第12話「クレアの涙」
「レオン、君にコレを渡しておくよ」
AIがそう言うと、目の前にテーブルが現れ、その上には片手で掴めるほどの袋が2つ載っていた。
「白い袋が人間に成る薬と、黒い袋がヴァンパイアに戻る為の薬だ」
「ありがとうございます、助かります」
「クレア、僕の方でも鷹也を探してみるよ」
「ありがとう、お願いね」
「あと、二人とも無理はしないように」
「はい」
アルベルトのAIに別れを告げ、グリーンランドを後にした。
AIが用意してくれた自動操縦の超音速ジェットは、戦闘機かと疑うほどに速く、その割りに重力の影響は少なかった。
こうして、行くまでの苦労は何だったのかと思うほど、呆気なくアレスター城に着いた。
「こんなことなら、サッサと捕まっておくんだったわね」
「ですね」
ジェット機は、城門から数メートル離れた広場で垂直に着陸し、二人を降ろすと、再び垂直に上昇して、北方へと帰って行った。
目の前には、出迎えてくれた仲間が不機嫌そうな顔で腕を組み、
「おい、どういうことだよ! 説明しろよ」
「済まなかったバウアー、随分待たせたみたいで」
レオンは今日までの
「アルベルトのAIか、俺も会ってみたいな」
「ホント、見た目もさることながら、話し方や考え方まで一緒でな、あれは最早、本物としか言えん。久しぶりに緊張したよ」
「そんなにか?」
「あぁ、なんせ俺は、終始敬語だったんだからな」
情報交換を終えたバウアーは、ブツブツと何やら挨拶の練習をしているらしきクレアに声を掛ける。
「さて、クレアさん。アレスター王が執務室で待っているので、案内しますよ」
「そ、そうね」
城門を潜ると、立派な庭園が広がっており、
「一般的なヴァンパイアは、太陽の恩恵を受ける花を好んだりはしないのですが、アレスターは違いましてね。美しい物は、月夜でも美しいって、こうして庭の手入れをさせているんですよって、まだ挨拶の練習してるんですか?」
「だって、ウォレフ以外の王様に会った事ないんですもん」
「そんなに気にしなくても、アレスターは気さくな王ですよ」
「え? どうして、レオンが知ってるの?」
「諜報活動で、アレスターの配下だった時期があったんですよ」
「あぁ、だから亡命の受け入れが、あんなに早かったのね」
レオンが交渉したその日に、了承が出たのである。
そうこう話している内に、執務室に着き、レオンは扉をノックした。
「入れ」
中に入ると、長い机の先にアレスターが座っている。
懐かしい顔が入って来たのを見るなり、アレスターは立ち上がり近づいて、レオンと握手を交わした。
「久しぶりだな、レオン」
「ご無沙汰しております、陛下」
「陛下はよしてくれよ、昔みたいに呼び捨てで構わん」
そう言った後、アレスターはレオンの背後で下を向き、ブツブツと挨拶の練習をしているらしき女性を見つける。
「堅苦しい挨拶は要りませんよ、お嬢さん」
そう言われたクレアは、恥ずかしそうに顔を上げた。
「もう、お嬢さんと呼ばれる歳では無いんですが……」
そう言いながら、アレスターへ手を差し出そうとしたのだが、急にその手を引いてしまう。
アレスターは、それを見て、どうしたことかと戸惑い、小首を傾げた。
再び、クレアの時間が動き出した時、最初に動いたのは手では無く、瞳から流れた一筋の涙だった。
クレアは、腰に付けていた祖父の形見の銃に手を掛けると、素早く抜いて構えた。
「アンタの顔を忘れた事は、一度も無かったわ!」
クレアは、震えながらアレスターに銃口を向ける。
アレスターは、何が起こったか解らず、レオンに問う。
「どういうことだ? 亡命ではなく、暗殺に来たのか?」
レオンが慌てて、中に割って入った。
「クレアさん! どうしたんですか?」
「こいつが、このヴァンパイアが、アタシのお父さんとお母さんを喰い殺したのよ!」
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/
血で染まり、震える少女を見ながら、アレスターは嘆いた。
「こんな時代だ、せめて一緒に逝かせてやるか……」
次回「No Pain, No Gain.」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます