第3話

その後、二区を走ったんだけど、すっかりやる気が空回りした俺は、後ろを走る新井先輩の、ペース配分を心配するアドバイスなんて全く耳に入らない状態で、前半ガッツリ走ってしまい、後半バテて大失速。五人に抜かれて、ヘロヘロになりながら、三区の走者にタスキを渡した。


 数日後、事件が起こった。

 タスキが無くなったって言うんだ。

「どう言う事だよ。試走会の時に使ったじゃないか」

 俺は昼休み、良平と屋上で額をくっつけるようにして話し合っていた。

「それが、顧問の田中が昨日タスキの入った桐の箱を開けたら、無くなってたんだと」

 良平が焼きそばパンを頬張りながら眉をひそめて見せた。そう、ウチのタスキは桐箱に入れて保管されてるんだ。

「大会まであと三日だろ。どうするんだよ」

別に周りに人がいる訳じゃないんだけど、声を潜めて聞いた俺に良平が答える。

「新しいタスキを用意して、主催者側にタスキを認証してもらうとか。伊藤先輩が言ってたかな。でも、田中は元からのタスキにこだわってるみたいでさ。伝統とかなんとか」

「どこかに置き忘れたとか」

「使い終わって、桐の箱に田中が入れたんだって。それが無くなってるから、大騒ぎなんだよ」

 この時はただの紛失事件だったんだ。俺らの、えーと、俺と良平の認識としては。それが変わったのは、放課後。佐々木がわざわざ俺のクラスに顔を見せた時だった。クラスの扉の向こうから佐々木に手招きされた俺は、女子たちの視線を背中に感じつつ、奴に近づいた。

「高杉さあ、里田って女子、知ってる?」

 なんだよ、突然。

「え、まあ……。知ってるけど、そんな仲が良いと言うわけでも無い」

「ハッキリしないな」

 佐々木がイライラとつま先で床を蹴る。俺は思った。カルシウム足りないんじゃないの。

「里田さんはさ、畑中っていう奴の友達なんだよ」

「なになに?私に用?」

 わっ、畑中……。いきなり現れるなよな。

「里田って子がさ」

 佐々木が言いにくそうに言葉を切って、俺と畑中の顔を交互に見た。ハッキリしないのはお前の方じゃないか。

「タスキを盗んだのは自分だって言ってきたらしい」

「ええっ! そんなこと絶対にないよ。奈緒に限って絶対ない!」

 畑中が佐々木の方に身を乗り出した。その分佐々木が廊下側に後退する。

「……本人が言ったっていうんだぜ。そしたらさ」

 また、佐々木が言葉を切った。唇を舌で湿らせてから続ける。

「今度は新井先輩が、盗ったのは自分だって名乗り出てきたっていうんだ」

「なんだそりゃ」

 思わず言ってしまった。

「で、二人とも、今はタスキを出せないって言っているそうだ」

 俺と畑中は顔を見合わせた。

「つまりそれって、お互いにかばい合っている、とか?」

 佐々木が俺の問いに首を傾げた。

「んー、どうかな。それでも、何かなかったら、わざわざ盗んだなんて言いださないだろ」

 うーん、確かに。

 畑中がちょんちょんと、俺の糧をつついた。

「二人に話を聞きこうよ、高杉君」

 お、俺?

 当然といった雰囲気で腕を組み、畑中が俺をみた。

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