第33話 ホラーゲームと距離感のバグ(3)
「ヴァッ」「うぎゃー!」「ぴえー!」「ひえぇ〜」「ぎゃー!」
放送開始から1時間と15分。
無事、音MAD素材をたくさん提供した私は、寧々を抱き抱えたまま、マウスとキーボードを操作する。
現在、私は地下室を彷徨っていた。
ライトは大層気に入られたらしく、幽霊なのか人なのかわからないナニカはライトを持って地下室に入ってしまった。
不本意ながら追いかけるも地下室は迷路のように道が枝分かれしていて、マッピングするのが難しい。
「飼い主さんが彷徨ってる間、適当にコメント返すチュンか」
「ここから三年は、さまよーるになる自信あるけど」
『コメント返しの時間だあああああ』
『飼い主さん、あと10時間ぐらい彷徨ってていいですよ^ ^』
「そもそも定例会議ってコメントとか質問返して雑談するものなのにどうしてこんなことに」
「はいはい、飼い主さんは迷路抜けるまで手を動かすチュン」
「えーと、お二人の身長を教えてくださいだって」
「今はどうかわかんないけど、健康診断の時は170.2だったなぁ」
『!?!?!?!?』
『すこ……』
『えっ、160ぐらいだと思ってたからビックリした』
「チュンは、151.3が覚えている最後の身長チュン」
『身長差、20センチ!?!?犯罪ですよ!?!?!?!?』
『公式が爆弾だらけで口角どっか飛んでった』
『えっ、今、膝に雀ちゃん乗せてるんだよね????それって……170cmの飼い主さんの膝に150cmの雀ちゃんが乗ってるってコト……!?』
「なんか横目で見えるコメント欄が地獄なんだけど大丈夫?」
「餌の皆さんの日常チュン」
「まあ、推しに狂う日常っていえば普通なのか、な?」
私もその一人なわけだし。
「あ、ついでに言っとくチュン。時々、飼い雀のファンアートとか不快に思うかもしれないみたいな杞憂見かけることあるチュンけど、飼い雀は全然ウェルカムチュンからどんどん描くチュン。チュンのブックマークに収納されるチュン」
「飼い主としてもどんどん描いてくれていいよ。R18の場合は検索避けの配慮はしてほしいかもだけど」
『公式の声、助かる』
『半ナマだから慎重にはならないとだけど、こう言ってくれたら描く身として少し嬉しいのだ』
「つまり!チュンと飼い主さんのカップリングは公式チュン!」
「あはは。……そろそろ抜けられそうだよ」
「ナイスチュン!」
『愛想笑いで草』
『逆に考えるんだ、否定はしてないと』
実際、公式寄りではあるんだけど、ビクってなるからやめてほしい。悪いことをしているわけじゃないけど、ややこしいことになるのは嫌だからバレるのは勘弁だ。
特に私たちのことを知ってるっぽい長月さんにバレるのがめんどくさい……
絶対怒鳴り込んでくる長月さんを想像しながら苦い顔をして、迷路を抜けると、そこには分厚い扉が鎮座していた。
「うわぁ、いかにもって感じの扉だぁ」
「ボス戦チュンか!?」
「ファンマイの民は直ぐにボス戦したがる」
扉に手をかける。扉はぎぃ~という嫌な音とともに開いて、中から光が差し込んだ。
「子ども……?」
扉の先には、コンクリートの壁で囲まれた部屋と、三つの扉。そしてその中心で、人形を抱く十歳ほどの少女が生気のない顔でこちらを見ていた。
少女の足元には失くしたライトが転がっている。
【おねーさん、だれ?】
【堕天使!】
少女の問いに、ダテちゃんは胸を張って答える。
ぽかんとした少女は、小さく【天使さま……?】と呟き、ダテちゃんはふふんと頷いた。
なんかやばい方向に話進み始めてない?大丈夫?
【私を救ってくれるの?】
【当たり前じゃない!】
少女は小さく微笑んで、ダテちゃんの袖を掴んだ。
【さてライトも取り戻したわけだし、ここから脱出を】
だが振り返ると先ほどまであった入り口はなく、コンクリートの分厚い壁が彼女たちの帰路を塞いでいた。
【……あれ?】
【こっち】
少女に手を引かれ、ダテちゃんは三つの扉のうちの一つの前へ案内される。
ダテちゃんが恐る恐る開くと、そこには眩い光の差す森が広がっていた。
「なんで?」
「知らんチュン」
『地下室の先には森がありました』
『というかおねロリでは?』
「とりあえず探索してみようか」
「そうチュンね」
少女の手を引いて歩く。昼間の外のような森を進んでいると、やはりというべきか、よだれを垂らしながら虚空を見て笑ってる男女がいた。
「やっぱタイトル的に、薬物的なものの幻覚作用が関係してるっぽいね。てかこの女の子もだいぶ怪しいけど……大丈夫……じゃないよね?」
「まあ十中八九、やべーことになりそうチュンね」
【ここは通れなさそう】
ダテちゃんの言葉に、少女が手を引いてダテちゃんを男女のもとへ連れていく。
抵抗するがダテちゃんより少女の力が強いのか、あっという間に二人のもとにたどり着いてしまった。
【じゃま】
少女がそう呟くと、二人はゆっくりとした足取りで木々の奥へ消えていく。
【私はここの管理を任されてるから、居ても大丈夫】
【あなたはいったい……】
【私は、カミサマのシモベ。それ以下でもそれ以上でもない】
少女がダテちゃんの前に出て振り返る。
その瞬間、木々の影からぎょろぎょろした目をした大量の人々がダテちゃんを見ていた。
【序章 カミサマの足音】
「うわぁ……」
「だいぶ絵面がやばい」
とりあえず序章をした感想としては色々、考察が捗る内容といえるだろう。
「カミサマという上位存在がいて、その存在に色々役割を振り分けられてるのが彼女たちなんだね。なんだか面白くなってきた」
「じゃあこのまま、次の章を」
「やらないです」
『草』
「まあ、そのうち進めると思うよ。セサクとかアビスコールも二人でやってほしいってリクエストも多いし少しずつやっていけたらいいな」
「そうチュンね。というかこのゲーム、もう一ヶ月ぐらいやってた気がするチュンけどまだ2時間弱しかやってないチュンね」
「あはは……私はその2時間でどっと疲れたけどね……」
「じゃあとりあえず今日はここまでチュンね!マスチャの読み上げをして終わりにするチュン!」
『たのしかた!』
『膝上雀のファンアート血眼で監視します』
『おつずめ〜!』
_________________________________________
マスチャを読み上げ、配信を切り上げた寧々が小さく息をつく。
「どうしたの?」
「いや、単純に続きが気になるからやっていい?」
PCを指差す寧々に、思わず笑ってしまった。
ゲーマーというのはどこまで行ってもゲーマーなんだろう。
今直ぐにやりたい、と訴えかける寧々に私はもちろんと頷いた。
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