第10話 神帝暦645年 8月21日 その6
「とりあえず、自分の意識を、こっしろーくんに集中させすぎないようにする訓練も追加しないとダメですね。このままでは危なくて、使い魔との感覚の共有は認めることができません」
とまあ、団長がユーリにダメ出しをするのである。俺としても、今さっきのユーリの状態を見せられた以上、俺からも、今のままではユーリに感覚の共有をさせることは、お勧めはできないな。
「えええーーー? 結構、新鮮な体験ができて、あたしとしては楽しかったのになー? 残念だなー?」
「まあ、使い魔との感覚の共有をするなってことじゃないぞ? 訓練ではそれをやってもらうんだからな? ただ、クエスト中はやめておけって話だ。戦闘不能になったら、それこそ命に関わるからな?」
「ツキトくんの言う通りです。でも、最初から使い魔との回路がここまで太いとは、先生としても予想外でしたね? ユーリくんの才能がそうさせるのか、それとも、こっしろーくんによるモノなのかが、現時点では判断がつきませんね」
「こっしろーは純粋な動物としては、例外中も例外のニンゲン語と、さらには共通言語を使いこなせるモノだからなあ。多分、ユーリだけの問題じゃねえな、これは。なあ、森の主とか、山の主を使い魔にしたやつとか居ないのか? そしたら、ユーリと、こっしろーが繋がりすぎる原因が解明できるかもよ?」
「なるほど。森の主と山の主を使い魔にですか。残念ながら、先生には心当たりはありません。それこそ、
「ダメだな。団長が、こっしろーを譲ってもらう件で、やらかしている以上、素直に教えてもらえるとは思えねえ。団長は、もう少し、後先、考えて行動するべきじゃねえのか?」
「森の主と山の主を使い魔にしたニンゲン族の話でッチュウ? それなら、過去に居たと読んだことがあるんでッチュウ」
ネズミのこっしろーがそう言い出すのである。俺と団長は思わず、へっ!? とすっとんきょうな声を上げるのである。
「おい、こっしろー! なんで、おまえみたいなネズミ如きがそんなことを知っているんだよ!」
「へへっ。自慢ではないでッチュウが、僕、ニンゲン族やエルフ族の言葉をしゃべれるだけではなく、文字も読むことが出来るのでッチュウ!」
「えっ!? こっしろーくんって、無駄に高性能すぎませんか? 先生は、こっしろーくんをそんな風に育てた覚えはありませんよ?」
「団長さんに育てられた覚えもないでッチュウ。話の続きをするでッチュウ。僕、趣味が読書なんでッチュウ。だから、よく、書庫に潜り込んで、そこでイニシエの書物を読み漁っていたのでッチュウ」
「書庫? どこの書庫のことを言っているんだ? それにイニシエの書物ってなんだよ? 聞いたこともないぞ?」
「あれ? ニンゲン族にも書庫があるとセナ姫が言っていたのにおかしいでッチュウ。まあ、それは良いでッチュウ。僕がこっそり潜り込んでいたのは、エルフ族の【
ネズミのこっしろーが後ろ足で器用に立ち上がり、腰の両側に前足を持っていき、えっへんと胸を張る。いや、だから、そんなに胸を張られて自慢気にされても、こっちは
「なあ、団長。
「奇遇ですね。先生も知ってはいけないことを知ってしまったような気がしますよ?
「ねえ、団長ー。お父さんー? こっしろーくんが何を言っているのか全然、理解できないんだけどー?」
「俺も全然、理解できてねえよ……。だけど、名前を聞くだけで危険な香りがする、その
「ちなみに、
「ちょっと、待ってください!? セナ姫でも無理ってことは、それこそ、エルフ族の最長老じゃないと、その
「そうでッチュウ。エルフ族の長老会の中でも一握りのモノだけが入ることができると言われている書庫なのでッチュウ。僕は本の虫なので、どうしても、その中にある書物を読みたかったのでッチュウ」
ネズミのこっしろーがえっへん! と後ろの2本足で立ち、腰に前足をあてて、胸を張る。いや、だから、そんな自慢たらたらな姿勢をされてもさあ!? お前、とんでもないことをしていたって自覚がこれっぽちも無いのか!?
