第36話 猫は雀と一緒に遊びたい

怖い、なんて思ってはいけないんだと思う。

これを喜んで受けることが大事なんだと思う。


だけど私はそう上手くできないみたいだ。


断りの文言が頭の中に巡っていき、角の立たない断り方ばかりを探してしまう。

これはまたとないチャンスで、これからのために受けるべきなのに。


『雀ちゃん、今、いいかにゃ?」


ディスコにDMが届く。届主は、猫神様その人だった。


『大丈夫チュン』


返事をして直ぐに通話が掛かってくる。

私は深呼吸をしてその通話を取った。


『雀ちゃん、久々にゃ』

「お久しぶりチュン」

『なんかちょっと緊張してるかにゃ?』

「してないチュン。それより猫神様は登録者七十万人おめでとうチュン」

『にゃはは、ありがとうにゃ』


猫神様は、最近一気に伸びている。

VG@の猫神様を含むチームが大会で名前を残し、ツイートンのトレンド1位を獲得したのも理由の一つだろう。

それでも本当のトップ層と比べると、まだ差があるんだからV界隈というのは思っている以上に広がっている。

そこにいるから何も変わっていないように感じるけど、Vの登録者数や同時接続数は日に日に増えていってて、黎明期と比べると天と地の差だ。


「それでどうしたチュンか?」

『や、にゃんというか雀ちゃんが考えさせてって言ってたから悩んでいるのかにゃと思って……』

「それは……」


その通りだ。いつも元気な猫神様の不安そうな声に、申し訳なさやら温かさを感じながらも小さく「うん」と頷いた。


『にゃーと一緒にしたくないわけじゃ、ないにゃよね……?』

「そういうわけじゃないチュン……」

『じゃあ、他の理由にゃ?』

「それはその……」


言葉がでない。あれ、誰かに相談するのってこんなに難しいことだっけ。

いつも相談する相手が親しい彼方だけだからいつの間にか相談のハードルが上がってしまったようだ。それに怖い、なんて誘ってくれた猫神様にも失礼だし。


『……にゃーは。にゃーは雀ちゃんと一緒にしたいにゃ。一緒にコラボして一緒に楽しんで、それで雀ちゃんの存在をもっと、もーっとみんなに知ってほしいにゃ』


真面目なトーンでの言葉に、思わず笑みがこぼれてしまった。

最近、新調したマイクはその感情を声として拾ってしまったらしい。


猫神様の焦った声が聞こえ、今度こそ声を出して笑ってしまう。


「熱烈な告白チュンね」

『ちょ、茶化さないでほしいにゃ!』

「……正直な話をすると少し怖かったチュン。チュンのチャンネル登録者数や視聴者数とは段違いな猫神様や他の人とコラボすることが」

『……そうだったのかにゃ』

「でも、まあ、そこまで熱烈な言葉をもらったら断るわけにはいかないチュンね」


『それってそういうことにゃよね!?一緒に出てくれるってことにゃよね!?』

猫神様の弾んだ声が聞こえる。


「一緒に勝つチュンよ!」

『うん!企画書送るにゃ!』

「ありがとうチュン!」

『あと撮影はVG@のスタジオでやるからそこだけ注意にゃ!』

「わかったちゅ……ん?」


聞き間違いだろうか。いや、そういえば半年前もオフコラボでやっていた。

それは外部コラボだとしても変わらないだろう。


ということはつまり、猫神様と会うってことになる。

大先輩で推しで、そんな猫神様と会う……


「やっぱり辞退しようチュンかな」

『なんでにゃ!?』


そこから紆余曲折あり、私たちのオフコラボ兼大型コラボが決まったのだった。


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次回、わちゃわちゃ人生ゲーム(リハ)新しいVが二名出てきます。

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