人間と認識した上で
現代の日本に住む人間でも、たとえ自動車にやたらと入れ込んで大事にしてる人間でも、自動車に傷が付いたからといって自動車そのものを心配するような奴は滅多にいないだろう。あくまで自分の財物に傷が付いたのが許せないという、どこまでいっても自分本位の感じ方だ。
しかし、この時の
トレアにとってはそれがもうたまらない。とてつもない優しさに見えてしまうのだろう。
『ああ…私は、素晴らしいご主人様に買っていただけた。このご恩に報いなければ』
と思わせる程度には。
「このくらい大丈夫ですから」
改めてそう言った彼女は、泥が溜まって錆びついた鍋らしきものを手に取り、今度は角ばった石を拾って擦り付け始めた。錆を削り取ろうとしてるらしい。
その作業にはまったく躊躇がなかった。そんな風にするのが当たり前の世界だというのが分かる。
トレアのすることを呆気にとられて見るしかできなかった
もっとも、こいつに限らないことだろうが。
日が暮れ始めた頃、トレアは、
「ちょっと、川に行ってきます」
と行って、鍋を抱えて走っていった。
その後ろ姿を見送りながら、
『そんなこと言って逃げるんだろう?』
とも思ってしまった。そう思いつつも、
『まあ、厄介事が減ってくれるんならそれでもいいけどよ……』
所持金の半分を出して手に入れたことも忘れ、自嘲気味に笑みを浮かべた。
『……腹減ったな……』
朝、宿を出る前に食べた、昨夜とまったく同じメニューの朝食以降、宿屋で買った、牛の胃袋を使った水筒に入った水以外何も口にしてないことを思い出して空腹を感じつつも食事の当てもないことで仕方なくトレアが作ってくれたベッドに横になった。
灯りになるものもないのですぐに小屋の中は真っ暗になったが、それもどうすることもできない
が、その時、
「ただいま戻りました。食事の用意をしますのでお待ちください」
と声を掛けられ、ハッと体を起こした。小屋の出入り口のところに小柄な人影が見えた。
やや息を切らせながらトレアが重そうな鍋を抱えて帰ってきたのだ。
『まさか、帰ってきたのか……?』
正直、帰ってくるとは思っていなかったことで唖然としている
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