人間の性分
だからその正体不明の不可解な生き物のことも、まるで子猫でも見たかのように『可愛い♡』と感じ、躊躇なく近付き、手に取ってしまったのだった。
「あなたはどこから来たの…?」
頬を染め、キラキラと輝く目で自分の手の上で蠢く正体不明の<何か>に問い掛ける来埋亜純の姿は、ただの可愛い物好きの少女のそれであった。さっきまでビクビクと怯えていた小動物のような姿などどこにもない。
まあそれも結局、自分が支配下に置けそうなものが相手なら精神的な余裕が持てるという人間の性分そのものなのだろうがな。
とは言え、外見だけで判断して油断するというのも、人間の悪癖か。
自分が手にしたものが何なのかということさえ深く考えることせず、来埋亜純はその正体不明な<何か>を、自身のバッグに潜ませて自宅へと持ち帰ってしまった。
「本当に何だろう? これ。まあでも可愛いから何でもいいか♡」
兄に頼まれて回収した私物は言われた通り兄の部屋に置いて、早々に忘れることにした。今はそれよりも、部室で見付けたこの可愛らしい生き物のことで頭がいっぱいだった。
「<にゅむ>…そうだ、名前は<にゅむ>にしよう! よろしくね~、にゅむ~♡」
……なんとも独特なネーミングセンスだな。
さりとて、本人が満足しているのであれば好きにすればいいことか。
来埋亜純は、<にゅむ>と名付けたそれのために、空いていた水槽を用意し、そこに交換用として取り置きしてあった土と木の枝と、冷凍コウロギと、よくクワガタやカブトを飼う時にいれるような木と、レタスの切れ端を入れた。
何を食べるのかが分からなかったので、取り敢えずイモムシやナメクジ辺りを飼う時の要領を基に、肉食だった場合のことも想定して冷凍コウロギを置いたのである。
実に手慣れた様子だった。
当然か。来埋亜純の部屋を見渡すと、そこには、所狭しと大小様々な飼育ケースや水槽が並び、その中にはそれぞれ、小さなヘビ、カエル、ナメクジ、毛虫、イモムシが入っていたのだから。
たっぷりと水を張った水槽には、アメフラシとナマコ、アホロートル(俗にウーパールーパーと呼ばれるやつだな)の姿もあった。
およそ『女の子らしい』とは言い難い部屋だっただろう。
が、そんなものは別にどうでもいい。他人に害を与えなければ好きにすればいい話だ。両親も娘の異様な趣味は承知していものの、娘には何も期待していなかったので好きにさせていたのだった。
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