第24話 神帝暦645年 8月24日 その13

 2度目のアタックを行う前にもう一度、魔力残量確認石マジック・チェッカーを両手で包み込み、その色を確認するのである。


「よっし。体内に宿る魔力はほぼ回復しきってるな。ユーリが少し不安だが、まあ、今回はアマノに魔力探査を頼むから、大丈夫だろう。しかし、ユーリ。もし、身体に異変をきたすようならば、すぐに言ってくれよ?」


「うん、わかったー! 報告・連絡・相談は徒党パーティの要だもんねー! 略して、ほうれんそうーーー!」


 よしよし。よくわかっているじゃねえか。これなら、安心だな。さって、2日目の昼前の時点で館の1階部分の2部屋の魔力探査しか終わってないんだ。いくら、クエストの期限が約1か月ほどで良いとからと言って、のんびりしすぎたら、次の満月の日がやってきちまうぜ。


 ちなみに満月の日はモンスターがひと月の中において一番凶暴化し、さらにはその力を潜在能力以上に引き上げるのだ。そしてモンスターの力が1年の内で最大限に達するのはもちろん、8月15日のお盆の時である。


 今日は8月24日とお盆の日から1週間以上経っている。夜に浮かぶ月も段々、姿を消して行くことになり、モンスターたちの力は日に日に衰えていくことになる。俺としては、この館に住みついている幽霊ゴーストたちの親玉と対峙するのは、8月30日から9月2日の3日間に設定したいのである。


 だからこそ、俺は少し心が急ぎ足となっていた。この時点での判断が結果的に甘かったことを痛感させられたのは次の日だったりするのだがな?


「じゃあ。俺が先行するから、ユーリは俺のフォロー。アマノは魔力探査。そして、ヒデヨシは殿しんがりを頼む。今日中に館の西側1階部分の魔力探査を終わらせちまうぞ!」


 俺の掛け声と共に、他の3人も、えいえいおー! と声をあげる。ついに本日2度目のアタックとなった。



 ――ツキト一行は館に再度侵入する。幽霊ゴーストたちの襲撃も無く、玄関エントランス・ホールの西側の扉を抜けて、応接間が並ぶ通路に難なく達するのであった――



「うふふっ。この部屋には幽霊ゴーストが約2~3体といったところですわ? 個別の強さまではわからないですが、ユーリとヒデヨシさんでどうにか出来るほどだと思いますわ?」


 アマノが廊下側から部屋の壁に両手をつけて、魔力探査を行い、その結果を俺たちに報告するわけである。


「そっか。じゃあ、この部屋は応接間Dってしておこうか。しっかし、さすが大津オオッツの領主さまの館なだけはあるなあ。あと何部屋巡れば、この館の1階部分を制覇できることになるんだ?」


「ウキキッ。見取り図では応接間は1階部分西側に計4個あるのですよ。そして、この応接間Dがある通路を東側にいくと大きなダイニング・ホールと、その部屋に隣接するようにキッチンがあるようですよウキキッ!」


 ヒデヨシがユーリが手に持つ館の見取り図をのぞき込みながら、俺にそう言うのであった。俺もユーリが手に持つ館の見取り図を確認する。


 うーーーん。ダイニング・ルームの先には使用人室が2部屋あるってか。こりゃ、相当、手間がかかりそうだなあ?


「あたし、将来、冒険者稼業で、ひと山当てたら、こんな豪華な館を建てたいなー。もちろん、そこでお父さんとアマノさんに住んでもらうんだー」


 ユーリの夢は大きいなあ。これだけの館を建てようとしたら、いったい、いくら金がかかるんだろうな? A級冒険者である団長が建てた一門クラン欲望の団デザイア・グループ】の館よりも、でかいもんなあ?


 まあでも、ユーリの今現在の魔力から考えれば、将来的にB級冒険者に確実になれるであろうことは容易に想像がつく。そこから先はニンゲンをやめないとA級冒険者にはなれないので、ユーリにその覚悟があるかどうかってところも関連してくるだろう。


「なあ。ユーリ。お前がもし将来、冒険者として大成することは出来たとしても、俺とアマノのことは気にしなくて良いからな? 自分で稼いだ金は自分のために使っておけ。俺とアマノは今の中古の家で充分だしさ?」


「お父さんは夢が無いなー? あたしとしては、将来、A級冒険者になるつもりなんだよー? 紅き竜レッド・ドラゴンくらい、パパッと倒してきて、新築の家を建ててあげるよー」


