R={X∣X ∌ X} 特異性ゲシュタルト症候群


僕は小さい頃、エスパー少年としてテレビに引っ張りだこだった時期があるんだ。

それは、僕の眼からはみんなとは違うものが

視えていたからなんだ。




「みなさん、お待たせしました。

会場には、今大人気のエスパー少年アーレスくんに来てもらっています!


こんにちは、アーレスくん」


「こんにちは」


「アーレスくんは透視が出来るんですよね?

本当ですか?」


「はい、一応……」


「出来るそうです!

それではさっそく、アーレスくんに透視をみせてもらいましょう!


じゃあ、アーレスくん。

箱に手を触れずに、この黒の箱の中に何が入っているのか当てられる?」


「はい」


「何が入っているの?」


「何も入っていません」


「即答してくれました。

普通は迷いますよね?

でもアーレスくんは全く迷っていませんよ。

それでは、箱の中身をお見せしましょう!」

カメラマンは箱の前に来て、上から箱を映しだした。

そして、司会の女の人が合図をしてみんなが見えるように箱の上蓋を開けた。


「無いですね!」


「異議あり!」


「あれ? 観客の男性みたいですね。

どうしたんでしょうか?」


「ふん。どうせヤラセだろ?

少年とテレビスタッフみんなで示しあわせただけじゃないか?」

声の主は小さく四角い眼鏡をかけたみるからにインテリで気が短かそうな上から目線の男の人だった。


「いえ、これは本当に……」

司会の女の人は困ってるみたいだった。


「おい、小僧!

今度は俺が箱の中にものをいれる。

それを見破ってみせろ!

出きるか?」


「うん、たぶん大丈夫」


「おー! なんということでしょうか!

観客参加型の企画に変わってしまいました。

ディレクター、このまま続けて大丈夫ですよね?」


「はい、わかりました」


「みなさん、番組的に大丈夫のようですのでこのま

ま続けたいと思います。

 それでは、観客の男性の方に箱の中に何かを隠してもらいましょう」

僕は目隠しをされて、後ろを向いて待機していた。



「アーレスくんも準備はいいですか?」


「はい」


「準備が出来たようです!

それではアーレスくんに再度箱の中身を当ててもらいましょう!

アーレスくん、お願いします!」


「ノート※……」


その直後、会場がしんと静まりかえった。



「おい、俺が尋ねているのはそこじゃない。

ノートに書いている文字を当ててみせろ!」


「おーと! ノートに書かれた文字を当てるなんて

そんな事本当に出来るんでしょうかー!」

この時、会場の観客達の刺さるような期待が僕1人に集まっていたんだ。



「ちょっと待って!」


僕が中身を当てようと声を発するよりも僅かに早く、

まるで魂が抜かれたような表情をした1人の白髪の少女が割って入ってきた。


少女は僕達と同じ歳くらいだろうか?

僕にはその面影に見覚えがあった。

確か彼女は、僕が一緒に遊んでいた遊び友達の1人だった。


「いつもと雰囲気が全然違うけど、

君……ネイピアだよね?」


「……そうよ。邪魔して悪かったわ。

私はただ、あなたに一つ忠告したかっただけ。

あなたのその力、むやみに使わないほうがいいわよ!

このままではあなた自身が消えてしまうわ。

あなたと私は特別なの。

だって私達は、彼女達二人が映す影なんですから……」


「ネイピア、ちょっと待って!」

ネイピアは僕の言葉に足を止めることは無く、

すぐにどこかへ行ってしまった。


「どうして……?」

僕はネイピアの去った方向をしばらく呆然と眺めて、

まるで金縛りにあったかのように

ただ呆然と立ち尽くすことしか出来なかった。


「おい、小僧!

答えはどうしたんだよ!」

 例の男性のヤジによって、

僕は我へと返された。


「答えは、わかりません」


「じゃあ貴様は、わからないから

降参するって事で大丈夫なんだな?

異論は無いな?」

観衆の男は僕に釘を刺してきた。


 僕はネイピアの忠告もあり、ここで中身を当ててしまうと、

また能力の使用を求められるかもしれないと思って怖かったんだ。

 だから、言わずこのまま会場を後にすることにした。


「お、こらっ貴様!

このまま逃げる気か?」


「まあまあ、落ち着いてください」

司会の女性が男性をなだめていた。


「ちなみに、ノートの中身は何を書かれたんですか?」


「中身には 『わかりません』 って書いていたんだ!

ほらこのページに……、

ってあれ? これはどういう事だ?」


「どうしたんですか?」


「無い、いや……変わってる」


「何がですか?」


「書いていた内容が見覚えの無いものに変わってるんだ……」


『ゼータ関数の非自明な零点の実部は1/2 である。

これを証明せよ』


「どういうことだ?」








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