第39話 人生ゲーム

「人生ゲームの時間にゃあああああ!」


猫神様の言葉を皮切りに、放送が始まる。

画面には私たちの立ち絵がそれぞれ動いている。

鷲宮さんはグレーの髪に鳥の羽を模した髪飾りをつけた黄色い目の美人さんだ。千虎ちゃんはやや緑がかった金髪で虎の耳を模した虎柄の耳が生えている。

私と猫神様はいつも通り、猫耳を生やした金髪碧眼の少女と肩に雀を乗せた私だ。

目では追えないほどの量のコメントが押し寄せ、ディスプレイに表示されていて、ちょっぴり怖い。


「________というわけで!VG@が独自に開発したクスッと笑える人生ゲームのルールを説明する前に、まずはみんなの自己紹介をしていこうと思うにゃ!」


「まずはにゃーから、みんな〜おはにゃ〜!virtual gamers@プラスの副部長!今日も元気な猫神 雫にゃ!よろしくにゃ!」


『にゃああああああ』

『にゃああああああ』

『にゃああああああ』


鳴き声でコメントが埋まるのも参猫者としては見慣れた光景だ。


「じゃあ次は私が行くわ。virtual gamers@プラス所属の格ゲーマー、鷲宮 梅雨よ。あなた達、今日もたくさんコンボしてあげるからしっかり硬直してなさい」


『はい!!!!!』

『ご褒美です!』

『ありがとうございます!!!!』


こっちも相変わらずで、リスナーの統率がすごい。


「じゃあ3番目は私が!今日も千虎は生きてるぞー!長時間配信なら私に任せろ!鬼畜系VTuberの千虎 七瀬だよー!今日は鬼畜ゲーじゃないけどよろしくね!」


『死なないで……』

『生きて……』

『さよなら……』


こっちもよく見る光景がコメント欄に流れていく。さて次は私だ。


ゆっくりと息を吐く。そして大きく声を張り上げた。


「じゃあトリは貰ったチュン!小さなつづらを大奮発!銃声鳴り響く戦場が住処の雀系VTuberこと下切 雀チュン!」


『殺戮雀のお通りだあああああ!!!』

『道を開けろおおおおお』

『首を垂れろおおおお!』

『雀ちゃんだ!!!!!』


そしてこの落差である。FPSの配信の時はみんな血気盛んになるようで、こういったコメントが開幕に書き込まれることが多くなった。

私のことを知らないリスナーの反応が不安です。


「というわけで今回はこの4人で2対2のチームを作って人生ゲームをやっていきたいと思うにゃ!!ルール説明は鷲宮ちゃんよろしくにゃ!」


「任されたわ。

今回の人生ゲームはチーム戦。

最終的に合計した財産が多いチームが勝つわ。あと知ってると思うけど、この人生ゲームはVTuberのための人生ゲームよ。

だから止まるマスによって配信向けな様々なことが起こるわ。楽しみにしていてちょうだい。ターンは百年……はちょっと長いから六十年ぐらいにしときましょう」


画面に表示された人生ゲームは結構大きめで、『?』のマスが大半を占めている。

ここを踏んだら様々なことがランダムで起こる、例えばモノマネだったりリスナーを最大限楽しませるための工夫がなされている。

踏んだ後にマスが赤になると悪いことが起こることが多く、青になるとその逆で良いことが起こることが多い。

またコースは企業Vコースと個人Vコースがあり、企業Vは収入が安定するが、個人Vは安定しない代わりに一発逆転の可能性もあるらしい。

最終的な財産の多いチームが勝利となるが、途中で得られるリスナーという存在ものちに財産に関わってくる。


まさにVTuberのための人生ゲームだ。


「じゃあ今日の長丁場、しっかりついてきなさいよ」

「目を離したらダメにゃよ」


アイドルだ……!

