一緒にVTuberになった親友がVTuberを辞めた話
狗と猫
『猫神様と違って、ゲームは下手だし話も下手、彼女には彼女の良さがあるんだろうけどVG@プラスには必要ないでしょw』
エゴサで引っかかるのは私のファンマークをつけて、私の
見る目がない、と噛みつきたくなるのを抑えてアカウントをミュートする。
この人は画面越しに相手にダメージを与える方法がなくて感謝するべきだ。
「はぁ〜あ、人類滅びないかな〜」
「まーたそんなこと言って。またエゴサしてたの?」
「紗雪ちゃんがエゴサできないから代わりにやってあげてるんです〜」
私は同期の狗頭紗雪ちゃん
そんな私を呆れたように見る紗雪ちゃん。
彼女とはVirtual Gamersが発足した時からの仲だ。当時の私は高校生で紗雪ちゃんは大学生。
心配になる程ゆるい運営で、干渉もほぼなくのんびりとVTuberをしていたが人気が上がり始めるにつれ、色々おかしくなってしまった。
それがどこからかリークされて大炎上。路頭に迷うはずだった私たちを拾い上げてくれたのが、大手ゲームデバイスメーカーである@プラスだった。
まあよく仲良くなった方だと思う。
当時はおどおどしていてメンタルが弱すぎる紗雪ちゃんのことが少し苦手だった。だが2年も一緒にいると仲良くなるもので、たった2人で苦楽を共にしてきた私たちは既に親友と言っても過言ではないほどには仲良しになった。
「そういえば紗雪ちゃん、次のコラボ何する?」
「雫がやりたいことでいいよ」
「じゃあホラーゲーム「それ以外でお願いします」
ホラーゲームが苦手な紗雪ちゃんが食い気味で否定するのを笑いながら何をしようかな、と考える。
普通の雑談でもいいし、パーティーゲームでもいい。
考えながらタイムラインを眺めているとふと見知ったVTuberのツイートが流れてきた。
『卒業のお知らせ』
卒業か……今のところは縁のなさそうな話だ。卒業しても何もすることがない。
私はきっと猫神雫として生きて死んでいくのだろう。漠然とそんなことを思い、ふと紗雪ちゃんはどうなのか、と隣を見る。
紗雪ちゃんは大学生。進学や就職を蹴り、VTuberになった私とは違って現役だ。
大学を卒業したら就職したりするのかな。
「ねえ、紗雪ちゃん」
「なに?」
「紗雪ちゃんって大学を卒業したらどうするの?」
「あー、どうするんだろ」
「辞めたりしないよね?」
「それはないかな。だって楽しいし」
「良かった」
そんな返答に安心してほっと胸を撫で下ろす。
でも、それはそうだ。沙雪ちゃんと私は今まで苦楽を共にしてきた。苦しい時もずっと私と一緒に歩んでくれた沙雪ちゃんが私を置いて辞めるわけがない。
元気が出てきた私は沈みかけた頭を切り替えてソファから顔だけを上げて沙雪ちゃんに声をかける。
「紗雪ちゃん、暇〜!何かないの?」
「うちに何かあるように見える?」
部屋を見回すも相変わらずの無機質さにため息が出る。
紗雪ちゃんはミニマリストとやらではない、単純に物欲がないんだ。
部屋にあるのは配信機材、ベッド、ソファのみで、空いているスペースが気になって仕方ない。
「こんなにスペース空いてるとうちからいっぱい持ってきちゃうよ」
「これ以上入り浸るつもり?」
「なんなら一緒に住んじゃう?」
なんて、冗談めいて返せば紗雪ちゃんは顔を逸らしてしまう。相変わらずの照れ屋な彼女は赤くなった顔を隠すために顔を逸らすけど耳の赤さで直ぐに分かってしまう。
「そういう冗談言うもんじゃないよ」
冗談じゃないんだけどな、なんて冗談を返したらきっとさらに顔を赤くしてしまうだろう。それじゃあ、沙雪ちゃんの可愛い顔がいつまで経ってもこっちを向いてくれない。
「あはは」
「ったく、もう……」
呆れたような表情で立ち上がる紗雪ちゃん。ふわふわのメープル色の髪と150ほどしかない小柄な紗雪ちゃんが私を
「暇なら映画でも観にいく?今、結構面白そうなのやってるっぽいし」
「デートだね!カップル割できるかな?」
「馬鹿言ってないで支度しなよ」
「はーい」
立ち上がると今度は私が紗雪ちゃんの見下ろす形になる。
私も158ほどだけどそれ以上に小さい紗雪ちゃんには本当に庇護欲が掻き立てられる。
上映時間を確認して慌てて用意をする紗雪ちゃん。
そんな紗雪ちゃんに口もとを緩ませながら、こんな関係がずっと続けばいいな、なんて我ながら少しクサいことを考えてみる。
お互い本名も知らない関係。もしかしたら私たちのことを浅い関係だと嗤う者もいるのかもしれない。
だけど私にとっては正真正銘、初めて出来た
だからこの時は考えもしなかった。
この関係の終わることなんて。
一緒にVTuberになった親友がVTuberを辞めた話。
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