第5話「亡霊」
ラズウェルドは、肩で息をする程に消耗していた。
「ハァハァ……ドラキュラを
再生能力のあるドラキュラに、多少の痛みを覚悟するような割り切った闘い方をされれば、如何なドラキュラハンターのエクリプスとて、苦戦は
本来、ドラキュラと言う種族は、特にプライドが高く、闘いにおいても美しさを求めている。
捨て身などの行為は、ドラキュラにとって、最も恥ずべき行為であった。
しかし、エクリプスは、ラズウェルドをそこまで追い込んでいたのである。
銀製の刃物で斬られた場合、ヴァンパイアはその傷口に火傷を負い、さらに再生速度が通常よりも遅れる。
如何に再生能力があるとは言え、痛みを伴わない訳ではないのだが、多くの傷口を抱えるも、闘いに集中していたラズウェルドは、それを感じてはいなかった。
「確かに貴様は、人としての限界は越えている。狩られるドラキュラが居ても頷けるほどにな。だがな、その程度では殺せぬヴァンパイアが、俺を入れて7人居る!」
所詮は人の体力だ、無尽蔵な訳ではあるまい!
消耗戦に持ち込めば、アンデットに負けはない!
ヤツは、いずれ疲れ果てる!
動きが落ちた時、その血、一滴残らず飲み干してやる!
「人のままでは、勝てんか……」
そう言うと、エクリプスは
「な、なんだと! ば、馬鹿な……」
その妖気は、地球上の何処に居ても、まるで間近でサイレンを鳴らされたような巨大なものだった。
突然現れた自分を凌ぐ妖気に、驚いたレイリアは、兄のガーランドを呼ぶ。
「兄さん!」
ガーランドは、解っているとばかりに、無言で手を上げると、瞳を閉じてその妖気を探る。
何だ、この妖気は!
この方向……ラズウェルドか?
ラズウェルドの気は感じる……
「チッ、カイルか!」
遠方の巨大な妖気に、ガーランドは嫌悪を感じていた。
以前より、増してやがる!
この異常事態は、ヴァンパイアだけでなく、人間界にも影響を与えた。
「ポイント、X2387・Y4928の地点で、大きな生体反応を確認! この大きさからすると……カ、カイルではないかと思われます!」
その名に、上官は驚きを隠せないでいた。
「カイルは、何者かに暗殺された筈ではなかったのか?」
「確かに2年前、カイルの生体反応は消えましたが、この大きさからするとカイル以外考え……
「か、カイル以上のヴァンパイアだというのか!」
「はい。今、妖気の上昇停止しました。最大V値は18740、カイルより2割増し程の大きさです」
「例えカイルでなくとも、人間の
すると、生体レーダーを眺めていたオペレーターが違和を感じて不思議そうに首を傾げる。
「どうした?」
「ら、ラズウェルドと……闘っているものと見られます」
「何? どういうことだ! 一体、何が居るんだ、此処に……」
ラズウェルドは、生まれて初めて、死の恐怖を味わっていた。
「なんなんだ、貴様は!」
その妖気に
「ま、まさか! そ、そのローブ……き、貴様が、カイルを?」
「気付くのが、少し遅かったな」
エクリプスが間合いを詰めても、ラズウェルドは動く事が出来なくなる程に戦意を喪失していた。
余りの恐怖で、瞬きさえ許されなかった視線の先に、ラズウェルドは我が目を疑う。
フードから覗いた、エクリプスの顔は――。
「ア、アルベ……ルト……」
それが、ラズウェルドの最期の言葉だった。
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