第45話「鉄と雨」(改訂版)
第五話「鉄と雨」
シュバッ!
シュバッ!
「っ!」
筋肉質な小男の動きは、まるで床や壁に跳ね返る”ゴム毬”が弾けるように素早く、予測不能で……多少気持ちが悪い。
「……」
――速いことは速いがそれより……
的が小さい上に、この特殊な動きこそが、
戦闘開始早々に、女の
気持ち悪い事に、自らの筋肉にめり込むように縮ませた四肢により、体高の縦と横がほぼ同じに感じるような、そんな感じに丸まってだ。
――球体?
そう、まるで本当の”玉”のようになった
「っ!」
ブォンッ!
変則的な動きに
「……」
――少々厄介な動きだな……それに
ドカァァァッ!
「っ!?」
咄嗟に飛び退いて
――素手での打撃であの威力か……
そこは石畳の床……
「ふはははぁっ!小娘!戦での借りを今返すぞ!」
そう叫んだ
――
―
シュバッ!
タッ!
そうはさせじと、そのまま間髪置かず間を詰める
「フフッ」
黒笠男の口が緩む。
バシッ!
バシッ!
「っ!」
ギィィィーーン!
ギィィィーーン!
間を詰めていた
「…………」
――あれは……
いや弾かれた。
つまり、敵との合間を詰めようとしていた
「我が名は”雨の
黒笠男の両手の中には小さい黒い球がキラリと光る。
ビー玉くらいの鉄球、そういった物質が握られているのだ。
「……」
シュバッ!
シュバッ!
間髪置かず、再び放たれる二つの弾丸!
シュ!
ザッ!
今度はそれを横に下に……
頭を下げて
――よしっ!
「ぬぅっ!」
ギィィーーン!
斬りあげた刀の一撃が、黒笠男の鎧代わりの鎖入りマントを弾いて開き……
ヒュォン!
二撃目の刀が、がら空きの胴体へ――
「……ふふ」
――おかしい、これはっ!?
絶体絶命の状況で、
「
「っ!」
俺の叫び声と同時に、
「
バシュッ!バシュッ!バシュッ!バシュッ!
バシュッ!バシュッ!バシュッ!バシュッ!……
「っ!」
直後、開けたマントの下から無数に打ち出される黒い弾丸の嵐!
それはまるで散弾銃の弾か流星群のように目前の
「くっ!」
ゴロゴロと床を転がって
「はっは!臆病が身を助けたなっ腰巾着!」
それを眺め、勝ち誇ったように叫ぶ黒笠男……雨の
「…………」
そして、その男の言葉通り、どうやら……
黒笠男が
慎重で用心深い
詰めの段階でも気を抜かなかったから、相手の異変にいち早く気づいた
――
―
「ガハハッ!小娘ぇ!戦での借りを返すぞぉっ!!」
叫んだ
「うらぁぁぁぁ!」
バシュゥゥゥ!
そして予測不能な軌跡で跳ねた体躯は、そのまま
「っ!」
それを僅かに仰け反って
そして、そのまま空中の相手に斬りつける!
シュオン!
「ぬぅっ!?」
――これだ!
両手の特殊短剣を駆使してはいるが、中身は卓越した素手格闘の様なもの……
対して相手の
格闘スタイルが近いなら……
”刃物”の有無が、殺傷力と射程が大きくものをいう!
――そして、どんなに素早くても空中で
ギィィィーーン!
「っ!?」
――なにっ!?
「ひゃっはぁぁ!」
ドカァァァッ!
空中から残った左足による二撃目の蹴りをくらい、大きく後ろに吹き飛ぶ少女の
シュバッ!シュォン!
「……ひゃは!中々に隙が無いなぁっ!小娘ぇ!」
「…………」
――空中での二段蹴り……いや、それよりも奴は確かに
そう、あの一瞬、確かに
「ぐはっはははっ!」
だが現にヤツはピンピンしている。
その場にて、太い腕を天に掲げた最初と同じ構えを取っている。
斬られて無傷……奴の腹部にはまったくその形跡が無い。
――鎧に覆われていない、剥き出しの腹に刃を喰らって無傷だと?
「くはははっ!俺に刃物は効かぬっ!鍛え尽くされた我が”鋼の肉体”には、どのような刃も通らぬのだぁぁっ!」
「ちっ……」
「……」
――刃の通らぬ”鋼の肉体”……
「ふははっ!驚いて言葉も無いようだな小娘ぇぇ!それこそが俺が”鉄岩”と呼ばれる所以……この”鉄岩の
「……」
――”鉄岩”……ね
俺は得意満面な筋肉達磨から、両手に特殊短剣を構える腹心の部下に視線を移す。
「
苛立ちから、少しばかり口の悪い我が側近の少女。
「……」
見る限り
――だが、確かに
間合いを喰らうあの速度を生かした近接格闘系戦士。
加えて一撃のあの破壊力と、極めつけは刃の無効化。
――ほんの少しばかり厄介か……
俺は主座に坐したまま、部下達による一通りの戦いを分析して、ひとつの結論に達する。
「さて、そろそろ終わりだな、
「貴様ら雑魚共を葬った後は……
黒笠男、”雨の
筋肉達磨、”鉄岩の
両者はお互いに勝利を確信して、高らかにそう宣言した。
「この下郎がっ!!」
ダッ!
”愚王”という
「ははっ!女子供の
「
俺は主座に座したまま……そう叫ぶ!
「っ!?」
「はっ!」
ほんの一瞬、刹那の時間に、一声で俺の意図を察した二人。
ズザザッ!!
疾走していた
「なっなにっ!?」
呆気にとられた
そして――
「ぬぅっ!」
横に跳んだ
ザシュッ!
ズバッ!
ドスッ
「ぬ、ぬぅぅ!!」
だが、
「こ、小癪な真似を……ガキがっ!」
ザザッッ!
「ふんっ!このような小細工が再び通じると思うなよ、小娘……」
こちらは片腕に血を滲ませた、若干の傷を負いながらも飛び退いて、
「……」
「……」
「……」
「……」
お互いの相手を入れ替えて対峙する四人。
「……相手を変えたとて、我らの方が戦士として優れていることは身に染みたであろう」
黒笠男、”雨の
「えぇっと、あのな……」
白熱する戦いに、横合いから俺が口を挟んだ。
「なんだ……”愚王”、貴様は後でゆっくりと……」
場違いだとでも言う、苛立った顔で俺をひと睨みする
「だから、”効率”が悪そうだったんで入れ替えたんだが……」
俺は相変わらず主座に座したまま、その場の者たちに告げる。
「愚かな王でもなぁ……そのくらいは解るぞ、筋肉達磨に黒笠男」
「……」
「……」
何がだ!?と言わんばかりの眼光で俺に視線を移す二人と……
段下で状況を静観する
「どっちにしてもお前ら二人は、
――っ!!
俺は殺気立つ視線も何処吹く風、あさっての方向を見ながらそう宣言していた。
第五話「鉄と雨」END
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