お前はどっちなんだ!
まったく……
その根性だけは大したもんだよ、お前。
<狂える母神>レゼヌゥケショネフォオアと化した
己の愛に殉じたということか。
「あ…あ……」
自分の目の前で醜い怪物の姿となった貴志騨一成が粉砕されるのを見た玖島楓恋の目に、涙が溢れた。レゼヌゥケショネフォオアに取り込まれ意識はない筈にも拘らず、触手の表面に辛うじて浮かび上がっているだけにも拘わらず、玖島楓恋は泣いた。
「おぉぉおおぉぉぉぉおおぉぉおぉぉぉぉーっっっ!!!」
玖島楓恋の口からは慟哭が迸り、それに応えるかのようにレゼヌゥケショネフォオアの仔らが私目掛けて一斉に飛び掛かる。それらを髪の刃で薙ぎ払い、私は吠えた。
「愛する男が死んで悲しいか!? だがお前の夫はハリハ=ンシュフレフアではないのか!? お前はどっちなんだ! 玖島楓恋か!? レゼヌゥケショネフォオアか!?」
だが今回、その言葉は届かなかったようだ。いや、たとえ届いていたとしても、ほぼ人間としての理性も失った今のこいつからすれば、私は愛する男を殺した憎い敵だろう。強い憎悪の対象には十分すぎる理由があった。
レゼヌゥケショネフォオアの太い触手が凄まじい速さで私の体を捉え、音速を超える速度で弾き飛ばされた。サタニキール=ヴェルナギュアヌェが起こした爆発の衝撃波を浴びて倒壊寸前だったとはいえビルを貫通し、その向こうのビルの壁に叩き付けられて、私の体はようやく停止する。体中の骨が粉砕されて内臓も殆どが破裂した。体の中はもはやドロドロのスープだった。が、そんなくらいでは私は死んでやらん。
地面に落ちつつ体を巻き戻し立ち上がろうとした私の隣に、一人の人間がうずくまっていた。ガードマンの制服に身を包み頭を抱え、必死に自分を守ろうとしていたのだ。
「……え?」
私はその人間に気付いた瞬間、奇妙な感覚に囚われていた。この状況には不釣り合いな、どこか気の抜けたような感覚だった。
「お前、広田じゃないか…!?」
思わず声に出る。私の視線の先にいたそいつは確かに刑事の
「こんなところで何をしてるんだ?」
などと、私も間の抜けた質問をしてしまったものだ。こいつが今川から言われていたこと、ガードマンの制服を着ていることからすれば、一目瞭然じゃないか。
「クォ=ヨ=ムイさん…!?」
広田の方も私に気付いて泣きそうな声でそう言った。お前、この状況で良く生きてたな。
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