第17話 神帝暦645年 8月22日 その1

 というわけで、思い出したかのように、俺たちは館の執事との打ち合わせが終わった次の日の昼すぎには防具屋に寄り、修繕に出していた鎧一式を受け取りにいくことになったのだ。


「おう。ジョウさん。この前、修繕に出しておいた、俺たちの鎧の修繕は終わっているか?」


「ぶひひっ。ツキト殿、注文通り、出来上がっているのデュフ。アマノ殿はビキニの水着で、ユーリ殿はスクール水着で間違いないですよね? デュフ!」


 アマノとユーリにいきなり性的嫌がらせ発言を浴びせかけているのは、俺がよく利用している【ジョウ・ジョウ防具店】の店長であるドワーフ族のジョウさんである。


「うふふっ? 30歳を迎えてのビキニは自分でもかなりきついものを感じるのですわ? できるなら、ワンピースもので勘弁してほしいところですわ?」


「ねえ、お父さんー? スクール水着ってなにー?」


「んっとだな。ジョウさんの言いを信じるなら、伝説の女性用防具らしいぜ? 薄いぺらぺらの布製品のくせに、防御力が鋼の全身鎧並にあるって話だぜ?」


「ウキキッ。さすがはジョウ殿なのですよ。まさか、あの伝説のスクール水着を入荷しているとは思っていなかったのですウキキッ!」


「ぶひひっ。伝説のスクール水着を手に入れるのには苦労したのデュフ! 手に入れた時はボロボロで穴だらけでしたが、僕ちんの職人技でこの現代に蘇らせたのデュフ!」


「さっすが、ジョウさんは、思考は邪悪だけど、防具に対する知識欲に関してだけは一流だよな! で、お値段は?」


「金貨100枚(※日本円で1000万円)と言いたいところデュフけど、ユーリ殿が着るというのであれば、金貨90枚にまけるのデュフ!」


「うふふっ。どこからツッコミを入れていいのか、わからなくなってきたのですわ?」


 はい、解散かいさん。誰が水着に金貨90枚も出せるんだよ。ジョウさんはそもそも金に汚いんだよ。あっ、ドワーフ族が金に汚いのはいつものことか。ジョウさんだけの問題じゃなかったわ!


「まあ、ジョウさんは、至って真面目らしいぜ? 思考が邪悪すぎなだけで真面目なことは真面目だぜ? たまに良い医者を紹介してやりたくなるくらいに真面目だぜ?」


 俺が嫌味を思いっ切り込めて、アマノにそう返答するのである。ニンゲン、間違った方向での真面目さや努力をおこなうなんてのはザラだが、ジョウさんの場合は特にひどい。だからこそ、嫌味を込めていったわけだが、当のジョウさんは【豚ニンゲンオークの面に黄金水ゴールド・オータ】って感じである。


 ちなみに、このコトワザは、「豚ニンゲン《オーク》の顔に聖別された聖女が生み出す聖なる水をひっかけても、たいした効果は見られない」という由来があったりもする。要は、ジョウさんに嫌味を言っても無意味どころか徒労に終わるってことだな、うんうん。


「ウキキッ。邪悪なのに真面目って、哲学なのですよウキキッ」


「防具ひとつに金貨90枚かー。お父さんの鎧一式でも金貨1枚か2枚だよねー?」


 まあ、俺が着用している鎧は中古モノだから、もう少し安いんだけどな?


「B級冒険者が着るようなフルプレートの鎧でも金貨10枚だもんな。おっそろしいな? スクール水着ってのは。さすが伝説クラスの防具だぜ……」


 でも、一度で良いから伝説のスクール水着ってのがどんなのか視てみたい気もするんだよな? ジョウさんの扱う防具は値段通りの性能を発揮するから、あながち、金貨100枚でもお釣りがくるかもしれないからな?


「なあ、ジョウさん。その伝説のスクール水着ってやつをひと目、見せてもらえないか? もちろん、買わないけどさ?」


「本当なら、拝観料を取るつもりデュフけど、長年、この店をご愛顧してもらっているツキト殿の頼みなら仕方がないデュフ。ただし、見せるのはいいデュフけど、触るのはご法度デュフよ?」


「ん? 触っちゃダメなのか? これまた、何でだよ?」


「伝説の防具と言われるだけあって、伝説のスクール水着は着るモノを選ぶのデュフ。一度、伝説のスクール水着側に主だと認められると、条件から外れないとそれを解除できなくなるのデュフ」


 条件? いったい、スクール水着を着用するにはどんな条件が発生するんだ?


「ぶひひっ。スクール水着に主と認められるのは、歳の頃は12歳からなのデュフ。そして、解除されるのは24歳に達した時なのデュフ」


「なんだ、年齢だけかよ。おい、ユーリ、お前は絶対にスクール水着に触れるんじゃないぞ?」


「いや、指定範囲の年齢でも、色々と条件があるデュフ! 処女おとめであり、なおかつ、黒髪ロングの美少女で、さらに眼鏡を着用。ついでにおっぱいはDカップ以上なのデュフ!」


「なんだ? その細かい装備条件は。だいたい、そんな女性、探そうとするだけでも、一苦労だろうが」


 一部、ジョウさん本人の性癖も混ざっているんじゃないかと疑いたくなるな。いや、待てよ? ジョウさんの女性を選ぶうえでの年齢における条件は下は6歳で、上は60歳だったよな? じゃあ、ジョウさんの性癖はあまり関係してないのか?


