第5話

 タスキ、どこに行っちゃったんだよ……。

 俺は、はあ……とため息をつきながら校門を出た。

「おい、高杉」

 佐々木が校門の陰に立っていた。

「なんだよ。待ち伏せか?」

「いや、たまたま」

 クスリと佐々木が笑った。仕草の一つ一つがかっこいい。嫌味な奴だ。

「お前さ。これ、食う?」

白い紙袋を胸に押し付けられて俺は、はてな? となりながら、紙袋を開けた。いちご大福の包みが二個入っている。

なんと俺の好物の、学校近くの笑福堂のいちご大福だ。

「あ、一つは俺が食うから」

 腕が伸びてきて、包みを一つさらって行った。そこの公園で食おうぜ、と言われるまま、佐々木について行く。公園のベンチに座って、二人でいちご大福を頬張った。佐々木が手を叩いて、手についた白い粉をはらう。口の周りにも、少し白く粉がついていた。それを指先でぬぐいながら、

「実は、好きなんだ」

と佐々木が言った。

「……」

 あ、いちご大福のことか。

 幸い俺の勘違いには気がつかなかったらしい。(気づかれたら、俺、恥ずかしくて死んでる)佐々木がベンチの背もたれに肘を乗せ、俺に顔を向けた。

「で、どうだった。新井先輩と里田さん」

俺はため息をついた。

「二人とも、タスキは持ってないよ」

「そっか」

 佐々木は、ベンチに寄りかかると、参ったなと空を見上げた。

 ついでに、給水塔の幽霊の話をした。里田さんのことを、給水塔の幽霊と見間違えたと言ったら、笑われてしまった。佐々木はゲラゲラと笑いながら、

「お前、良い奴だな〜」

と、目元を拭った。

「涙出るまで笑うか?」

「いやー、本当。良い奴」

 笑いながら、背中を叩いてくる。

 こいつ、笑い上戸か?

ようやく佐々木の笑いがおさまった。俺はむくれかけていたけど。

「それで、その母親の幽霊は、死んだ子を夜な夜な探しに来るんだ? なんつーか、愛? それとも執着ってヤツ?」

佐々木の言葉に、俺はちょっと考え込んだ。

 そりゃ、愛だろ。

 十四、五の俺たちにとってはむず痒いような、うざったいような……。

あ。

 俺は、思わず立ち上がった。


 突然走り始めた俺を、佐々木が慌てて追いかけてきた。結構マジで走ってるのに、さすが、ぴったりと後ろについてくる。

「やっぱ、お前と走るの楽しいわ、俺」

 信号で立ち止まり、肩を並べた時、佐々木が俺に言った。

 はてなマークの俺に、佐々木が笑いかける。

「だって、部活で本気になって俺と走ってくれるのって、高杉だけじゃん。俺、お前と走るときは、何も考えないで走れるから、好き」

「え……」

 たじろぐと、いきなりど突かれた。

「走るのが好きだって言ってんだ。顔赤らめるなよ、バーカ」

 こいつも、俺と同じで、何も考えないで走るのがいいって思ってるんだ。共通点を見つけた途端、佐々木がすごく身近に感じられた。でも、俺は顔を赤らめたりはしていない。断じて。

「そりゃ、こっちのセリフだ。バーカ」

 そう言いながらも、なんだか気分が良かった。

 信号が青に変わる。

 道を曲がったところにある、マンションの一室の前で、俺は立ち止まった。表札を見て、佐々木が訝しげに目を細めた。

 玄関のチャイムを押すと、一人の女性が出てきた。引越しの作業の途中だったのだろうか。なんとも言えないマーブル模様の長袖Tシャツを腕まくりしている。

「この間は、駅伝の試走会を見に来ていただいてありがとうございました」

 突然の俺たちの訪問に、彼女は戸惑い、面倒に感じている様子だった。そりゃそうだろう。相手が何か言おうとする前に、俺は言葉を続けた。

「僕、陸上部の高杉って言います」

 少し怯んだ。

「あら、そう」

と答えた声が尖っている。

自分の勘を信じてもいいのもしれない。俺は自分自身を心の中で励ました。

「先輩の代わりに走ることになったんですけど」

一旦言葉を切って、相手を見る。

引越し作業のためか、ひっつめた髪は明るい茶色。赤い口紅がなんだか攻撃的だ。やっぱり、熱帯のケバい鳥をイメージしてしまう。

俺たちは、新井先輩の家に来たのだった。


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