第26話「魔女狩り」

 覚悟を決めた男の死は、道半ばとはいえ、安らかなものだった。

 だが、それを見送る者たちの方が、名残りを惜しんでいた。


「感傷に浸っている暇は無いぞ、レオン!」


 いつまでもアレスターを眺め、放心状態のレオンとクレアに、バウアーは現実を突きつけた。


「危険だが、研究所に行くか?」


「否、それは駄目だ。もう手遅れだ」


「手遅れ?」


「あぁ、AIはゲノムの解読が済んだと言っていた」


「ゲノム、なんだそりゃ?」


「簡単に言えば、遺伝情報だ。それを解読出来れば、クローンが作れる」


「鷹也さんのクローンをか?」


「否、それは考え難い。鷹也さんのクローンなら、クレアさんを家族としての切り離しが可能だ。つまり、クレアさんを暗殺する意味が無い。恐らく解読したのは、クレアさんだろう。だから、俺たちを拉致したんだ。そして、世界に二人クレアさんが居る事が邪魔になる」


「暗殺に来るか?」


「否、AIの知り得ない状況なら、殺す事を隠す必要が無い……不味い! 此処から早く逃げないと! 此処に核を撃たれる!」


 クレアの手を引いて、レオンは部屋を飛び出し、バウアーもそれに続く。


 今から逃げても、手遅れかもしれない。

 それに、臭いで付けて来るだろうから、逃げ切れるかどうかも……、


「そうだ! アレスターの部屋だ! あの部屋なら、きっと耐えれる筈だ!」


「どういう事?」


「アレスターの部屋は、元々、先生の部屋だったらしいんです。臭いも妖気も遮断できました。恐らく、先生なら核にも耐えられる部屋にしている筈です」


 それは、カイルがバルバドに身を寄せた際に与えられた部屋で、或る意味、アルベルトにとっての最初の研究所と呼べる部屋だったのだ。


 レオンがアレスターの部屋へ方向を転換した時、背後に膨れ上がる妖気に気付いて、咄嗟にクレアを抱いて廊下を転がる。

 振り向いた先には、鋭く尖った爪が、床に突き刺さっていた。


「どう言う事だ! バウアー!」


「全ては、母なるガイアの為だ」


「お前まで、ガイア教に……」


 ガイア教は、イクシードが作った新興宗教だった。

 オカルトを信じない科学者でさえ、宗教には入信する。

 信者の信仰心を巧みに利用して、世界をコントロールしていたのだ。

 そして、そのあがめる対象は、アルベルトだった。

 アルベルトが世界平和を望んでいたのは、周知の事実であり、また、鷹也がアルベルトのローブを着ていたことから、イクシードはそれを利用して『実は、エクリプスがアルベルトだ』と錯覚させ、広めさせたのだった。

 また、予測可能な出来事を次々に当て、予言したかのようにも見せた。


「どうして? どうしてなの、バウアー!」


「魔女狩りだ。世界を平和へ導くのに、お前は足枷あしかせと成っている」


「何を言ってるんだ! AIは、全てを滅ぼそうとしてるんだぞ!」


「違う、再生だ。俺も、お前も、何れ蘇る」


「違う! そいつは、俺でも、お前でもねぇ!」


「俺の答えは、既に決まっている! お前と問答がしたい訳じゃない!」


 そう言って、剣のように長くした爪をレオン目掛け振り、レオンはそれを爪で受け止めた。


「クレアさん、その奥がアレスターの部屋です! 先に中へ!」


「させるか!」


 その言葉と共に、レオンを大きく突き飛ばし、、レオンはバランスを大きく崩す。

 バウアーは、レオンへ突進し、右爪でその心臓を狙いに行く、レオンもまた、それに合わせるように右爪を伸ばして、バウアーを突きに行った。


 覚悟の違いが、その勝敗を分ける。


 レオンの右爪がバウアーの胸を貫き、突進の威力も相まって、その右腕までもが突き抜けた。


「俺の勝ちだ、レオン」


 バウアーにとっての勝ちは、自らの死では無く、クレアの死。

 腕まで貫かせた事によって、レオンの動きは封じられ、更に自分の左爪を伸ばし、クレアを突き刺したのである。

 その爪は、背中からクレアの心臓を貫き、クレアは崩れるように倒れる。


「クレアさーーーん!!」


 神様、お願い……、

 最期に、最期に、

 一目だけで良いから、

 鷹也に……。



「これで漸く、世界に完全なる平和が訪れるのね、イクシード」


「あぁ、そうだよ、ルイーズ。全てを無に還して、俺が創り直す」


_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/


さて、あと残すところ、2話です。

26話の次が「最終話」で、その次が「エピローグ」で完結となります。


その後に「あとがきと言う名の座談会」を書いて、

もしかしたら、その後に「真のあとがき」を書くかもですw


次回、最終話。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る