謀られた!!

私が古塩貴生ふるしおきせいを探している間に、日本ではちょっとした騒動が起こっていた。海上自衛隊のイージス艦がミサイルを誤射したというのもそうだが、私達にとってはもっと身近な騒動だ。


それは、黄三縞亜蓮きみじまあれんが授業中に突然倒れて救急車で運ばれ緊急入院、そのまま子を産んだといういうものだった。


何故急にそんなことになったのか、考えてみればすぐに分かることの筈だった。にも拘らず私はサタニキール=ヴェルナギュアヌェに気を取られて失念していたのだ。カハ=レルゼルブゥアが予定を早めてでも出てこなければならなかった理由。


「くそっっ!! 謀られた!!」


私は、自分の迂闊さにブチ切れそうになっていた。この役立たずの頭を自分で叩き潰したいくらいだった。いくら<縛りプレイ>を楽しんでいたとはいえ、これはない。


「ここは任す! 好きにしろ!!」


影共やナハトムにそう言い放ち、私は空間を超越したのだった。




時間は少し遡る。


私がサタニキール=ヴェルナギュアヌェを探して向こうをうろついている頃、日本は相変わらずだった。経済的な影響を受け一部の人間は慌てふためいていたが世間の殆どはそれがどれ程のことか理解もせず、平和ボケの安寧を貪っていただけだった。


海上自衛隊のイージス艦の一件も、それがどれだけ深刻な話かというのを理解している人間などいない。異能力者の類でもな。


無論、それは月城こよみらも同様だ。私は日守かもりこよみとしての影を残し、しかもゆるく認識阻害もかけていたから、月城こよみを始め誰も私がいないことに気付いていなかった。山下沙奈は知っていたが、私の言いつけ通りそれを誰にも明かさず、私の帰りを待っていた。


だが、それは突然訪れた。


「肥土君…助けて…赤ちゃんが……」


授業中に、何の前触れもなく、黄三縞亜蓮が絞り出すようにそう言って倒れてしまったのだ。椅子から転げ落ちて床に倒れた彼女のスカートが濡れ、床に液体が広がっていく。他の生徒は「何々!? おしっこ!?」と声を上げたが、尿の臭いはなかった。羊水だ。破水したのである。


「黄三縞! 今、救急車を呼んだ。頑張れ!」


スマホを手にした肥土透ひどとおるが黄三縞亜蓮の体をさすりながら声を掛ける。こいつも既に、こういうことはあるかも知れないと考えていたのですぐに対処できるように心掛けていたのだ。とは言え、こんな時に素人ができることなど殆どない。とにかく救急車が来るまで待つしかなかった。


その騒動はすぐに他の教室にも伝わり、野次馬が集まってくる。それを掻き分け現れたのは月城こよみだった。その後に、赤島出姫織あかしまできおり碧空寺由紀嘉へきくうじゆきかもついてきた。


「亜蓮、しっかりして!」


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