第18話「メイヲールの誤算」
炎に包まれた城の中で、カーライルは死を覚悟せざるを得なかった。
その城を炎で包んだ
破壊しなくては、先を進む事すら出来ない
「蚊ノ族長トハ、ソンナモノカ?」
カーライルは、決して弱い存在ではなく、歴代のドラキュラ王と比べても5本の指に入るほどだった。
ただ、突如として目の前に降りたった山羊の顔をした魔人の方が、異常なだけだったのである。
死から逃れられないことが解っているだけに、ドラキュラの再生能力が返って
じわじわと死刑台へ続く階段を一歩、また一歩と上るような気分を味わいながら、せめて一矢を報いるチャンスを伺っていたそんな時、相手の気が
明らかにその視線は、自分の後方を……
こ、この妖気!
「来るな! カイル! アルベルトを連れて、逃げろ……」
一瞬の出来事だった。
振り返って息子へ注意を呼びかけた瞬間、メイヲールの手刀によって、カーライルの身は真っ二つに切り裂かれた。
この時、既にメイヲールの関心はカーライルには無く、そのカイルと呼ばれた少年に向けられていた。
なぜなら、子供であるにも関わらず、その身から発せられていた妖気は、既に父親を凌駕していたからである。
父親が裂かれて行く様を目の当たりにしても、少年は悲鳴をあげる事もなく、それどころか恐怖さえも感じていない様子だった。
メイヲールは、ゆっくりと少年へ近づき、右拳を振り上げた後、それを少年へ目掛けて振り下ろしす。
少年は、
メイヲールは、
「楽シミハ、残シテオクカ」
そう言い残すと、その身を隠すほどの翼を大きく広げ、空の彼方へと消えていった。
・
・
・
時は過ぎ去り、少年は青年へと成長していた。
その青年は、弟を伴い、父を殺した獣の城に来ていた。
その弟も兄に引けを取らない高い妖気、そして、脅えるという言葉を知らないような目をしていた。
「覚えているか? メイヲール!」
「アノ時ノ餓鬼カ? 何シニ来タ? 仇討チニデモ来タノカ?」
「僕が君を見てみたいって言ったから、兄さんに連れて来てもらっただけだよ」
見せ物呼ばわりした事が、メイヲールの怒りを呼び、身を
カイルは構えたが、アルベルトは笑ってこう言った。
「楽しみは、後に残すんじゃなかったのか? 僕らは、まだ成長段階にある。待てば、もっと楽しめると思うよ」
「ナカナカ利口ナ餓鬼ダナ……マァ、ヨカロウ、気ガ変ワラヌ内ニ、失セルガイイ」
「どうだった?」
「思った以上だったよ。戦闘時でもないのに、兄さんの3倍以上の妖気を感じた……」
「
「きっと奴は……二度も僕らを逃がした事を後悔するよ」
・
・
・
カイルは、メイヲールの左手に握り潰されようとしていた。
他の3名の攻撃も、カイルを握った左手で払うことで、攻撃に一瞬の
「ど、ど、どうするよぉ! アルベルトォ~! あれ? アルベルトは?」
気が付けば、アルベルトの姿はなかった。
「逃ゲタカ……ドウスル? オ前達モ逃ゲルカ?」
「そうですね……元々、我々は乗り気ではなかったからね」
「なに言ってんだ、グリン!」
「このまま残っても、犬死するだけですよ。この辺りにして、我々も帰りましょうか……今です! カイル!」
呻き声をあげ続けていた筈のカイルがニヤリと笑うと、まるで爆発したかのように妖気が
「ナ、ナンダト!」
更に、上から襲いくる何かを感じとって見上げたが、
「遅い!」
天井に飾られていた石像に隠れていたアルベルトが、上空から襲いかかり、メイヲールの角を叩き折った。
メイヲールは怒り狂い、声を荒げる。
それは、激しい痛みよりも、角を折られた屈辱に対する怒りだった。
「蚊ノ分際デ、我ガ角ヲ! 許サヌ! 許サヌゾ!」
「行くぞ!」
アルベルトの掛け声により、
「右脇腹だ! ウォレフ!」
「愚カナ!」
メイヲールは、その右脇腹へ渾身の右拳を振った。
だが、そこにウォレフの姿はなく、その間にグリンウェルが左耳を剃ぎ落とした。
「喉が開いてるぞ! アルベルト!」
喉元を狙うアルベルトを警戒したが、アルベルトは直前で反転し、その間に左足のアキレス腱をカイルによって切り裂かれ、メイヲールは膝を落とした。
「グリンウェル! 右足のアキレス腱も切り裂け!」
「ソンナ、クダラナイ嘘ニ、何度モ……」
今回もフェイクだと思われた言葉が、現実のものとなりメイヲールは両膝をつく事になる。
カイル達は、次々と声を掛けて攻撃を繰り出していった。
虚と実が入り乱れ、メイヲールを混乱させる。
掛けられた方にしてみれば、複雑に感じるその罠も、先に名前を言えば本当で、先に場所を言えば嘘と、実は極めて単純な物だった。
そして、怒りに狂うメイヲールが気づく前に、攻撃システムは変わる。
「241」「188」「478」「335」
さまざまな3桁の数字が、4人から飛び交った。
聞く側にとって、その数字は暗号というより、まるで呪文のような感じを受け、更なる混乱を呼んだ。
当たれば即死する攻撃ではあったが、大振りになった事でカイルが懐に潜り込み、
息が詰まるような苦しみに、メイヲールは、生まれて初めて膝を突いた。
そこへ、死角から飛び込んできたウォレフが、両目を傷つける。
「ウォォォォォォォォォォォォォーーーーーーッ!!」
怒り、苦しみ、屈辱、様々な感情に我を忘れ、メイヲールは見えない敵へ、闇雲に攻撃をし続けた。
「今だ!」
アルベルト・ウォレフ・グリンウェルの3人は、転移装置を取り出しレーザーを放出、メイヲールを中心に一辺が50mの三角の立方体を築いた。
その間、カイルは暴れるメイヲールが、範囲外に出ないように攻撃を続ける。
「兄さん!」
その声を合図に、カイルは原子分解されるエリアから飛び出した。
メイヲールも、それに続こうとしたが、時既に遅く原子分解が始まる。
足元から消えていくメイヲールは、アルベルトを
「ユメユメ忘レルナ! 我ハ必ズ蘇リ! 貴様ラダケデハ無ク! 必ズヤ、地上ニ生キル全テノ者ヲ……皆殺シニシテヤル!」
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