第48話 重大発表

日曜日の定例会議。重大発表と表示された配信待機画面とそのコメント欄にはたくさんの雀の餌の皆がまだかまだかと待機している。


「もう@プラスさんのツイートで知っている人もいると思うチュンけど、@プラスさんとスポンサー契約をさせてもらうことになったチュン!」


@プラスといえばVG@プラスの運営にして大手ゲーミングデバイスメーカーである。この前のコラボがきっかけで、とんとん拍子でスポンサー契約を締結し、なんと雀にスポンサーがつくことになった。


雀の配信では、雀の顔が映るオーバーレイの下に@プラスのロゴが表示されている。

さらにはゲーミングマウスやキーボードなどのデバイスを何故か私の分含め、いろいろ送ってもらった。


『88888』

『個人勢でスポンサーつくのすごい』

『おめでとうー!』

『活動とかに支障はない感じ?』


「何かを制限されるってことはないチュン。ただVG@プラスの一員として大会にでることがあるかもしれないチュン。具体的にはVG@プラスには猫神様が作ったFPSチームがあるチュンけどそこで欠員が出た場合とか@プラスさんの協賛する大会に誘われることはあるかもしれないチュン」


『つまり雀ちゃんの活躍の場が増えるってことでおけ?』


「そういうことチュンね」


そういうことだ。個人で活動している雀にとってはメリットしかない申し出で、雀はしっかりと話し合って頷いた。


「正直、ちょっぴり悩んだところもあるチュンけど個人勢でスポンサーがつくなんてV界隈からしても本当に一部しかいなくて、でもチュンはもう二度とないかもしれない機会に恵まれたわけチュンからプレッシャーとか跳ねのけて頑張ろうと思ったチュン。だから雀の餌たちも応援してほしいチュン」


『これからも応援してます!』

『頑張ってください!』


「ありがとうチュン!まあでも結局、これからもゲームして雑談して飼い主さんのいちゃいちゃするだけチュンけどね」


『草』

『当たり前のようにいちゃいちゃが組み込まれてるの草なんだな』



「いちゃいちゃは心の洗濯チュンから。それと今日はもう一つ、重大発表があるチュン!その重大発表はこの人から発表してもらうチュン!」


声を張り上げてこちらを見る雀。私は胃が痛い思いをしながらゆっくりとマイクへ近づいた。


「こんにちは。飼い主です。えー、この度は熱望により飼い主としての配信アカウントを作成することになりました。といっても稼働は少ないですしやっても雑談ぐらいになると思いますが一応のご報告です」


人生ゲームの時の鷲宮さんの発言により、飼い主さんに配信してもらいたいというニッチな層からの熱がすごいことになってしまった。

寧々とその数の暴力に押され、しぶしぶ作ることになったのは『飼い主さんの休憩所』という配信チャンネルだ。

正直、乗り気ではない……ないが、加速するコメント欄に選択としてはより多に祝福されるほうを選んだことを思い知ることになる。


「今、URLをツイートンで呟いたチュンからぜひ登録してほしいチュン!」


『登録した!』

『飼い主さんのASMRたのしみ!』


「A、ASMRはマイクとか色々買わないといけないから当分やらないよ?」


調べたらそこそこ良い値段がしたから直ぐにとはいえない。

鷲宮さんには悪いけど。

あとそもそもASMRってどんなことをすればいいのか、いまいち分かっていないのもある。


「当分は作業してる時の雑談とかがメインになると思います。でも話も上手いわけじゃないのであんまり期待しないでください……」


『飼い主さんの声を摂取できるだけで嬉しいんやで……』

『毎秒配信して話して♡』


「ありがとうございます」

「あとは基本的には対人戦のFPSがメインのチャンネルチュンけどこれからはストーリー系も少し触れてみたいと思っているチュン。そういう要望が多いのと、FPSが苦手な層、まあ酔いやすい人とかチュンね。そういう人も楽しめるチャンネルにしたいと思ってるチュン」


『でもそれって雀ちゃんの負担増えない?』


「負担は増えないといったら嘘になるチュンけど、配信にも慣れてきて、配信時間も少しずつ伸びているチュンから無理しない程度に頑張るチュン。最悪、飼い主さんに癒されるから心配ご無用チュン」


「癒し担当、この前マッサージしたら雀に痛いと言われてへこんでます」


「折られるかと思ったチュン」


私にマッサージの才能はないようだ。軽く腰を押したつもりだったが、思った以上に力が入っていたみたいで、雀の叫び声が明日家に響いた。


『草』

『草』

『草』


「あとはそうチュンね。お姉ちゃんのことも話そうと思ってたチュン。今、飼い主さんの家にチュンの姉が居候?みたいな感じで一緒にいるから知らない女の人の声が聞こえても幽霊だと思わずに気にしないでほしいチュン」


『雀ちゃんお姉さんいたんだ!』

『活動のことは大丈夫?』


「活動のことは既にバレてるから大丈夫チュン。お姉ちゃんは飼い主さんとも面識があるから成り行きで今一緒の家にいるチュン」

「あとめちゃくちゃなシスコンです」


『草』

『今の飼い主さんのトーンでお姉さんとの関係が垣間見えましたわね』

『一匹の雀を取り合う関係か……』


「まあ、こんなところチュンね。飼い主さんからは何かないチュンか?」

「特にないかな。あ、これからも雀のことよろしくね」

「よろしくチュン!じゃあ今日の定例会議はここで終わるチュン!0時前から新作FPSゲームに触れる配信するからぜひ来てほしいチュン!」


『たのしみ!おつずめ!』

『おつずめ~』

『おつずめ~』


配信を切り、寧々がほっと息を吐く。私はそんな寧々にお茶を差し出す。


「次の配信のサムネ作ったやつ送ったけど本当に連続して配信していいの?」

「ん。楽しいから」

「ならいいんだけどね」


最初は一時間ほどの配信でバテ気味だった寧々もすっかり頼もしくなってしまった。

「おやすみ」といって自室に戻る寧々におやすみと声をかけて、軽く頬を叩く。


私も頑張らないと。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る