第11話「Sacrifice」
「果たして、耐性は体の中まで在るかな?」
フェリオスが渾身のブレイズを放ったその瞬間、再び、時間は逆行する。
――青いな、四の五の言わず、撃てば良かったものを。
脳内にクロノスの
膨らんだブレイズは収縮し、掴んでいた手は離れ、乱立していた炎の柱は次々に消えて行き、そして、時はグレイスが生きていた時間まで、
「ブレイズ!」
改めて、グレイス目掛け放たれたそれは、クロノスの右手によって掻き消された。
クロノスの左手で肩を掴まれていたグレイスは、
「クソったれ、振り出しか!」
否、グレイスの分だけ、更に下がったか……。
だが、リワインドしたという事は、体内へのブレイズは有効と考えて良さそうだな。
しかし、何故、リープ(時間跳躍)ではなく、リワインド(時間遡行)なんだ?
リープなら、俺達の記憶は残らない筈なのにだ。
俺達が親父にとって、そこまでの存在では無いからか?
本当に、それだけか?
「考え事か? 随分と余裕じゃないか」
その声は、既に背後に在り、厭らしい笑みで浮かべている。
フェリオスは、慌ててバックナックルを振ったが、その右拳は軽々と受け止められた。
しまった、これじゃ、さっきの繰り返しじゃねーか!
固く掴まれた拳を振り
最早これまでかと、フェリオスが諦めた時、クロノスが吹き飛ばされた。
「礼は言わんぞ、ドラキュラ!」
そう、鷹也がクロノスの死角から、蹴り飛ばしたのだ。
フェリオスは、極僅かしか感じられない鷹也の神気に
「何してやがる! さっさと変換しろ! さもないと、前のように上手くは行かんぞ!」
「上手く? 上手くなど行ってない!」
「なに?」
「何もやっちゃいないんだ。ヤツは俺を見て『足らない』と言って、時間を戻した」
「足らない?」
「教えてくれ、どうやれば早くジンに変換出来る?」
「チッ! 知るかよ、そんな事! 仕方ない、時間を稼いでやるから、剣を貸せ! お前は集中してろ!」
だが、剣を呼び寄せようとするも、剣は来ない。
「ダメだ、さっきは来たのに!」
「クソが! 物質転送程度で、そんなに神気を使うのかよ……神気の使用量? そうか! リワインドを選んだのは、リープの方が神気を使うからだ! 違うか! 親父!」
そう呼ばれた者は、既に飛ばされた先に
「それがどうした?」
「さては親父、もう先が見えねぇんだろ?」
突拍子も無い問いかけに、クロノスは馬鹿にしたように冷笑する。
「可笑しいか? なら何故、コイツの蹴りを喰らった?」
その言葉で、クロノスは眉をひそめた。
「図星か?」
「遺言は、終わったか?」
「遺言? 遺言はテメェじゃねぇのか? 死期が近いんだろ?」
クロノスの表情が険しくなったのを見て、フェリオスは笑い、探偵が推理を始めるように語り出した。
「そもそも、テメェが子(使徒)を作ったのは、種族の繁栄でも、後継者を作る為でもない。テメェの寿命を延ばす為の喰いモンだ、違うか?」
「ほぉ」
「だから、どの種族との配合が、神気を高くするのか、何度も何度も繰り返した。使徒同士の性交渉を許さなかったのは、母体となった使徒の神気が、著しく減ったからだ。テメェにしてみれば、産まれる子の方が高ければ、それも良かったんだろうが、等価に至らない事の方が多かったんだろ? だから禁止にした」
その名推理に、クロノスは無言のまま拍手を贈る。
「しかし、使徒では補えないところまで、テメェは来てしまった。だから、テメェと同じ神を作って喰らえば寿命は延びると考え、コイツを作った、違うか?」
そう言って、親指で後ろに居る鷹也を指した。
「喰い物? 俺が?」
「流石だな、フェリオス。だが、それを知ったところでどうなる? 何も出来まい?」
「否、そうでもねーさ。十分な時間稼ぎには成った!」
鷹也が剣を召喚し、フェリオスに投げる。
「剣を!」
投げられた剣を受け取り、フェリオスは構える。
「炎の使徒フェリオス、
そう言って、横に振られた剣は、鷹也の首を
「なんだと!」
さぁ、どうする親父!
リープか?
リワインドか?
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再び、クレアの時間が動き出した時、最初に動いたのは手では無く、瞳から流れた一筋の涙だった。
次回「クレアの涙」
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