第2話「使徒」

 赤い髪を逆立てた男、フェリオスは、生き残った戦士に対し、賞賛の拍手を贈る。


「まさか、メイヲールを倒すとはな。お陰で、仕事が一つ減ったよ」


 仕事?


 その言葉に引っ掛かりはしたが、それよりも聞きたいことが在った。


「あたんら、一体、何者なんだ?」


「我々自身、種族的な名前を付けてはいないのだが……お前らは、我々のことを神と呼ぶぞ」


 普通なら、自分のことを神などと名乗る相手を信じることは出来ないのだが、ただならぬ気配がその二人には在った。


「神? 助けに、来てくれたってことか?」


 その言葉に、フェリオスとグレイスは互いの顔を見合わせ、噴出すように笑った。


「何が、可笑しいんだ」


「すまんすまん、何か勘違いをしているようなのでな」


 そう返事をすると、フェリオスが改めて、質問に答える。


「神が、歴史上で、誰かを救った記録が在ったか?」


 その言葉に、鷹也は背筋が凍りつく。

 だが、フェリオスは更に続け、


「飢餓、疫病、災害、奴隷、戦争……」


 フェリオスは、この星に起こった負の歴史を指を折りながら数える。


「この星で様々な事が起こったが……在ったか? 神が、手を、差し伸べた事が、在ったか? 罰を与える事は在っても、助けた事が、一度でも在ったか?」


 鷹也は、考えを巡らせ、一人の名前を思い出した。


「ノ、ノアは?」


「フッ、逆だよ考えが。ノアを助けたのではなく、ノア以外を排除したのさ。ノアでさえも、残した訳は種の保存に過ぎないがな」


「では、何しに来たんだ」


「良い質問だな。知ってはいるだろうが、ヴァンパイアはクライ……あぁ、お前らが言うところのジークによって……」


 そう言ったところで、青い長髪のグレイスが話を遮った。


「フェリオス、コイツは人間とのハーフで、人間世界で暮らしていたんだ。ジークは通じない」


「そうだったのか、じゃぁキリストと言えば解るのか? もう面倒だから、慣れたクライに戻すぞ」


 グレイスは笑い、どうぞ続けてとばかりに、手を差し出した。


「知ってるとは思うが、ヴァンパイアはクライによって封印された。だがクライは元々、メイヲールを封じるために、派遣されたんだ」


「え? メイヲールは……」


「そうだ、向かってみれば、すでに片付けられた後だったという訳さ」


 メイヲールは、アルベルト、カイル、ウォレフ、グリンウェルの4人によって封印された。


「再び現れたメイヲールを倒しに来た……という事ではないのか?」


「半分は正解だ。お前の言う通り、我々はメイヲールを抹殺しに、態々わざわざ出向いて来てやった」


「都合の良いところだけ、理解が早いんだな。キリストは、その後どうした?」


 そう言って、グレイスは笑う。

 フェリオスは、その先は俺が言うとばかりに、手を挙げグレイスを制すと、続きを語りだした。


「心配性なクライは、メイヲールを片付けたヴァンパイアが、今は大した力を持っていなくとも、後々メイヲールを越えるヴァンパイアを産むのではないかと危惧きぐして、全てのヴァンパイアを封印したんだ」


「待ってくれ、メイヲールやヴァンパイアを封じることは、人類にとって救いではないのか?」


 フェリオスは、その発言が理解し難く、眉間にしわを寄せ、


「お前……人間のつもりなのか?」


 そう言って首を傾げると、隣に立つグレイスが、その理由を答えた。


「コイツは、人間生活が長いから、人間側の発想になるんだよ」


「なんでそんなこと? まぁ、いいか」


 グレイスが、このドラキュラを知っている事が気になったが、今は語ることを優先させる。


「人類にとって救いってのは、人間側の都合だろ? 神は、人間にだけ優しいってか? お前は、まだ勘違いをしているようだな」


「では、何の為に封印したんだ?」


「何の為?」


 フェリオスは良い例えが浮かんだことに、微笑みながら語る。


「解り易く言えば、神々によるシミュレーションゲームなのだよ、この世界は」


 鷹也には、それが何を意味しているのか解らず、首を傾げた。

 すぐに理解できない事を解っていたフェリオスは、補足を始める。


「どう育つのか、どう争いが起こり、どう解決するのか? その勝敗は? そういうのを見て楽しんでいるのだよ。だが、そこにだ、ゲームのバランスをいちじるしく崩すようなチートキャラが居たら?」


 フェリオスは、目を輝かせ、最後の一言を付け加える。


「邪魔だろ?」


「じゃぁ、何の為に生んだんだ!」


「そう言いたくなる気持ちも解らんではないが、すまんな、それは親父にしか解らん。時折、親父は色々な種を蒔いたからな。俺に言わせれば、ただの好き者なんだがな」


「おい! 親父が見てるかもしれんのだぞ!」


 行き過ぎた発言に、グレイスがたしなめた。


「わかったよ」


 グレイスの方を見る事無く、フェリオスは軽く手を振って返事をした。


「まぁそれによって生まれた子が、俺たちのように、神に成る者も居れば、成り損なう者も居る……そう、お前に敗れた、メイヲールのようにな」


 会話を楽しむフェリオスに、グレイスが割って入った。


「フェリオス……実はな、コイツの父親も、成り損ないなんだ」



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グレイスは、真実を知っているだけに、可笑しくて仕方がなかった。

なんせ、目の前に居る兄だと思っているこのガキは、ベッドで眠る弟と血が繋がっていないのだ。


次回 「成り損ない」


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