出逢い

しかし五分も歩くと、男は剣を持ち上げていられなくなった。無理もないか、肉体的には楽に暮らしてた現代日本人じゃあな。


剥き身のままでもってきてしまった剣では肩に担ぐことすら危なっかしくてできない。万が一それで死ぬような怪我を負ったところで死ねないから問題ないが、痛みは感じるし何よりこの時の男はまだ自身の<巻き戻り>について気付いていなかったしな。


だが、さすがにチュートリアルもなしじゃいささか不親切というものか。


という訳で、私はまた<自分>を作った。ちょうど男が歩いていた先にも人間の死体もあったことだし、それをそのまま利用して。


『ふむ…立身出世を目指して親の反対を押し切って村を飛び出した身の程知らずの若造か…名前はデイン。歳は数えで二十二。よしよし』


取り敢えず肉体だけを巻き戻し、その体の記憶を読み取る。巻き戻したから当然、この若い男も生き返ったのだが、邪魔なので本来の意識には眠っててもらおう。


「よう、御同輩。あんたも仲間とはぐれたのか?」


愛想のいい人懐こい笑みを浮かべて、剣の切っ先を地面に突いて杖にして歩いていた男に声を掛ける。


「!?」


突然現れた、粗末なとはいえ鎧らしきものをまとい腰に剣を差した見ず知らずの人間に、男はビクっと体を竦ませて警戒の姿勢を見せた。


何とか剣を構えてみせたが、腰が引けていて実に不格好だ。そんなんじゃ犬っころ一匹殺せんぞ。しっかりしろ。


「まてまて、俺は敵じゃないよ。たぶん。仲間とはぐれて困ってたところなんだ。あんた、兵士じゃないだろ? 見かけない格好だから、旅人かなんかかな? それで戦に巻き込まれたってところか? 取り敢えず俺も町に戻ってそれから出直そうと思ってるんだ。そのついでにあんたのことも町まで送り届けてやるよ」


「……」


このデインという人間の記憶を基にした口から出まかせではあったものの、私は男にそう提案する。


すると男は、訝し気にデインを見ながらも、


『……当てもないしな……』


と算段が働いたようだった。


「分かった……」


とは応えつつ、同時に、


『こいつ……日本人じゃないよな……? なんで日本語で話してんだ……?』


という疑問が頭をよぎっていた。さすがにそれは気付くか。まあ、その辺は<お約束>ということでサービスだ。言葉の意味が頭に入ってくるようにしただけで、別に日本語を話してるわけじゃない。


よく見れば口の動きと会ってないのが分かるはずだ。が、さすがにまだそこまで気付くほどの余裕はないか。


「俺はデイン。クレラ村のデインだ。あんたは?」


「……藍繪正真らんかいしょうま……」


「ランカイショウマ? 変な名前だな。まあいいや。ついて来いよ」


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