配信をサイリウムを持って眺めていたいが、今日は私もキャスト側だ。


「じゃあ早速、最初のサイコロを振って順番を決めるにゃ!」


自己紹介をした順で、ゲーム内でサイコロを振る。

猫神様は『2』

鷲宮さんが『5』

千虎ちゃんが『3』

私が『6』


数字の小さい順から始まるから私は最後になった。


最初はみんな、同じスタートにいる。

そこには『VTuberになりたい』と書かれていて、ここからVTuberになって、お金を稼いでいく。

なお初期の財産は100万円だ。


「最初はにゃーからにゃね。早速行くにゃ!にゃーは企業Vだからこっちのコースを進むにゃ!」


人生ゲームでの自身のアバターはデフォルメされた動物のキャラクターだ。

猫神様が猫で、鷲宮さんが鷲、千虎ちゃんは虎で、私が雀とそれぞれのモチーフになった動物にしている。

VG@では動物をモチーフにしたVのみで構成されてるから多種多様な動物がゲーム内にも用意されているらしい。


猫神様がサイコロを振る。

出た目は、またしても『2』だ。


「ぐぬぬ、また2かにゃ」

「猫だからチュンかね」

「これは操作されてるにゃ!」

「それあなた前のガチャ配信の時も言ってたわよね」


猫神様が2マス進む。

『?』のマークが開き、青が表示される。


『VTuberになるためのオーディションに受かった。VTuberを始めた理由を話す。+10万円』


「にゃ!?……嫌にゃけど」

「あっ、チュンも聞きたいチュン」

「興味はあるわね」

「ワクワク」


三者三様に興味を示す私たちに猫神様が苦い顔をする。


「……紗雪ちゃんに誘われたからにゃ。オーディションに誘われて一緒に受けたら受かったのにゃ」


それはつまり、狗頭さんと猫神様がVとしてデビューする前から知り合いだったということだ。

私の記憶が確かだと、2人が知り合いだったという話は初めて出たと思う。


私は、両手を合わせて呟く。


「てぇてぇ……」

「絶対言うと思ったにゃ!!!!」


だって2人が知り合いだってことは、つまりは今でも関係が続いている可能性が高いということだ。

しかも部長の空席を守ってる猫神様のことを思うと……

つまりてぇてぇだ。誰が何と言おうとてぇてぇなんだ。


「何がてぇてぇなのかよくわからないのだけど……」

「私は分かっちゃいますねぇ〜、というかなんなら結婚しててほしいです」

「わかりみチュン」


「も、もう紗雪ちゃんとはそういうのじゃないにゃ!」

顔を赤くして否定する猫神様。


『タジタジで草』

『紗雪ちゃんって?』


『¥50000

狗頭 紗雪。

元VirtualGamers@プラスの部長。副部長とは仲が良く、一部界隈で仲の良さからざわめきが起こっていた。その独特でほんわかした雰囲気の配信は疲れを癒すには最適。

退部したが猫神様は今でも部長の席を空席にしていることから戻ってきてほしいという想いがあるのかもしれない。https://sanbyosha.org/wiki/狗頭紗雪より引用』


『まじで草』

『引用のついでにマスチャするの草』


「流石に草チュン。さゆしずさんマスチャ感謝チュン!」

「……さゆしずさん。50,000円マスチャありがとうにゃ!」

「ありがとうございます!名前からしてガチ勢の方ですねぇ」

「マスチャ感謝するわ」


「いいから次行くにゃよ」

「了解です!次は千虎がサイコロを振ります!」


止まったサイコロには6が表示される。


「ふふん、流石私ですねぇ。個人Vなので私はこっちです」


止まったのは青いマスだ。


『VTuberを始めるためにPCを買う。−20万

ママに体を作ってもらう。−25万

おっと!ママは謎かけマニアだった、上手く謎かけできたら他プレイヤーの投票によって金額が安くなる』


「無茶振りにも程がないですか!?」

「ふん。早くやってみなさい」

「鷲宮さん!?えっと、ええと……わ、鷲宮さんと掛けまして、ふぁ、ファントム・マインドと解きます」

「へー、その心は?」


「ど、どちらも鬼畜」


『www』

『さよなら……』

『千虎ちゃん死んじゃった』


「言い残すことは?」

「ごめんなさい」


鷲宮さんがノータイムで0を選択する。私たちも笑いながらそれに続いた。


『ママは怒ってしまった。さらに−15万』


「うちのママはそんなことしませんー!」


これで千虎ちゃんは初手から−60万円になった。全財産は40万だ。


「というか!チーム戦なんだから点数くれてもよかったと思うんですけど!」

「ごめんなさい。嘘はつけない性格なの」

「むきー!」


やや凹みしてる千虎ちゃんを横目に表情を少し綻ばせた鷲宮さんがサイコロを振る。


表示されたのは『6』

迷わず企業Vのコースに進んでいく。


「おおー!鷲宮さんも6チュンね」

「風が来てますね!」

「そのまま吹き飛ばされるがいいにゃ!」


そして青マスだ。


『大手企業のVTuberオーディションに受かる。好きなVTuberを語るとランダムで収入アップ状態を付与』


「好きなV……誰かしら。少なくとも絡んだことがあるVは皆好きよ」

「ありきたりな返答は聞きたくないにゃー!ナンバーワンを聞きたいのにゃ!」

「気持ち悪いわね……そうね。これは営業だけど千虎七瀬というVは好きよ。理不尽に負けないで楽しく配信をしているのは凄いと思うわ」

「な、ななな、なんですか急に!?デレ期ですか!?みんな避難してください!雷が降ります!」


「今の発言、全部撤回するわ……」


コメント欄が凄い勢いで流れていく。

鷲宮さんのことは詳しいわけじゃないけど、このデレがとてもレアなことだけはわかる。


「なんだか恥ずかしくなってきたわね……雀さん、次どうぞ」

「了解チュン!」


サイコロを振ると表示されるのは『3』

通るのはもちろん、個人Vのコースだ。


どんなお題がでるのか楽しみだったりする。


やがて開いたマスの色は赤。


『VTuberを始めるために仕事を辞める。一回休み』


『草』

『草』

『草』


「草にゃ」


「なんでチュゥゥゥゥゥゥン!!!!!!」


私の叫びがスタジオに響いた。


_________________________________________

存在しない記憶が、この配信はあったと訴えかけてくる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る