取引

女性の巫女を指導者とした原始社会の島。

その島には、海外から異国の支配者が現れ

瞬く間に島を支配した。

島の文化を破壊し、

略奪し、島の人びとを奴隷にし、

少しでも抵抗するものは問答無用に殺害していったのだ。


早くに両親を海の事故で亡くし、

妹と二人で住むネイピアの家にも、

とうとう異国の侵略者が押し入り、

金目の物をあさり、

家の中を壊し回っていた。


「おい! お前!

そこをどけと言ってんだろ?」


「駄目!

この先の部屋には父と母の大切な形見があるの!」


「何だとてめえ?

素直に従うなら売春奴隷として生かしておいてあげたものを。

逆らうって言うならわかってるんだろうな?」


「私はこの命に変えても、

あなた達には決して屈しないわ!」


「んだと、てめえ!」

ネイピアは、自分に剣をかざし襲いかかってくる目の前の武装した侵略者の男二人の一瞬の隙をつき、

流れるような護身術で剣を弾き飛ばし、

地面に打ち付けた。


「私を甘くみないでちょうだい!」



「だってよ、お前ら、そいつ殺せ!」



「え? どういうこと?」

ネイピアは、自分が倒し地面に倒れる侵略者の男の視線を追った。


するとそこには、

後ろに隠れ潜んでいた侵略者の一人に

首に剣をつきつけられた妹がいた。


「アペリー!!

どうして?

あなた捕まったの?

私は大丈夫だから地下の部屋からは絶対に出てこないようあれほど言ったはずでしょ?」


「ごめん……、お姉ちゃん!」


『グサッ!』

次の瞬間、アペリーに突き付けられた剣は無残にも血に染まり、

まだ幼い少女の首からは大量の赤い血が吹き出してきた。

「あ……あ……」


「いっけねぇ、つい手元が狂っちゃった」


「き、きさまらー!」


『ポワ~ン』

すると突然、家の外の少し離れた場所辺りから、

音程の低い管楽器の様な音色が聞こえてきた。


「リーダーの合図だ。

おい、この女どうする?」


「放っておけ。

遅かれ早かれ、仲間の誰かに姦辱されるか

奴隷にされるか殺されるだけだ」


「そっか」


「リーダーは気が短いんだ。

お前ら、早く行くぞ!」


「お、おお」



そして侵略者達が立ち去った後、

ネイピア達の両親の形見の部屋を除き、

家中の家具のそのほぼ全てが跡形もなく破壊されていた。

その荒廃した家の中で、

ネイピアは死の瞬間を待つ妹の前にずっと寄り添い、涙を流していた。



ネイピアは心の中で

土着の神様に強く強く願った。


すると、突然ネイピアの背中に誰かの手が添えられた。


「え?

あんた達まだいたの?」


「違う違う。

私はアスー。

私は彼らとは関係ない。


ところで……、

なあ君?

私と取引しないか?」



そう言ってそこにいつの間にか現れていたのは、

なんとも時代不相応の

不思議な服装をした男だった。

そして彼は続けた。

「妹さんの命を救ってあげよう。

但し、条件があるが」


「あなた、

アペリーの命助けてくれるの!?」


ネイピアは目の色を変え続けた。

「私に出来る条件ならなんでも受けます!

だから、お願いします。

妹の為ならなんでもします!」


「条件って言うのはな、

君がこの村を出て、

旅をしてもらいたいんだ」


「旅を……、ですか?」


「そう、旅だ」


「どうして私が旅を?

いえ、お願いします。

理由は後で聞きます。

妹を、お願いします」


「わかった!」

風変わりな服装をしたそのアスーという

男は、そう返事をすると、

何もない空中の狭い範囲を真剣に凝視しながら、

両手の指先を器用に動かしはじめた。


「え?

どういうこと?」

驚くべきことに、

ネイピアの目の前の全ての情景が物凄いスピードでみるみる巻き戻されていったのだ。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る