第7話「グリンウェルは、嘆き悲しみ」

 ――母さん、僕、強くなるよ。


 だが、それを母に伝えることは、もう出来なくなった。

 真実を知ったその日が、母の命日となったからだ。


 グレイスは、暴れるグリンウェルを押さえつけ、エミリアが殺される瞬間まで見せると、そこから遠く離れた森で、グリンウェルを降ろした。


「どうして、離してくれなかったんだ!」


 グリンウェルは、涙ながらに訴えた。


「君はあの化物、メイヲールに勝てるのか?」


 グレイスは、敢えて答えの解る質問をグリンウェルに投げた。


「闘わなくても、一緒に逃げることくらい……」


「出来ないさ……メイヲールの目的は、カーライルではなく、エミリアの方なんだからね」


「ど、どうして母さんが?」


「知らないのか? それは、君の母さんが、最強のドラキュラだからさ」


「母さんが?」


「あぁ、そうだとも。だから、行けば間違いなく、エミリアも、君も、殺されていた」


 膝を落とし、泣き崩れ、グリンウェルは嘆き悲しむ。


「僕は、僕は母さんと一緒なら、殺されても……」


 グリンウェルの悲痛な叫びをさえぎって、グレイスは激しく、熱く訴えてみせた。


「君の父さんや! 母さんが! それを望むと思うのか?」


 こう言われてしまうと、グリンウェルは反論できない。


「利口な君なら、もう何をすべきなのか解ってるだろ?」


 グリンウェルは、その叶わない答えの理由を告げる。


「だって、僕は……人間との混血だから……強く成れないんだ……」


「それは君が、そう思ってるだけだろ?」


「ぼ、僕だって、一所懸命やったんだ……」


「自分の決めた限界の中でな」


 グレイスの言葉は、更に熱を帯び、


「混血が強く成れない? 冗談じゃない! 君は、動けなくなるまで努力したのか? 血反吐が出るほどの苦しい思いをしたか? 本当に強く成るとは、そういうことだ! 君の母エミリアは、女性でありながら、メイヲールに次ぐ強さだったんだ! 努力した君が、強くならない訳がない! 俺が保証する!」


 そう言われても、自分に自信のないグリンウェルはうつむくことしかできない。

 そんなグリンウェルに、グレイスは一つの希望を与える。


「良い事を教えてやる……メイヲールも混血だ」


「え!?」


 クククッ、人とでは無いがな。


「君は、強く成りたくはないのか? 君を命がけで守った母のように。死んでからも君を守りたいと願う父のように」


「つ、強くなりたい……」


「声が小さい! そんな声では、父さんや母さんに聞こえんぞ!」


 まるで舞台俳優のように声を張り上げ、役に陶酔するグレイス。


「強く成りたい! 誰よりも、強く成りたい!」


「そうだ、いいぞ。そして、怒れ、憎しめ、怨め、それら全てが君を強くする。心が折れそうになる度に思い出すんだ。誰が、原因で、母が死んだのかを。そして、強く成ることを亡き父に、母に誓うんだ」


 グリンウェルは、強く頷き、遠い星空を見上げ、亡き父と母に誓うのだった。


 父さん、ありがとう。

 父さんが心配しないように、僕、強くなるよ。


 母さん、ごめんね。

 母さんのこと、何も知らなかった。

 母さんとの約束、必ず守るよ。

 母さん、母さんが思っていたよりも、僕、強くなってみせるよ。


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次回「グレイスは、腹の中で笑う」

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