e^(-iπ)+i=0 リザムの鏡宇宙

「アーレスくんのご両親の方ですね。

お待ちしていました。

息子さんは、元気にお喋りされてますよ」


「母さん、父さん!」


「アーレス、心配したのよ」


「ごめん」



「すみません。アーレスさんの検査があるので、

少し息子さんをお借りしてもよろしいですか?」

担当のナースの女性だ。


「はい、大丈夫です」


「アーレスさん? 今からMRIの検査をしますので、検査室まで一緒によろしいですか?」


「はい」

僕はナースの女性と検査室に向かった。




「先生、息子は大丈夫なんでしょうか?」


「その事なんですが……」



病院は海の近くに建っていた。

僕の病室は2階で、窓側だった。

なぜだろう? 僕はなんとなく、今は何もする気になれず、

意識は窓の外にあった。

空を駆けどこまでも旅をする海鳥達、

長旅への出発を予感させる大型船舶、

そして、一面を宝石のようにキラキラと輝かせる

海の景色をただ

ずっと眺めていたんだ。


「しょ~ねん! 元気にしてる?」



「先輩、来てくれたんですね。

昨日は本当にすみませんでした」


「困った時はお互い様。気にしなくていいって!


それに、こういう時はすみませんじゃなくて

ありがとうって言われたほうが嬉しいものよ」


「はい。


あの、ところであれから……」


「チルダのことよね?」


「はい」


先輩は無言で首を横にふった。


「大丈夫ですよ。きっと仲直り出来ますよ。

先輩は普段はワガママですけど、いざという時は意外と優しい

時もありますから」

僕は明るく先輩を励ました。


「私がワガママ?意外と?

あれ~? それ全然私のこと誉めて無いんじゃないかな~?

喧嘩売ってるのかな? 軽口叩けるくらい元気そうだし、

少しは買ってもいいよね?」


「痛い痛い痛い!

先輩、僕病人ですよ!今体力も落ちてるのに~!

死にますよ~! 」


「ピピピピピ!」


「あれ、私に着信?」

先輩の蛍デバイスに電話みたいだ。


「アーレスごめん。ちょっと着信受けてくるね」


「はい」

蛍デバイス等僕達の時代の電子機器の電磁波は医療器具などには干渉しない。

入院患者へのマナーとして習慣が残っているんだ。



先輩が慌てた様子で戻ってきた。

「どうしよう! チルダが危ないの!」


「チルダがいったいどうしたんですか?」

僕も先輩の話に慌てて食いついた。


「順を追って話すわね。さっきの電話は

私のママからなんだけど、アーレスの両親に

ゲートの組織の議会からチルダを捜すように

依頼があったらしいのよ」


「どうして? 父さん達はチルダがゲートから帰還した事

黙ってたんでしょ?」


「それは確かみたいよ。でもね、

あなたが入院したから、ゲートの議会の中に

チルダがまたゲートの外に戻って感染を広めたんじゃないかって

疑っている人達がいるらしいの!」


「おいおい! そいつらはどうして知ってるんだよ?

僕が先天性の遺伝子の病気だったって事を!

僕だって今日聞いたばっかりだよ!

それに、チルダが感染を広めたっていうのもわからないよ!」


「私にもわからないわ。

これって、アーレスが入院してるこの病院に、

ゲートの議会への内通者がいるってことにならない?」


「そうかもしれない。僕ちょっと父さんに電話をかけてみるよ」

僕は、ベッドを降り、病室の外で父さんに電話をかけた。


「もしもし父さん、チルダが見つかったってどういう事?」


「すまん、アーレス。 今僕と母さんは議会の人達の

説得でゴタゴタしていてね」


「ごめん父さん。でも、2つだけ教えて。

どうして僕の病気を議会の人達が知ってるの?

病院に内通者がいるの?


それと、チルダが感染を広めるってどういう事?」


「病院に議会の内通者がいたんだ。君を診断した医師がそうらしい」


「そんな……」


「もしもし、アーレス? 聞こえてるか?」


「ごめん、聞こえてるよ。続けて」


「そして、チルダさん、いや、ドーラ人全般の話になるんだが、

議会の重要機密で詳しくは言えないんだが、

僕達とは身体の作りが違うんだ」


「身体の作りが違う?」






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