「うふふっ? 以前も言いましたが、ドラゴン族は希少モンスターなのですわ? 国に災いをもたらすようなドラゴン族以外は、国が討伐を禁止しているのですわ?」


「ウキキッ。竜の卵ドラゴン・エッグは金持ちの美食家の間では、長寿の薬として、もてはやられているのが、ドラゴン族の減少に拍車をかけているのです。ニンゲンは何と愚かな生き物なのでしょうかウキキッ!」


「まあ、そのおかげで、【欲望の団デザイア・グループ】も経営が成り立っている部分があるからなんとも言えんよな。団長は今回、竜の尻尾ドラゴン・テールを取りに行くって話だったよな?」


「うふふっ。私も1度で良いから、竜の尻尾ドラゴン・テールのステーキを食べてみたいのですが、冒険者にとっては大事な商品ですからね……。ああ、どこからかお金が降ってこないのでしょうか?」


 ちなみに紅き竜レッド・ドラゴン竜の尻尾ドラゴン・テールは100グラムで金貨10枚(※日本円で100万円)と庶民では絶対に手が出ないお値段なわけだ。もちろん、その値段はドラゴンの種類によっても変わる。


 有名どころと言えば他には碧玉の竜グリーン・ドラゴン蒼き竜ブルー・ドラゴン紫水晶の竜アメジスト・ドラゴンがいる。だがドラゴン族はこれだけでは無い。割と人里近くに住んでいるのがこの4種類だけなのだ。


根の国ルート・ランド】には、それこそ、ニンゲンたちが眼にしたことも無いドラゴン族が居ると、昔から言われていたりする。頭の先から尻尾の終わりまでもが闇よりも黒き鱗で覆われているドラゴンを視たと言ってた奴が、昔、酒場に居たなあ。あいつはあの後、気が触れて、首を吊って死んじまったから、真相はわからずじまいだ。


「さて。これで館の1階部分、西側の4部屋の魔力探査は終わったわけだが、ここから北側にあるバスルームの魔力探査をどうするかだよな。懐中時計オ・クロックを視る限りでは、すでに館に入り込んでから20分経とうとしているし。ここは一旦、外に戻ってみるか?」


「あたしはお父さんの指示に従うよー。まだ2日目の午前だし、無理をする必要は無いはずだしねー?」


「うふふっ。私としましては、もうひと部屋くらい魔力探査をしても良いのですが、もしバスルームに近づいて、幽霊ゴーストが襲ってくるような事態になれば面倒ですので、ツキトの指示に従いますわ?」


「ウキキッ。今回もすんなりと、館の外に出させてもらえるかわからないのですよ。時間的マージンは常に確保しておくべきなのですよ。その点からも、ツキト殿の指示に従うのですよウキキッ!」


 よっし。全会一致で、撤退が決まったな。こういう時は楽で良い。あとで揉めることになる可能性がかなり少なくなるからな。これでひとりでも意見が違えば、もし何かあったときに、そいつはああしておけば良かったなどと、延々、愚痴を言い出すのはお決まりだしな。


「んじゃ、時間は早いが、2回目のアタックを終了するぞ。しかし、館の外に出るまでが冒険だ。くれぐれも油断しないようにな?」


「はい、わかったよー。じゃあ、お父さん、先行してねー? もし、幽霊ゴーストに出くわしたら、お父さんをばっちり盾に使うからー」


「あいよ。任せておけって。その代り、ユーリはその幽霊ゴーストを水の魔法で吹き飛ばしてくれよ? 間違っても、俺ごと幽霊ゴーストを水の魔法で吹き飛ばすんじゃないぞ?」


「そこは善処するよー? こっしろーくん、そろそろ、眼を覚ましてー? 外に出る時間だよー?」


「むにゃむにゃでッチュウ。退屈な魔力探査の時間は終わったでッチュウ? ぼく、何も起きなさすぎで、すっかり居眠りしちゃったでッチュウ……」


「何も起きないことのほうが幸せだろうが……。ってか、幽霊ゴーストがたむろう館の中で寝てんじゃねえよ。何か起きたあとじゃ困るんだぞ?」


「そうは言うでッチュウけど、もう少し、幽霊ゴーストがぼくたちの行くてを阻むものと思っていたのに、それが無いんでッチュウ。緊張感を保つにも限度があるんでッチュウ」

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