第12話 神帝暦645年 8月21日 その8
「おかえりなさい、ツキト、それにユーリ。随分、おそかったのですわね?」
「ああ、すまねえ。団長のプレゼントがユーリの使い魔だったからさ。色々と話を聞いて、さらにユーリと使い魔との契約も済ませてきたんだよ。そしたら、予定より、だいぶ戻ってくるのが遅れたってわけよ」
結局、俺とユーリが自分の家に戻ってきたのは23時より10分ほど前であったのだ。家に帰ってきた俺はアマノに簡単ながらであるが、
「まあまあまあ。魔法が使えるんですか? こっしろーちゃんは。とんでもない贈り物ですわ?」
「そう。とんでもない贈り物すぎて、明日の晩を過ぎるころには、こっしろーが魔術師サロンにさらわれるんじゃねえかと、気が気じゃねえ……」
俺とアマノは、リビングの机の上に、ネズミのこっしろーを乗せて、つんつんと指でつつきながら、じゃれあっているユーリを微笑ましく見つめながら、談笑を行うのである。
「団長さんは金貨400枚(※日本円で約4000万円)で、こっしろーちゃんをあのエルフ族のセナ姫から譲ってもらったということですけど、少し、安すぎる気がするのですわ?」
「うーーーん。俺もそう思うんだけど、あちらのほうも井戸が枯れて、切羽詰まっているって話だからなあ。即、現金で金貨400枚をもらえるってんなら、セナ姫としても好都合だろうし」
「しかし、エルフ族の集落の井戸が枯れると言うのがあまり信じられない話なのですわ? 特にセナ姫がいる集落は森に囲まれた場所にあるのですわ?」
「まあ、井戸なんて枯れる時は枯れるもんだし、それに、井戸に通じる水脈が地震とかで変わっちまったんじゃねえの? 最近、
俺が朝食時に読んでいる新聞にもたびたび、
「そうですわね。地震が関わっているのかもしれないのですわ。私、一度、
「んーーー。まあ、アマノは水の魔力がB級だから、ある程度までは水脈を調べることは可能かもしれないけど、そもそも、そこまで気にすることなのか?」
「ええ。
「なるほどなあ。アマノは
「まあ、単なる思い過ごしだという可能性も高いのですわ? さて、そろそろ11時半を回るのですわ? ぱぱっとお昼を済ませて、午後からの幽霊屋敷の執事さんと打ち合わせをするのですわ?」
アマノはそう言うと、台所に向かい、水を張った鍋に火をつけるのである。火をつけると言っても、コン=ロンと言われる火が出る魔法器具の上に鍋を乗せているのだ。
火の魔法を貯めこんだ魔法結晶がコン=ロンの中に仕込まれていて、除湿器と同じく、火力調整用のレバーがついており、それの操作によって、コン=ロンから噴き出る火の調整ができるといった、家庭に1つは欲しい器具である。
ちなみに、冬には、スト=ブーという暖房器具もあり、こちらは鉄製の檻と言えばいいのだろうか? その中にコン=ロンで使われている魔法結晶よりもサイズが2倍のモノが仕込まれており、これまた、レバー操作で、スト=ブーの火力を調整できるわけである。
まあ、俺たちが生活している
だが、
「まだまだ暑いので、素麺を茹でて、流水で冷やしたのですわ? ネギを細切れにしたもので薬味は足ります?」
「
「じゃあ、お願いするのですわ? その間に、出汁巻き玉子も作ってしまいますわ?」
俺はアマノからおろし金と
「お父さんー。あたしはそうめんは
「はいはい。わかりました。ユーリ、手を洗ってこいよ? ネズミを触ったんだから、特に念入りにな?」
「僕はキレイなネズミでッチュウ! その辺のドブネズミと一緒にしないでほしいでッチュウ」
「はいはい。わかったわかった。ユーリ、こっしろーが頭のおかしいことを言っているけど、真に受けるなよ? 動物を触ったあとは、きっちり手を洗う。これは鳩のまるちゃんでも変わらないことだからな?」
「わかってるよー、そんなことくらいー。お父さんー、こっしろーくんが逃げ出さないように見張っていてねー?」
ユーリがそう言ったあと、洗面所に向かい、手を洗って戻ってくるのである。その頃には、アマノは人数分の出汁巻き玉子を作り終えており、小皿に切り分けて、食卓に並べていくのであった。
俺はすり終わった
「うふふっ? 今から食べようというときに、新聞を読みだすのはやめてほしいのですわ?」
「いや。今日の朝刊の4コマ漫画を読んでなかったなあって思ってさ。うーーーん。今日のオチはいまいちだなあ。連載もかれこれ10年以上も経つと、作者としてもネタ切れなんだろうなあ?」
「そんな新聞の4コマ漫画に眼を通しているのなんて、お父さんだけだよー。あっ、こっしろーくんの分も用意されてるんだー。さすがアマノさんだよー」
「うふふっ。こっしろーちゃんは今日からうちの家族なのですわ? でも、ネズミが1食でどれほど食べるかわからないので、とりあえず、出汁巻き玉子を1切れと、素麺を小鉢に入れてみたのですわ?」
「ありがたき幸せでッチュウ。できるなら、
まったく、贅沢なネズミのこっしろーだぜ。勝手に
「こっしろーちゃん? ちなみに、勝手に家のお野菜をかじるようでしたら、ユーリの使い魔であっても、釜茹でにしますわよ?」
「そ、そんなことしないでッチュウ! だから、釜茹ではやめてほしいでッチュウ!」
「そういえば、こっしろーくんの好物って何だったっけー? 何か言っていた気がするけどー? やっぱり、ネズミだから、天かすとかなのー?」
「天かすはもちろん、大好きでッチュウ。できるなら揚げたての天かすが良いんでッチュウ。あの菜種
「ふーーーん。あたしとしては、こっしろーくんが天国に召されたら困るから、天かすはあげれないねー?」
「天国に召されそうになるだけだッチュウ! だから、僕から天かすを奪うのはやめてほしいッチュウ!」
「あはははー。冗談に決まっているじゃないー。何をそんなに顔を青くしてるのよー? お父さんー。午後からの打ち合わせが終わったら、武器屋さんと
「うーーーん。でも、天かすってあんまり日持ちしないぞ? 湿気を吸って、二日くらいでふにゃふにゃになっちまうしなあ?」
「何か、天かすを保存できるような技術が発明されれば良いですわね? 野菜やお肉は冷蔵庫(アイス・タンク)で少し日持ちするようになりましたけど、
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