第36話 神帝暦645年 8月24日 その25
「うふふっ。私はツキトが朝に同じベッドの上でおならをされたりや、洗面台の前でお尻をぼりぼりかきなつつおならをしながら歯磨きをされたりや、朝食中に新聞を読みながらおならをされるのは。あっ、朝食中におならはさすがにイラッとしますわ? でもまあ、たいがいのがさつさは許してしまうのですわ?」
なるほど。朝食中のおならは危険な香りが2重にするわけか。そこは気をつけないといけないな。
「わからないよー。なんでこんな四六時中、おならをかます、がさつなお父さんをアマノさんが好きなのか、全然、理解できないよー」
「そこは愛だ。愛ゆえだ。お前にも好きな男が出来たら、きっとわかるはずだぞ? まあ、俺は男だから、本当にわかるかどうかは断言できないが」
じゃあ、言うんじゃねえよとツッコミをもらえそうだが、俺は気にしない。そりゃそうだろ。いちいち、自分を省みてたら、自分の息子や娘に説教を垂れれる奴なんて、この世に存在するわけがないわ!
「ウキキッ。自分の3歩後ろを黙ってついてこい! って古臭い男尊女卑の考えを持つ男でもない限り、自分の嫁が何故、自分に惚れているのだろうか? って不思議に思うことは多々ありますよね。わたくしはぎりっぎり浮気に認定されてないだけで、他種族とのずっ
「そう自分で思っているなら、他種族と言えどもずっ
そうはひでよしに言ってみたモノの、男の性欲ってのは抑えきれるものでもないんだよな。それはニンゲンの歴史が始まって、最初に出来た職業が娼婦だって言われているくらいなんだしさ。事の真偽はともかくとして、娼婦の存在はオウ・ジーザス教の【
ちなみにヤオヨロズ・ゴッド教の【イニシエよりの
ん? なんで、ナムアミダ・ブツの理由もわからないような俺が宗教にそんなに詳しいのかって? そんなの簡単だ。各宗教は自分たちの教えを広めるために、
しかし、それは所詮、書物によって得た知識であり、俺がそれぞれの宗教施設に行って、坊さんなどに教えを乞いたわけではない。だからこそ、表面的な知識でしか、宗教のことはわかっていないのだ。だからこそ、ナムアミダブ・ツの本当の意味など知らないのである。
「お父さんー。そろそろ、こっちの世界に戻ってきてねー? 視えない精霊さんたちとお話しているところを視ていたタマさんが、何かこちらの世界に戻ってこれる薬が無いかと探しに行こうとしてるよー?」
「ん!? 俺はまた、あっちの世界に行ってたか? しまったなあ。最近は妄想界に心が旅をしに行く回数もかなり減ってきたから、安心してたんだけどなあ?」
「うふふっ。医者のクマゴロウさんからいただいているお薬をちゃんと服用しています? ツキトは魔力はそれほど高くなくても、精霊との親和性が高すぎるので注意してほしいのですわ?」
「ウキキッ。難儀な病気にかかっているのですね、ツキト殿は。昔から、妄想の世界に入り込む癖を持っていたようですが、最近は特にひどいのですかウキキッ?」
「心配なのデス。ツキトさんは完治が難しい【妄想界の住人病】を患っているのデスネ?」
「いや。タマさん。ちょっと待ってくれ。俺はそこまではひどくないからな!? なんて言うのかな? ニンゲン族が魔力回路の開放を行うと、たまに精霊との交信が強く結びつきすぎちまう場合があるんだよ。んでな? 俺の場合は頭の中で考えていることに、精霊が【ソレッテナアニ?】って語り掛けてきちまうわけ。んで、それにまともに答えてると、周りから視れば、何もない空間に向かって話しかけている危ないヒトのように眼に映るってわけ」
「ホウホウ。そんな奇病があるのデスネ。セ・バスチャンさんも冒険者さんたちと同じく、魔力回路の開放を行ってもらいましたが、ツキトさんみたいなことにならなくて、ホッとしてしまいマス」
何故、タマさんにそこでホッとされるんだ!? そんなにさっきの俺は危ないヒトに視えたのか!?
「でも、不思議だよねー。精霊との交信が強く結びついちゃうからって、魔力が普通の冒険者と比べて桁違いに高いとか、そんなことないんだもんねー?」
「うふふっ。魔術師サロンでは、そのことについて研究を重ねていますが、サンプル数がそれほど多くないので、難儀しているみたいなのですわ? ツキト並になると1万人にひとりの割合となってしまいますから……」
国が数年に一度行っている国勢調査では、冒険者ギルドに登録している冒険者は、現在のべ11万2273名なんだよな。ユーリは今年の春から冒険者になったばかりなので、この人数には含まれていないのだが。
「ウキキッ。魔力回路の開放を行ったニンゲン族の数字としてみれば、ツキト殿のような存在はそんなに珍しくなさそうなのですが、如何せん、魔術師サロンに協力をするニンゲンが少ないんですよね。そりゃそうですよね。魔術師サロンに所属している魔術師は狂っているのが多いって噂ですので。協力したら、鉄製の檻に監禁されませんからねウキキッ!」
「魔術師サロンに登録している身である私には身に突き刺さる言葉なのですわ。ツキト? 間違っても魔術師サロンに協力を願い出ないようにしてほしいのですわ?」
俺は若い頃から、この症状と付きあってきたわけなのだが、槍の師匠であるホウゾウイン爺さんの勧めで、医者のクマゴロウさんに、その症状を抑える薬を処方してもらっているわけである。
アマノと付き合い始めた時に、アマノを心配させまいと、この症状の説明をしたのだ。そしたら、アマノはその件で絶対に魔術師サロンには関わってはいけないと何度も念を押された経緯がある。
アマノがそこまで言うのであれば、俺と同じ症状の奴らは実際に鉄格子の向こう側に監禁されているということなのだろう。噂では無く、本当にそうなっていることの裏付けとしては充分であった。
「心配かけてすまねえ、アマノ、ユーリ。薬は毎晩、寝る前にちゃんと飲んでいるから、安心してくれよ?」
「アマノさんがお父さんと一緒に寝ているから、薬の飲み忘れとかの心配はしてないよー? でも、体調におかしなモノを感じたなら、早めに教えてねー?」
ユーリが心配そうに俺の顔を見つめてくる。ユーリはアマノ以上に俺との付き合いが長いだけあって、俺が何も無い空間に向かって、しゃべりかけている姿を幾度も視てきている。それだけに、ユーリにとっては不安になることもあったのだろう。だが、ありがたいことに俺のこの持病とも言えるモノに、理解を示してくれる。
「大丈夫だって。もし、なかなか、こっちの世界に戻ってこなかったら、ピコッピコ・ハンマーで俺の後頭部を殴ってくれれば良いからさ? くれぐれもヒノキの棒で殴らないようにな! 特にそこでヒノキの棒を力強く握っているヒデヨシ。お前に言っているんだからな!」
「ウキキッ? ヒノキの棒ではダメだったのですか? すみません。わたくし、あまりよく知らないのでウキキッ」
ふううう。やべえ。あんな太くて長い立派な棒で、頭をぶん殴られたら、シャレで済まなくなっちまうわ。先ほどのヒデヨシみたいに、頭から血を流して、テーブルの上に広げてある館の見取り図が真っ赤に染まっちまうわ。
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