「そこが伝説の防具たる所以なのデュフ。伝説のスクール水着に選ばれるだけあって、伝説クラスの美少女でなければいけないのデュフ」


「ウキキッ。ジョウ殿は防具のことを語りだすと熱くなるのは変わらないですねウキキッ。少し話は変わりますけど、少なくとも草津クサッツの防具店で、呪い付きの防具を扱っているのなんて、ジョウ殿の防具屋くらいですよ? ウキキッ」


「そうそう。だから、いっつも、呪いの防具は展示ケースに入れとけって言ってるのに、わざわざ、普通の防具が入った箱に混ぜておくからな? ジョウさんは。駆け出しの初心者なんか、質の良さそうなのに安価な防具を視つけたぜ! って思ったら、まさかの呪い付きだもんな。しかも、えげつないことに、解呪料をせしめているところが、邪悪なジョウさんらしいぜ」


「ちなみに宗教施設でも呪いは解呪できますが、あそこはジョウさんの3倍の値段をとるのですわ? ジョウさんは客の足元を視ながら商売をする邪悪な防具屋さんなのですわ?」


「なんか【炎の柱ファー・ピラー水の柱オータ・ピラー】って言葉を思い出すよねー? こういうのって、犯罪にはならないのー?」


 ユーリの言う【炎の柱ファー・ピラー水の柱オータ・ピラー】ってのは、自分の家に火災保険をかけておいて、自分で火をつけて、仲間内に水の魔法で消火してもらい、保険会社から保険金をだまし取ろうとする手口である。これは立派な犯罪なので、ユーリはジョウさんがやっていることは犯罪なのでは? と疑っているわけだ。


「ユーリ。残念ながら、武器や防具等の呪いに関しては国として専門の組織があるわけじゃないんだよな。だから、法を整備しようにも、呪い自体が解明されてない現代じゃ、どうしようもできないわけだ」


「呪い自体が解明されてないのに、どうして、解呪をできるわけなのー? それっておかしくないー?」


「うふふっ? そこがミソなのですわ? なぜ、教会は解呪を行う御業を使えるのに、国として専門の組織がないか?」


「ウキキッ。大人の世界って汚いと思うのですよウキキッ」


 ユーリが、アマノとヒデヨシの言っていることにハテナマークを頭に浮かべてやがるぜ。早い話が国と言えども、教会うちの縄張りに手を出すなってことだよ。


「それにしても、ジョウさんが解呪を行えるのが不思議でたまらないよな。いくら、防具マニアって言っても、無茶すぎないか?」


「ぶひひっ。防具を取り扱うのであれば、四六時中、それこそ、ご飯を食べている時も、夢の中でも防具のことを考えるのデュフ。そうすれば、呪いの防具の解呪の方法など、赤子の手を取るように出来るようになるのデュフ!」


「おい、ユーリ。これが悪い大人の例だからな? ひとつのことに執着しすぎるとニンゲン、ダメになるっていう、生きているあかしだからな? ジョウさんは」


「お父さん、わかったー! 仕事と趣味は一緒にするなってことだよねー?」


 ちょっと、違うと思うが、まあ、そんなに間違ってもいない気もするので訂正しないでおこう。


「でさ? 話は少しずれるんだけど、伝説の防具の中には呪い付きってものがあるのか? ジョウさんよ」


「ぶひひっ。伝説の防具の中には呪い付きがあるかどうかデュフ? 広い意味では伝説の防具には呪いがかかっていると言っても良い気がするのデュフ。例えば、伝説のスクール水着のような類は、使用者を防具側が決めるのデュフ」


「なるほどなあ。たかだか防具のくせに使用者を防具側が決めるって、言われてみればおかしい話だよな?」


「そう言った縛りがある点では、呪いと言っても差し支えがないわけデュフ。あと、伝説の防具と言えば、これまた伝説と言われている勇者が着る鎧一式なのデュフ」


「伝説の勇者自体の存在が怪しまれてる世の中だって言うのに、勇者の鎧一式なんて存在するのか? ジョウさんよ?」


「ぶひひっ。あることはあるのデュフ。でも、勇者の鎧一式は困ったことに、防具側が使用者を決めるわけではないのデュフ。装備をしようと思うのならば、ツキト殿でも多分、大丈夫なのデュフ」


「多分、大丈夫って、なんか引っかかる言い方だな? 俺が装備できたとしても、【祝福】を受けれないのか? その勇者の鎧一式ってのは?」


「それがさらに困ったことに並の防具に施された【祝福】よりも効果が高いところがダメなのデュフ」


「誰でも装備ができて、誰でも【祝福】が発揮されることになんで問題があるわけなのー?」


「ぶひひっ。希少価値と言う点において、ダメなのデュフ。それ故、これは本当に伝説の勇者が装備することが出来る鎧一式なのか? と鍛冶ギルドでは疑問が出ているわけデュフ」


「なるほどー。勇者じゃなくても装備できるんだから、そんな疑問が出てきて当然だよねー? お父さんが勇者の鎧一式を装備してたら、あたしだって、そんなの勇者の鎧一式なわけないでしょー? って言っちゃうよー?」

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