抗う者達

実はこの時、既に自衛隊も指揮系統はズタズタだった。文民統制の根幹たる政府も国会も化生共の襲撃を受け、総理も副総理も防衛大臣も死亡し、国会議員も半数以上が死亡、あるいは行方不明となっていた。それどころか、統合幕僚長すら既に殉職。その為、部隊はそれぞれ独自の判断で行動するしかなかったのであった。


この異常事態が始まってから約一時間の時点で、陸上自衛隊の六十パーセント、航空自衛隊の八十パーセントが損耗していた。


だがそれに対して、海上自衛隊の損耗率は三十パーセントほどにとどまっていた。化生共は人間が多い地域に集中して現れた為、過疎地域や地方の港、海上にはそれほど現れなかったのである。


これにより、港を離れていた海上自衛隊のイージス艦は、陸空の自衛隊からの支援要請を受ける形で攻撃に参加していた。その中には、ミサイル誤射案件で凍結されていたイージス艦もあった。許可を得ようにも政府が既に機能していないので、事態終息後に改めて処分を受けることも覚悟の上で、艦長以下乗員達が集まり運用されたのだ。


しかし、本来は対地攻撃を想定していないイージス艦ではできることは限られており、対艦誘導弾や対空誘導弾などを地上に向けて発射するなどの強引なことはやってみせたが、後はできるだけ陸地に近付き単装砲や機関砲で援護射撃をする程度のことしかできず、隊員達は悔しさで唇を噛んだ。しかも陸地に近付いたことで、ロヴォネ=レムゥセヘエなどのデカブツに捉えられて攻撃を受け、破壊されたものもあった。


それでも、自衛隊員達は諦めなかった。自分達はこの時の為に訓練を積んできたんだと己を奮い立たせ、急迫不正の侵略者から日本の国土と国民を守る為に戦った。


それは自衛隊員に限った事ではなかったがな。他の国でも、地域でも、人間達は皆、国家や大義名分ではなく、守りたい誰かの為に死力を尽くした。皮肉なことに、この瞬間は、それぞれの思想信条や宗教、思惑を超えてただ未曽有の危機に立ち向かったのである。


さらに、この戦いに参加したのは人間だけではなかった。私以外にもこの地球には、化生共とは毛色の違う超常の者達が居ついており、その多くが人間に対して愛着を持っていた。<光の使者>エルディミアンもその一つだった。


分類で言えばこいつも化生の一種になるのだが、地球や人類に対してやけにご執心であり、地球の守護者を自認していた変わり者だった。だが、その力は精々、ロヴォネ=レムゥセヘエと同等、真正面からやりあえばサタニキール=ヴェルナギュアヌェにも勝てん程度の奴だったがな。


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