ヘルツ コンプレックス
「ヘルツさん……ナリか?」
「ええ、そうよ!
あなた、
まさか私がって不思議そうな顔してるわよね?」
「驚いて当然なりよ!
だって、ヘルツさんはじい様の姪っ子で、
ヘルツさんのお父上は我輩や姉上の面倒をみてくれて、高卒の姉上を会社に採用してくれたナリよ」
「それはね、じい様は今は引退したけど私の家系の元財閥のオーナーで、亡くなる前に貴女達の面倒を見るように遺言を遺してたの。
でもね、私のママがパパがじい様から相続した遺産を全て持ち逃げしたとされて浮気相手と行方を眩ましたのよ。
パパと私の二人を残してね。
それからパパは性格が一変して働かなくなったの。
そして、お酒とギャンブルに溺れて財閥の会社はドミノ式に次々と自己破産。
家系のどんどん膨らむ借金に怯える中でパパに暴力を振るわれるのよ!」
「それは……可哀想ナリ!」
「あら?あなた、いーえ、お前
私に同情してくれるの?」
「同情……、するナリよ」
「はぁ?
嫌い! 私はお前にそんな可哀想な目で同情されるの嫌い嫌い嫌い、大~い嫌いっ!」
「どうしてそんなに我輩を目の敵みたいに嫌うナリ?」
「もちろんあんたも気に食わないけど、
あんたの姉がもっと嫌い!」
「どうして姉上を?」
「あんたの姉はママをタブらかし、
財産を奪い、家庭を崩壊させた浮気相手の娘なのよ!!」
「違うナリよ!
我輩と姉上は優しい父上と母君と一緒に暮らしていたナリ!
我輩ははっきり覚えてるナリ!
両親が事故で亡くなるまでは……」
「あんたは確かにそうね。
でも、あんは知らないでしょ?
フエルマはあんたとは生まれが違うの!
私が生まれるより前に
ママと離婚した最初のパパから生まれた子供、
ママの連れ子なのよ。
そして私は今別居中のママと籍のあるパパの連れ子!」
「そんな……、
我輩知らなかったナリよ」
「あんた、亡くなった両親から聞かされて無かったのね」
「でも、だからと言って姉上本人は何も悪い事はして無いしヘルツに恨まれる理由は無いナリよ!
どうして恨むナリか?」
「だって、
ママと浮気相手のおじさん、
二人の間にあんたの姉が生まれなければ
私やパパが不幸になることは無かったのよ!」
「そんな言い分勝手ナリよ!」
「本当にそうかしら?
フエルマは、
最初は浮気相手のおじさんに片親として引きとられることになるはずだったのを、
おじさんになつかずママがいいって泣いて嫌がったのよ!
そしてね、ママの気を引こうと、
たびたび自傷行為をしていたみたいだし。
そんなことをされたママがフエルマに未練が残らない訳無いじゃない!」
「フエルマは大きくなって分別のわかるようになった今も密かにママと連絡をとってるっておじさん言ってたから、
だからあたしフエルマを絶対に許せない!」
「そうそう、
あなたは知らないかもだけど、
あなたのお姉ちゃん、私のママが同情してお世話してるから関連会社で働けているのよ。
私のパパより高い役職と給料をもらってね。
あたしはこの事実フエルマに近々直接会って言うつもりなの。
あんたのお姉ちゃん、これを聞いてどんな反応するかしら?
ねえ、アイラ?
あんたはお姉ちゃんがどういう反応すると思う?」
「す、凄く悲しむと思うナリ……」
「は~!?
奴が悲しむって寝言言ってんじゃねーよ!」
「だって、姉上はいつも笑顔だけど、
本当は我輩よりもいつもいっぱい苦しんで苦労しているから、
他人の苦しみ痛いほどわかるはずナリよ!」
「違うわ、ボケ!
他人の苦しみがわかるなら
あたしのママと浮気相手へのトラウマを知りながら、ママを無理やり引き留めるか?
あいつは自分が悲劇のヒロインぶってるだけ」
「やめろ!」
「あら?
アイラ、急に下を向いてどうしちゃったのかな~?
え~と、さっきの続きだけど、
あいつの優しさや苦労は全部嘘!
演技よ!」
「取り消せ!」
「取り消せ?
そんなむきになりなさんなって。
本当の事だし、絶対嫌!
アイラ、あんたはフエルマの嘘に騙されてるだけだわ!
嘘つきフエルマにね、アハハ、ハハ……」
『ぐふぅぉおえぇっ!!!』
・・・・・・
「え……?」
それは2人にとって一瞬の出来事だった。
「さっきの言葉、取り消せ~!!」
「な、な、な、な、何!?
あ、イタタタタタタ。痛~い!
酷~い!!
あたしあんたのこと絶対に許さない!!
あんたのこと担任の先生に言いつけて、
退学にしてもらうわ!
覚悟しておきなさい!!」
「バン!!!」
ヘルツは体育館倉庫の扉を乱暴に閉めると、そのまま鍵もせず走って去った。
「あれ?
ヘルツさん?
渡り廊下をそんなに慌てて……」
「ごめん、グラムさん!
あたし今急いでるから話しかけないで!!」
「う、うん」
(ヘルツちゃん、今体育館から出てきて
渡り廊下をすごく急いで走って行っちゃったけど
何かあったのかしら……?)
「え?
さっきまで体育館でヘルツさんが何してたかって?」
「俺見てないけどお前知っている?」
「僕も知らないよ」
「あ、私見た見た!」
「本当ですか!
教えてくれませんか?」
「え〜と確かね……」
『ガラガラガラ』
(グラムが体育館倉庫の扉を開ける音)
「あのー!
ここ、誰かいますか~?」
「…………」
「あら、アイラちゃん!?」
「グラムさん……」
(どうしてアイラちゃんがここに??)
ねえ、こんな誰も来ない場所で1人
思い詰めた顔して一体何かあったの?」
「…………」
我輩は真剣な表情でうつ向いたまま、
グラムさんの質問には答えなかった。
「何か悩みごと?
私に出来ることなら相談にのるよ。
ねえ?」
「ごめん。
私……帰る」
「ア、アイラちゃん……!?」
(アイラちゃんの喋り方が普通になってるし、
何かよっぽどのことなのかしら?)
心配するグラムさんを残し、我輩は学校を後にした。
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