第16話「平和という名のベクトル」
「
クレアは震えながらも、必死で両手を広げ、扉を
「いいえ、退きません!」
「最早、話し合う時間も、価値も無い!」
「は、話し合う、か、価値は有ります!」
「どんな価値だ?」
クレアの言う価値は、どうせ自分を止める為に、突発的に口から出ただけの誤魔化しだろうと、
「あ、アルベルトが付けた、め、目星から、た、叩くのが、ご、合理的です」
「ほぉ、親を殺した俺に、それを提案するとはな。良いだろう、お前の勇気に免じて、30分だけだ。30分だけ時間を遣る」
そう言って、執務室にある長いテーブルの席に着くよう
部屋に入って来たクレアに、レオンが気遣う。
「大丈夫ですか?」
クレアは「大丈夫」と返事して、アレスターの正面へと着席した。
「クレア、よく戻ったね」
そう微笑むアルベルトに、クレアは誓う。
「アルベルト、私、戦うわ。前に進む為に」
アルベルトは、その決意に微笑んで頷くと「では、変人とやらの意見を聞こうか?」と、会議の口火を切った。
「いつから君が、進行役になったんだ?」
そう言ってアレスターは笑い、語り始める。
「アルベルトの極端な例は……あ、クレア、君は、何処まで聞いていた?」
アレスターは、戻ってきたクレアをリーダーとして認めた上で、今までの会話の流れを確認した。
「わ、私を連れて、く、来る来ないの、辺りです」
クレアは、未だ緊張が解けないで居た。
いつものアレスターなら、それをからかうのだが、それには触れず
「そうか、アルベルトの極端な例とは……要約すると『どちらかの滅亡こそが平和だ』と言う仮説だ。アルベルトは、極端な例を示す事で『この小さな部屋で決められた平和は、この小さな世界だけの平和であって、それを
クレアは黙って頷き、アレスターは話を続ける。
「しかし、極端な例ではあるものの、それは既に存在している事実だ。トータルエクリプスは、全てのヴァンパイアの人間化を望んでいるし、更にヴァンパイアとの共存を望まない第三世界は、ヴァンパイアの滅亡こそ、平和だと信じて疑わない。ヴァンパイア側にしても、献血などでの血の提供よりも、直接、首筋に歯を立てる事を望む者や、戦いを好む者、喰い物(人間)と対等であることに、不満を抱いている者も多い。つまりは……」
「つまりは?」
「それぞれにとって、望む世界が違う」
「しかし、それでは、いつまで経っても!」
「そうだ。恐らく君達が考えているような、統一的な平和の実現は、極めて困難と言える」
「そんな……」
「では聞くが、人間だけが支配してた頃、争いは無かったのか?」
答えの判っている意地の悪い質問に、一瞬、言葉を詰まらせたが、クレアは勇気を振り絞って、それを認める。
「貴方の言う通りです。人の歴史で、争いの無い時代は在りませんでした。しかし、それを認めるのと、諦めるのは違います」
「口では、何とでも言える。理想を実現する為には、現実的な具体案が必要だ」
「では、アレスター。貴方の考える理想的な平和の具体案とは、何ですか?」
「独裁だ」
「それはそれで、問題が在ります」
「王が不出来なら、と言うのだろ?」
「そうです」
「ならば、その時の民衆がクーデターでも起こせば良い」
「それは大きな犠牲が……」
「同じだよ。どういう世界に成ろうとも、不平や不満が募れば、最終的に紛争へと繋がる。現に、国政選挙を選んだイマジニアでさえも、トータルエクリプスのような組織が政権を取っている。俺の目から見れば、ウォレフの時代の方が平和だった。君らだって、現政権に不満があるから、亡命して此処に居るのではないか?」
「テロや戦争をする為に、此処へ来た訳ではありません。ヴァンパイアの国力によって、話し合う場を設ける為に来たのです」
「ということは、君の考える案は……」
「バランスオブパワーです。でも、それは今、思いついたものです。我々としては、統一的な平和を目標にしていました。時間を掛けてでも導ければと考えていましたが、貴方が言ったように、人の歴史が解り合えないことを証明しています。ならば、違いを理解した上で、それぞれの世界を築き介入しない事こそが、我々が今出来る最善策ではないかと」
「それによって起こり得るであろう、国家間衝突やテロは?」
「残念ですが、受け入れるしかありません」
「多数を救う為に、少数の犠牲は仕方ないと?」
アレスターは、敢えて嫌な言い方を選んだ。
「受け入れるとは言いましたが、諦めるとは言っていませんよ」
「いいだろう。ところで、君はどう考える? アルベルト」
「最適解は在る。在るには在るが、現実的とは言えない」
「何だ? 30分なんだぞ! 与えたのは! そんなとこまで、そっくりになるな! 苛々させやがって!」
「済まない。鷹也が戻れば、全てが解決すると思ったのさ」
「居ない奴に、期待出来るか!」
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さぁ、どうする親父!
リープか?
リワインドか?
次回「Leap」
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