を消費してしまうんだわ。って、こんなこといきなり言われても、魔力の原理自体から説明しなきゃならなくなるんだが。うーーーん?」
タマさんはれっきとしたニンゲン族である。ニンゲン族ってのは、エルフ族やドワーフ族といったヒト型種族たちと違って、産まれた時点において魔力回路の開放が成されているわけではない。まあ、稀にニンゲン族でもそれが成されているモノも居るという噂だけは聞いたことがあるが、俺の人生40年間ではそういったニンゲン族とは一度としてお目にかかったことはない。
だからこそ、俺はタマさんに一から魔力に関して説明しなければならないのかと考え込んでしまったわけである。
「魔力を吸い取られるデスカ。そう言えば、セ・バスチャンさんが、最近、身体の内側から力を吸い取られる感覚に襲われると口からこぼしていたのデス。ボクはセ・バスチャンさんの老化が進行しただけなのデハ? とその時は思っていたのデスガ」
まあ、セ・バスチャンさんが白髪になった原因の半分以上はタマさんにあるのですが、そこは言わないほうが良いのですかね? しかし、そこをツッコむのはやめておこう。バンパイア族の
「タマさん。セ・バスチャンさんが身体の内側から力を吸い取られるように感じ始めたのはいつ頃なんだ? そして、その時、館の中で何か変わった出来事はなかったか?」
タマさんがセ・バスチャンさんの身に起きたことと、館に起きた変化について思い出そうとしているのか、腕組をしながら、ウーーーン。ウーーーン。ウーーーン!? と唸っている。
「あっ! 思い出したのデス! 8月の初め頃、領主さまが新しい絵を購入して、どこかの部屋に飾ったはずなのデス! それから、セ・バスチャンさんが、腰が痛い、ひざが痛いとぼやき始めたのデス!」
もうツッコまないからな! アマノが右手にヒノキの棒のグリップ部分をしっかり握り込んで、準備万端状態だからな!
「タマさん。その応接間ってのは、この館の見取り図のどこの部屋に当たるんだ? もしかして、俺たちが応接間Aと名付けている、この部屋か!?」
俺はテーブルの上に広げられた見取り図のある一室を右手の人差し指で力強く指し示すのである。
「ハッ、ハイ! その部屋なのデス。領主さまは、その部屋の壁に新しく買った絵を飾ったのデス!」
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