アデル

作者 如月ふあ

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★★★ Excellent!!!

高度な技術を注いで作られたAIと、その創造者である主人公。
彼らの関わりを通して、人間の「心」そのものを見つめる。——これは、そんな物語です。

アンドロイド開発技術者である宇野夕星が生み出した最新型のヒーラー型アンドロイド、『アデル』。
天使のような容姿と澄み切った瞳の美しい少年。ヒーラータイプ……つまり、人を『癒す』任務を与えられたアンドロイドだ。
一年後の製品化に向け、夕星は試験運用期間として彼と生活を共にすることになる。
自分の嗜好を全て詰め込んだ美しいアデルに対し、夕星は特別な思いを抱かずにいられない。けれど、アデルには当然それらの「感情」を理解することはできず、与えられた任務をこなすことこそを「報酬」として認識するように作られており——。

研究者としての先輩である五味、彼の開発した戦闘型AI『ジタン』——そして、アデルの試験運用に関わってくる人々とアデルの関わりを通し、夕星は自分自身の心、ひいては人間の心とは何か、という問いに深く向き合うことになる。

有限である「命」に向き合うことの、逃れ難い苦しみ。自分を「自分」と認識するからこその孤独。それらの苦しみを背負いながら生きる人間と、その苦しみとは無縁の場所にあるAIという存在。
人が、あるAIに対し特別な想いを抱いた時——その想いをAIへ届けることはできるのか。人とAIを阻む高い壁を取り払うことは、果たして可能なのか。

AIと共に生きる。そうして初めて浮き上がってくる、人間の心の複雑さ、孤独さ。
常に揺蕩い、彷徨い、満たされずに打ち拉がれる人間の心。そんな不完全な心が本当に求めている「癒し」とは——。
そんなことについて深く考えずにはいられない、ずっしりと奥深い味わいの物語です。

★★★ Excellent!!!

アンドロイドと心。よくありがちな題材ですが、この作品はとても深いです。確固としたテーマを、確かな筆力であぶりだしていきます。

章ごとで区切りはあるのですが、ストーリーは全編通してつながっており、それがラストにかけて、静かながらも圧倒的な感動をもたらします。

約五万字、まったく無駄のない素晴らしい作品でした。

★★★ Excellent!!!

心のないアンドロイドが、人の心を癒す。よく考えたら不思議です。
そんな不思議な形から、色んな角度で「心」を深く考察していて、その内容がすごく興味深かったです。
そして、登場人物の困惑や葛藤の描写が多彩で、強く心を揺さぶられました。

この小説の魅力について、少ない文字数で不足なく伝えるのは難しそうなので、ごくごく個人的に感じたことを書こうと思います。

『機械に宿る心、魂みたいなもの』について、僕は『あるように見えるなら、あるように振る舞うなら、実際のところの心の有無は、どうでもいいのではないか』というふうに思っています。
昔、販売された犬型のロボット。サービスが終了した頃のニュースで、普通にペットと同じような愛情を注ぐ人がいることに僕は衝撃を受けました。その人々は、確実にロボットに心を見いだしていたと思います。理屈抜きで。
人の共感力の凄まじさを、感じました。

本作のアデルも、素人目には、心を感じれるほどに、高度なプログラムで働いていると思います。
そうでなければ作中の人物がアデルに、不安を吐露したり、隠し事をしたり、嫉妬したりできないと思うのです。

しかし、主役の夕星は、研究者として、アデルに心があると認める訳にはいかない。高度なプログラムが目的に沿った反応を返してるだけと、よく分かっているから。

それでも『心が、あってくれれば』と望むのだと思います。
癒されるだけでは、人は物足りない。
心を動かしてくれる相手、癒してくれる相手━━それは無機物に対してでも━━には、その相手の“心”を、対等な形で尊重してあげたいと、人は願うものなのかも。そう思えました。

いろいろと考えさせられる、面白い作品でした。印象的な場面が、何度も続きます。
おすすめです。

★★★ Excellent!!!

いずれやって来るであろう、いや、もはや確実に訪れる未来の出来事である。
AIが心を持つ。
だが、いったい誰がそのことを本当の意味で覚悟しているだろう。
誰が、覚醒した彼らを導くというのだろう。
人間はあまりに未熟なまま、神になろうとしている……。
しかし、この作品に描かれているのは危機感だけではない。
どこまでも未熟で不確実な人間世界に対する深い受容と、だからこそ他者を必要とし求め、さらには癒やすことのできる「心」の有り様が描かれている。
満たされた存在から、欠いた存在へ。静止したものから、うつろうものへ。罪なき者から、罪を背負う者へ。
人間が長い進化の過程で経験した失楽園を、AIもまた経験する。この物語は預言書である。それが実証される日は、たぶんそう遠くない。
そして、それ以上に、この物語は祈りの書である。
作者は人間に、AIに、ひたむきに祈る。敵とか味方だとかではない。おなじ「心」を持つものとして、対等な存在として、祈る。
この作品を読み終え、その祈りを受け取ったならば……きっと、どんなことも、乗り越えていける。そして、やはり、祈るだろう。それぞれが心を持ち、孤独な存在となった私たちがお互いを受容し、癒やすために必要な出発点が、そこにあるからだ。

★★★ Excellent!!!

 深い。この物語は、とんでもなく人間の心を深く感じさせてくれる。
 レヴューを書くことを戸惑ってしまうほどに、自分の心を感じさせられる。そして人間が生きる上で、その根幹をなす感情というのはかくも孤独で、悲しく、そして素晴らしいものなのかと思い知らされる。
 「アンドロイドが感情を持って、人間が葛藤する話なら知っている」と思った方にこそ、この物語が届くことを願いたい。何故ならこの物語は、それらの物語とは比べ物にならないくらいに、心を揺さぶられるからだ。これは、人間の感情を抉り出すことに長けている作者様の手腕によるものだ。
 「人の心を癒すこと」が使命のアンドロイド・アデル。彼には多くの出会いが待っていた。彼に大きい影響を持つことになる「人を殺すこと」が使命のソルジャー型アンドロイド・ジタン。死を待つばかりなのに人間が見舞いに行けない老人。一見生に執着し、強欲に見える権力者。そしてアデルの製作者・夕星にも、ジタンの製作者や論文が影響を与えていく。
 月の満ち欠けによって表現される、人間の心。ジタンはその製作者によって、心を持ち、人間でもアンドロイドでもない存在になった。夕星は悩んだ末に、アデルにあるコードを入力する。
 人間が心を持つとは、葛藤を持つこと。一方で、自己を持つということでもある。人間の感情は常に孤独の中にあり、欠けていて、天使にも悪魔にもなり得る。
 痛いくらいに人間の心を真っ直ぐな瞳で見つめた感動作。
 是非、ご一読ください。