何者か!?

新伊崎千晶にいざきちあきは、ドラゴンを操って戦っているうちに、妹が入院しているはずの病院の近くまで来てしまった。だからつい、立ち入ってしまった。


ドラゴンの方は任せていて大丈夫だろう。後れを取るような貧弱ものではなかったからな。


妹がいるであろう病棟に向かう途中にも、化生共はうろついていた。それをメヒェネレニィカの空間断裂で容赦なく切り裂き、さらに進む。


「……?」


だがその時、何か様子がおかしいことに新伊崎千晶は気が付いた。魔法によって高められた感覚に、紛れもない人間の気配が伝わってきたからだ。この先に、確かに人間がいるのだ。しかも銃声まで聞こえてくる。間違いなく人間が使う銃の音だ。


化生共を始末しながら近付き、壁の陰からそっと窺うと、そこには何人もの自衛隊員の姿があった。行き止まりになった病棟の奥で机やロッカーでバリケードを築き、生存者が立てこもっていたのだ。自衛隊員が五名。それ以外の入院患者と思しき人間が十名ほどいるようだ。


「…千早!?」


その人間達の姿を確認した新伊崎千晶が思わず声を上げた。そう、立てこもった人間達の中に、妹の千早の姿があったのである。しかも母の姿まで。


「何者か!?」


新伊崎千晶に気付いた自衛隊員が叫んだ。銃を構え狙っている。そんなものはまるで脅威ではなかったが、戦うつもりはもちろんなかった。


「私は人間です! 撃たないでください」


ローブのフードを取り、新伊崎千晶は手を上げ顔を見せつつ姿を晒した。するとそれに気付いた母親が、


「千晶!? 千晶なの!?」


と声を上げた。


「娘です! 撃たないで!!」


母親の声に、


「は、はい…!」


自衛隊員達は驚きつつも警戒を緩めた。


「千晶、あなたどうやってここへ!? その恰好は!?」


母親の質問攻めに、新伊崎千晶は苦笑いを浮かべつつ、距離を取ったまま応えた。


「私は今、ある人から力を与えられて怪物と戦ってるの。外にいるドラゴンは私が呼んだ援軍。今からここに、怪物が近寄れないように結界を張るから少し待ってて」


新伊崎千晶は、私が家に張っている結界を独自に調べて、それを魔法で再現することができるようになっていた。と言っても、私のものに比べればちゃちなものだが、並の化生程度なら十分に効果のあるものだった。


建物の構造物に消えないように魔方陣を焼き付け、結界を成立させる。


するとそこへ、ブジュヌレンが飛び込んできた。だがそいつは目に見えない壁に激しくぶつかり、ぐしゃっと頭が潰れるのが見えた。結界の威力だった。


「おお…!」


自衛隊員が思わず声を漏らす。


「これで、よっぽど強力な怪物が相手でない限り大丈夫です」


新伊崎千晶にいざきちあきは告げたのだった。


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