「お、おい。団長。俺たち、もしかして、とんでもない爆弾を手中に収めたんじゃねえのか? それこそ、ニンゲン族とエルフ族との間で戦争に発展しそうな厄介なネズミをよ!」
「いいえ、ここは考え方を変えましょう。こんな、とんでもないネズミをたった金貨400枚で手に入れたという方向で。
「さすがに10万冊以上もある書物の全てを読破できたわけではないでッチュウ。1日2~3冊と言ったところなので、ざっと、3000冊程度なのでッチュウ」
1日2~3冊も読み進めるってすげえな、このこっしろーは! 俺でも、1日休みをもらって、1冊500ページの本を読み切れるかどうかってところが限界だぞ!
「ちなみにこっしろーくんはどんな本が好きなのー?」
「僕が好んで読む本でッチュウ? 歴史の英傑たちが活躍するのが特に好きでッチュウ。それと、ハイ・ファンタジーモノも読むでッチュウよ?」
へー。こっしろーって、意外とジャンルの幅が広いんだな。さすが1日2~3冊も本を読み漁るだけはあるぜ。
「ハイ・ファンタジーってどんなジャンルなんです? ツキトくん」
団長がよくわからないのですが? という顔つきで俺に質問してくる。うーん。説明が少し難しいんだよなあ。ハイ・ファンタジーって言うジャンルは。
「えっとだな。この世界とはまた別の世界があるっていう設定でな?」
「あたしも読んだことがあるー。男の子が好きなジャンルだよねー? でも、魔法もモンスターも出てこない物語だから、少し女性には入って行きにくいジャンルなんだよねー。だけど、それでもファンタジー世界でありながらも恋愛モノっていう場合は、あたしは結構、好きかなー?」
「なかなかに面白い世界観ですね? 魔法やモンスターが存在しない世界ですか。先生も1冊読んでみましょうかね? ツキトくん、お勧めはありますか?」
「うーーーん。姫騎士モノが良い? それとも、庶民の恋愛モノが良い?」
「姫騎士モノ? なんだかよくわからないジャンルですね?」
「姫騎士モノのハイ・ファンタジーと言えば、定番のクッコロシリーズなんかがお勧めだよな。なあ、ユーリ?」
「ええー? あれはあんまり、あたしにはくるものがないっていうかー? それよりも、ゲンジくんシリーズのほうが、あたしとしてはお勧めかなー?」
「ユーリちゃんは、なかなか、ツボをついているでッチュウね。僕としては、ハイ・ファンタジーには、蒼星伝をお勧めするでッチュウ」
「あれって、登場人物が出てくるたびに、脳漿が飛び散るやつだろ? ひどいときなんか、10ページで10人くらい将軍の頭が吹き飛ぶじゃねえか」
「そこが面白いのでッチュウ。毎回、どんな将軍がぽっと出てきて、どんな武器で頭をかち割られるのかが、楽しみなのでッチュウよ?」
「うっわー。こっしろーくんって、見た目と違って、なかなか悪趣味だねー。あたしはなるべくなら血を視ないで済むような物語が良いなー?」
「きみたち、盛り上がるのは勝手ですけど、結局、先生はどれを読んだらいいんですか?」
「クッコロシリーズだろ」
「ゲンジくんシリーズだねー」
「蒼星伝でッチュウ」
俺とユーリと、こっしろーがぐぬぬと唸り、視線で火花を散らせるのである。
「クッコロシリーズの良さがわからずに、ハイ・ファンタジーを語ってんじゃねえよ!」
「ゲンジくんシリーズの良さがわからないところが、お父さんがおっさんだって言う
「脳漿が飛び散ってこそのハイ・ファンタジーでッチュウ! 偉そうな肩書持ちが次々と頭蓋骨を粉砕されていくんでッチュウよ!? これこそ、王道なんでッチュウ!」
「まあまあ、3人とも、落ち着いてください……。まったく、きみたちがそこまで本が好きだとは思っていませんでしたよ。先生、話を振ったことにちょっと後悔しているくらいですよ」
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