捜索

「ちょっと出掛けてくる。しばらく戻らんだろうが、影を置いていくから何かあればすぐ分かるから心配要らん。あと、月城こよみらには黙っておけ。面倒なことになるからな」


サタニキール=ヴェルナギュアヌェの依代となった古塩貴生ふるしおきせいを探すためにそう言った私の言葉に、山下沙奈は、


「気を付けて行ってきてくださいね」


と笑顔で送り出してくれた。本当に可愛い奴だな。


碧空寺由紀嘉の実家に置いてある人形のようなそれとは違い、人間には違いがまったく見分けられない品質を保った<日守かもりこよみとしての影>を家に残し、私は空間を超越してもはやサタニキール=ヴェルナギュアヌェの国と化したそこに現れた。


そこは、先進各国がレアメタルの採掘権を牛耳ろうと、国際支援の名のもとに援助した近隣諸国の軍隊が睨み合うきな臭い場所だった。それぞれは近隣諸国による人的支援という名目ではあるものの、実質的には先進各国の代理という形だろう。なにしろ装備している武器が完全にそれなのだから。


さすがにこんなところで日本人の中学生の小娘がうろついていては目立って仕方ないので、私はブルカという、目すら見えないようにメッシュのベールで顔を隠し全身を覆うタイプの民族衣装を身に纏い、街を歩いた。しかし行き交う人間共はどいつもこいつも生気のない顔をしてまるで死霊のようであった。それは前線の兵士の一部にまで及び、だらしなく地面に座り込んでただ茶のようなものを飲んでいた。どうやらそれが今回奴が仕込んだものらしい。この地域で日常的に飲まれ、文化そのものでもある茶に奴は薬物を仕込んだのだろう。まったくいやらしい奴だ。


そんな中を、私は、サタニキール=ヴェルナギュアヌェと化した古塩貴生の姿を求めて歩いた。


しかし、今のこの国では私のように活発に動き回る人間はどうやら目立つようだ。何度も兵士に止められて何をしてるのかと問い詰められた。幸い、ブルカを脱がされるようなことはなく言葉もこの国のものを使えたことでそれは単に面倒臭いだけで大した問題ではなかったが。


『行方が知れない母親を探している』と言えばそれなりに同情もしてくれた。施しをしてくれた兵士すらいた。まあ、私には何の必要もないものだったものの、丁度、しつこく絡んでくる兵士を黙らせる為の袖の下に使えたので役には立った。いつの時代もどこにでもそういう奴はいる。


古塩貴生は上手く気配を隠してるらしく、なかなか尻尾を掴めなかった。そして数日が経ったある時、それは偶発的に起こってしまった。


「うわあぁぁああぁーっっ!!」


敵対勢力と睨み合う緊張感に耐え切れなくなった兵士が薬物で錯乱し、何を思ったのかたまたま通りがかっただけの私目掛けて戦車砲を放ったのだった。


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